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「どっちかがどっかで待機してて、もう1人が会場の様子を探るんだろーな」


オレもそう思う。恐らく、ももしおがパンダ係でねぎまが偵察担当。

最初からももしおがパンダを抱っこしてたってこともある。でも、それだけじゃない。

ももしおは印象が強すぎて、人目を惹きすぎる。顔が小さすぎる手足が長すぎる細すぎる、骨格のバランスが日本人離れし過ぎている。超絶美少女なだけじゃない。

ねぎまだって目立つ方だが、ももしおほどじゃない。


「じゃ、会場をうろついてる方を探すしかないよな?」


そんな闇雲な方法しか、オレには思いつかなかった。



会場案内マップに一筆書きでルートを描いた。もう1枚の会場案内のマップにも、全く同じルートを描き込む。2人でこの両端から探して行くという方法。見つけたら、そのルートで連行してもう一人と落ち合う。


GO。




会場は広く、順路なんてない。各々が興味のあるブースへ行けるようになっている。大まかに、生活用品、化粧品、食品、衣類と分野ごとにかたまっていてはいるが、基本、好きに動けるよう、イリーガルに仕切られている。ブース毎に広さも違い、整然と並べるには無理があるのだろう。


オレは食品のところから見て行った。品物は見ずに観客を見て行く。それから、段ボールなど隠したくなるようなものがあるかどうか。


生活雑貨のところでは、物販ライブをやっているブースもあった。中国訛りの日本語で「売れた! こっちも売れた! これソールドアウトね」なんてDJみたいに騒がしい。そこには大勢の人だかり。背伸びをして探す。ももしお×ねぎまの頭はなし。

次々に探していく。目を皿のようにして。

華々しい会場には、パンダを隠せそうな段ボール的なものすら見当たらなかった。



結論。見つけられなかった。

広い会場のほぼ真ん中で、ミナトとオレはばったり会った。


「どこにいるんだよ。くそっ」


会場のど真ん中にはステージが設けられていて、バックに天安門広場の絵。

オレ達はそのステージの前に立ち尽くし、途方に暮れた。


「人多過ぎ」



11時7分前。

ステージの上に舞台セットのようなものが運ばれてきた。ショーは、11時、13時、15時からの1日3回とパンフレットにある。何やら大掛かりな中国風の五重塔のようなものが置かれ、椅子が5脚並べられた。見ている暇はない。


オレ達は知っている。他に観客が気を取られたときが、最大のチャンスだってこと。

ショーが始まって観客がそっちに行ったら、ももしお×ねぎまは動くかも。


チャイナドレスを着た美女が5人ステージに上がり、二胡を演奏し始めた。その演奏を聴きながら、ミナトとオレは、人が少なくなるだろう、舞台の裏側方面のブースを見て行く。


いない。


二胡の速くなるフレーズが焦る気持ちを駆り立てる。


ひょっとしたら、こんな風にパンダを探してるのはオレ達だけじゃないかもしれない。

トラックの運転手や動物ブローカーの組織だって探してるだろう。よく分かんねー『人しかやらない』なんて言ってたヤツの同業者だって探してる可能性もある。


危ねーんだよ。

分かれよ。

自主して人生に汚点がついたって、命だけは警察に守ってもらった方がいいだろ?


親に怒られたくないからフンボルトペンギン置いてきたのと、訳がちげーんだよっ。



小さな罪を1つ犯して、オレ達は罪の意識ってやつに鈍感になったのか?

違う。

オレには罪の意識なんて最初からほぼない。「善悪の定義」が絶対じゃないんだから。

状況によって、視点によって、善か悪かは七変化。そんなものに神経をすり減らすなんてバカげてる。



「宗哲、もう1回考えよう。ここには来てないかもしんねーじゃん」


ミナトの顔には疲れが見えた。


「だな」


ミナトの言葉を肯定したものの、オレには、この建物のどこかにいるっていう確信めいたものがあった。けど、取りあえず水分補給。

自動販売機を求めてエントランスに出た。


会場がでかいからトイレだけじゃなく、出入口もいっぱいある。


「なー、2階から人いっぱい来るよな」


エントランスには階段があって大勢の人が上から降りて来る。ミナトはここにコンサートで来たことがあるらしく、駅から歩いてくると2階の出入口に到着するのだと教えてくれた。船て乗り付けたオレ達が利用したのは1階の出入口。


「あ」

「どした? ミナト」

「2階にもトイレある」


2人で人の波に逆らって2階へ駆け上って行った。


あった。トイレ。

2階には3か所。人目につきたくないんだから、使うとしたら隅の方だろう。


「な、ミナト。あっちの方、自販機あるじゃん」

「知らんかった。オレ、コンサートで来たときコンビニ使ったし」


コンビニはオレが「あっち」と言ったのとは逆方向にある。


自動販売機は、フロアの1番隅。その隣には行き場をなくしたかのように建物の隅に追いやられた喫煙所があった。

喫煙所はガス室のように仕切りで区切られた向こう側。その手前に自動販売機のコーナーがあって、そこには青い布のソファが並んでいた。1番隅のトイレはその後ろの通路を曲がったところにある。


自動販売機コーナーには大きな液晶画面があった。

液晶画面には、会場内の様子が映し出されている。ちょうどショータイムということもあって、流れていたのは雑技団のアクロバットショー。



ガコン


ガコン


アクエリ500mlを1本。体に補給。

オレは女子トイレからももしお×ねぎまが出てこないか気にしながら、画面の雑技団のパフォーマンスを見た。


雑技団は新体操のように動いて技を披露する。流れるように宙返りし、人の上に人を乗せる。3人のタワーが作られた。

あ、これ、ねぎまと船から見たやつじゃん。


カメラがズームすると、1番上に乗っていたのは顔の原型が分からないような化粧をした女の子だった。

小顔で細くて手足が長い。でもって、若そう。10代に見える。その子だけじゃない。他の演者も10代に見えた。


「どーする?」

「探すしかねーじゃん」


ミナトの言葉に、当たり前のように返すオレ。策はなし。

アクエリのペットボトルを持つオレの手には『ケイサツにいかないで』のピンクの文字が剥がれかけている。


「これ、消えねー」


オレがごしごしと手の甲を服でこすっていると、


「それ、たぶんネイル。専用の落す液があるんだよ」


と女のことを何でも知っているミナト師匠が教えてくれた。博識すぎっす。


「ちょっと取れた」


ところどころ剥がれるように落ちて『ケ  ツにし ないで』と読める。

たぶん、オレ、そっちの趣味はないと思う。って、なんのことだよ。


大きな液晶画面に映し出される雑技団の演舞では、1番上だった女の子が逆立ちした後、肩に立った状態になり、くるんと宙で回りながら跳びおりた。下りる時にどういった仕掛けなのか、はらりと五重の塔の一部分の壁がなくなった。


大きな五重塔の中には、Welcomeの旗を口に咥えたパンダ犬。

雑技団の1人が、舞台に設置された階段を上って扉を開け、パンダ犬を取り出し、抱きかかえる。


「は?」

「なにあれ?」


ミナトもオレも目が点。確かにもこもこした仔犬。けど模様がパンダ。


「あー、アレ、チャウチャウだよ。白のチャウチャウをパンダの模様に染めてるヨ」


中国訛りの日本語で教えてくれたのは、禁煙室から出てきた男。タバコ臭っ。この人、さっき物販ライブやってた人じゃん。


「そうなんですか」


教えてくださってありがとうごさいます的に目を見ると、カラコン。ちゃら。


「もう1頭いる。午後1時からのセレモニー用に」


内情通なんだぜって感じのタバコ臭いカラコン男。


「セレモニーがあるんですね?」


パンダ犬は画面の中でスーツ姿の男性に手渡されていた。オレは、男がもっと情報をくれないかと首を傾げながらカラコンの目を見つめた。


「今のは、日本にいる中国の役人。1時からのパンダ犬は……あっと、時間だ。

 下で美顔器売ってるから、来てね。じゃね」


カラコン男は階段の方へ早足で歩いて行った。

ウインクされたし。ウインクする人ってホントにいるんだ。


「オレら、美顔器は買わねーよな」


ミナトが笑った。

張りつめていた気分がちょっと緩む。


オレは別のことを考えていた。


パンダ犬とパンダをすり替えるとか。すっげーあの2人の好みっぽい。


「なー、ミナト。あの五重塔って、どっかから運ばれてたよな? オレ、次のセレモニーで、パンダ犬がパンダにすり替わる気ぃするんだけど」

「もし今の雑技団見てたら、ももしおちゃんとねぎまちゃんが考えそうだよな」

「だろ?」


ミナトだってそう思うんだ。


「宗哲、2人がそうしたいなら、協力する?」


ミナトがとんでもないことを言いだした。


「は? 協力?」

「みんなの目の前にPが晒されたらさ、抹殺するわけにいかないじゃん」


確かに。

それにしても「抹殺」なんて物騒な単語、ミナトらしくない。そして、またまた出た隠語P。ペンギンのPはパンダのP。


「協力したくても、連絡がとれねーじゃん」


オレはしゃがんで頭を抱えた


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