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だって僕はNPCだから 3rd GAME  作者: 枕崎 純之助
終幕

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最終話 舞踏会の夜に

「ふぁ~あ。今日はヒマだなぁ」


 闇《やみ》の洞窟《どうくつ》の最深部。

 いつもの仕事場で僕は大きな欠伸《あくび》をしながら、誰もいない洞窟《どうくつ》の中を見回した。


 僕らが天国の丘(ヘヴンズ・ヒル)への遠征から戻ってから3日が過ぎていた。

 昨日まではミランダとの対決を求めてやってくるプレイヤー達で賑《にぎ》わっていたんだけど、今日になってから急に客足が落ちて、朝から誰1人として訪問者のないまま夕方を迎えていた。

 僕もいつもの定位置である兵士の詰所《つめしょ》に立ったまま、お決まりのセリフも言えずに無為《むい》な1日を過ごしていたんだ。

 あまりに退屈なせいか、朝は闇《やみ》の玉座でふんぞり返っていたはずのミランダも、昼過ぎくらいからどこかへいなくなってしまっていた。


「久しぶりだなぁ。こんなふうに1人になるのは」


 昨日まではミランダはもちろん、ジェネットとアリアナもこの洞窟《どうくつ》に住んでいるので4人で賑《にぎ》やかだったけれど、今朝からジェネットとアリアナは出かけていた。

 僕は久々の静けさに身を委《ゆだ》ね、ぼんやりと虚空《こくう》を見つめる。

 前はこれが当たり前だったんだよね。

 いつしか僕の周りには人が増え、僕自身も賑《にぎ》やかさを徐々に心地良く感じるようになっていた。


 僕は変わったのかな。

 もし彼女たちと離れることになったりしたら、きっと寂しく思うんだろうな。

 以前は1人でいることを寂しく思うなんてことはなかったんだけど。


 そんなことを思っていると、誰かが洞窟《どうくつ》の通路からこちらに歩いて来るのが見えた。

 来訪者の訪問を告げる警報が鳴らなかったのは、それがここの住人であるジェネットだったからだ。


「ジェネット。おかえり……あれ?」


 帰って来たジェネットはいつもの法衣姿ではなく、黄色のドレスを身にまとっていた。

 その美しさに僕は息を飲む。


「ど、どうしたの? そのドレス……」


 僕がそう言うとジェネットは少し頬《ほほ》を赤く染めながら、恥ずかしそうに言った。


「今朝、城下町で新調したのです。いかがですか? 変ではないでしょうか」

「へ、変なんてとんでもない。すごく……綺麗《きれい》だ」


 僕が首を横にブルブルと振りながらそう答えると、ジェネットは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


「あ、ありがとうございます。よかった。それで、あの……アル様」

「ん?」

「こ、今夜のイベントなんですけど……アル様は誰かと一緒に行かれる御予定は……」

「イベント? 今日って何かあったっけ?」


 僕が首を捻《ひね》ると、ジェネットは焦《じ》れたように両手を組み合わせて言う。


「御存じないのですか? 今日は……」

「ちょっと待ったぁ!」


 その声はアリアナ……ええっ?

 振り返った僕はさっきよりも驚いてしまったんだ。

 駆け込んできたのは紛れもなく魔道拳士アリアナだったけれど、いつものような手甲も武闘着も身に付けておらず、代わりに青く色鮮やかなドレスを着ていた。

 ア、アリアナのスカート姿なんて初めて見たよ。

 靴も珍《めずら》しくハイヒールだし。


「ア、アリアナまでどうしたの?」


 彼女は頬《ほほ》を上気させて言う。


「今日の私は武道家じゃなくて舞踏《ぶとう》家だよ! アル君!」


 な、何の話かな?

 意味が分からずに困っていると、ジェネットがアリアナに向かって静かに言う。


「アリアナ。私の方が先にアル様と話していたのですよ。私の用件を済ませてから……」

「ジェネット。アル君を今夜の舞踏《ぶとう》会に誘う気なんでしょ。先に行くなんてズルい!」


 舞踏《ぶとう》会?

 今夜はそんなイベントがあるのか。

 なるほど。

 そっちに人が流れて……だから今日はあまりこっちに人が来なかったんだな。

 詰め寄るアリアナにジェネットは少し拗《す》ねたように口を尖《とが》らせた。


「ち、違います。私は今夜そうしたイベントがあることをアル様にお知らせして、その上でアル様にお誘いいただけたら……う、嬉しいなと」

「ふ、ふーん。じゃあアル君はまだジェネットのこと誘ってないわけだ」

「そ、それはこれから……」


 何かを言いかけたジェネットに構わず、アリアナはガバッと身を翻《ひるがえ》して僕に手を差し出してきた。


「アル君! 私と一緒に舞踏《ぶとう》会へ行って下さい!」


 ……ファッ?

 突然アリアナからそう言われ、僕は困惑してしまう。


「へっ? ぼ、僕? い、いや僕、舞踏《ぶとう》会なんて行ったことないし……」


 女子に急に誘われてどうしたらいいか分からず、僕は情けなくオロオロしてしまう。

 そして僕以上にオロオロしているのはジェネットだった。


「ア、アリアナ。女性から誘うなんて少しはしたないんじゃ……」

「そ、そんなことないよ。まったくジェネットは頭が固いんだから」


 顔を若干《じゃっかん》引きつらせながら、本来気弱なアリアナは強がっているかのように腰に手を当てて胸を反《そ》らす。

 その時、洞窟《どうくつ》内に警報が鳴り響いた。

 訪問者の来訪を告げる合図だ。


「アルフレッドいるかぁ?」


 遠くから聞こえてくるこの声は……ヴィクトリアだ。

 彼女とノアはこっちの世界に戻って来てから、それぞれの家へと帰っていったんだけど、またここに遊びに来てくれると言っていた。

 でも……今日のヴィクトリアは様子が違っていた。

 いつもは鎧《よろい》に身を包んで鍛《きた》え上げた肉体を誇る彼女だけど、今日は深紅のドレスに身を包んでいたんだ。

 そして普段は化粧《けしょう》っけのない顔に、今日は綺麗《きれい》なメイクを施している。


「よ、よう。アルフレッド。元気そうだな」


 声を詰まらせながらそう言うヴィクトリアの顔は真っ赤だった。

 慣れない衣装に照れているみたいだ。

 そ、それにしても……僕は声を失ってヴィクトリアをじっと見つめた。

 そんな僕の様子に、ヴィクトリアは自嘲《じちょう》気味に俯《うつむ》きながら言う。


「へ、変だろ? ア、アタシなんかにドレスや化粧《けしょう》なんて似合うわけねえのに。まるで仮装行列だよなぁ。こ、これは出オチのギャグだからなギャグ。思い切り笑ってくれていいぞ」

「い、いや。違うんだヴィクトリア……」


 僕が声を出すのも忘れて見入っているのは……彼女がビックリするほど美しかったからだ。

 しかもヴィクトリアの美しさはジェネットやアリアナのそれとはまるで異なる。

 長身の彼女が色鮮やかなドレスを身にまとい、背すじをピシッと伸ばして立つその姿は、強さと美しさを併《あわ》せ持った女神のようだった。

 僕はその姿にじっと見入ったまま声を漏らした。


「に、似合ってるよ。すごく……綺麗《きれい》だ」


 僕が貧弱なボキャブラリーで紡《つむ》ぐ言葉に、途端にヴィクトリアがますます顔を赤くして目を白黒させながらアタフタする。


「う、嘘《うそ》つけ! お、お世辞《せじ》にもほどがあるぞ。似合うわけねえだろ。こんなの、アタシがこんなの……」


 そう言って声を詰まらせるヴィクトリアに、ジェネットとアリアナが近寄っていく。

 2人は目をキラキラとさせて、ヴィクトリアの着飾った姿を見ながら口々に言った。


「そんなことありませんよ。ヴィクトリア。ステキな色合いのドレスですね。とてもよくお似合いですよ」

「ヴィクトリアは元が美人さんだもんね。オシャレすればそれは綺麗《きれい》になるよ。いいなぁ。背が高いとそういうドレスも似合うから」

「そ、そうか? このまま外を歩いても笑われないか?」


 女子2人に誉《ほ》められて赤面しつつ、自分の服装をチラチラ見ながらようやくヴィクトリアは少し落ち着きを取り戻したみたいだ。

 ドレスとかお化粧《けしょう》のことなんかまるで分からない僕の貧相な誉《ほ》め言葉なんかより、女子目線の感想のほうがよっぽどいいよね。

 そんなことを思いながら微笑む僕の腕をヴィクトリアはグイッと掴《つか》む。


「よ、よし。ジェネットとアリアナのお墨《すみ》付きをもらったから、このまま出かけるぞ。アルフレッド。舞踏《ぶとう》会に殴り込みだ!」


 ……ファッ?(本日2度目)

 目を点にする僕の前方ではジェネットとアリアナの表情がサッと一変する。


「ヴィクトリア……いま何と?」

「ヴィクトリア……あなたもなの?」


 殺気立つ2人の表情を見て思わずヴィクトリアがたじろいだ。


「な、何だよ。ドレス誉《ほ》めてくれたじゃないか」

「それとこれとは話が別です!」

「アル君は私と出掛ける予定なんだよ!」


 いや、ちょっと待って。

 モメ始めた3人に僕は慌《あわ》てて声をかける。


「さ、誘ってくれるのは嬉しいんだけど、僕、舞踏《ぶとう》会なんて行ったことないし、下級兵士の僕には恐れ多いというか場違いというか……」


 僕がそう話していると再び訪問者の来訪を告げる警報が鳴り響いた。

 次にそこに現れたのは緑色のドレスに身を包んだ1人の女性だった。

 その女性はつばの広い帽子を目深にかぶっているため、顔がよく見えない。

 その服装からすると、ミランダとの対戦を求めてやってきた人ではないだろう。

 ジェネットたち3人も顔を見合わせて首を捻《ひね》る。


「あの……どちら様ですか?」


 僕がそう尋《たず》ねると女性は帽子をパッと脱ぎ捨てた。

 あれ?

 こ、この人……。

 見覚えのあるその顔に僕はハッとした。


「迎えにきたぞ。アルフレッド」

「ノ、ノア……」


 そう言ったのは竜人ノアだったんだ。

 大人の姿だからすぐにピンとこなかったんだけど、それは変幻玉で変身した時に見た、大人の女性になったノアだった。

 そ、そうか。

 また変幻玉を使ったんだな。

 大人姿のノアはどこからどうみても美人で、人間の女性とはまた違う神秘的な美しさを漂わせている。


「ノア! おまえ何しに来やがった!」

「ん? 誰かと思えばヴィクトリアではないか。馬子《まご》にも衣装と言うが、いくら見てくれを着飾ったところでその粗暴な物言いを直さぬと、イノシシ女であることがバレるぞ?」


 ノアの無遠慮な言葉にヴィクトリアがますます怒りを募《つの》らせる。


「うるせえっ! さっさと帰れ!」

「断る。ノアはアルフレッドを迎えに来たと言うておろうが。舞踏《ぶとう》会には御供《おとも》が必要であろう?」

「後から来て図々(ずうずう)しいぞノア!」

「いや、ヴィクトリアもだからね? アル君は私と行くんだってば」


 さ、さっきまでの和《なご》やかなムードが一転して、何だか険悪な雰囲気になってきたぞ。

 こんな時に険悪をこよなく愛するミランダがいないのは不幸中の幸いだ。

 そう思って僕がチラッと闇《やみ》の玉座を見ると……いつの間にかそこに闇《やみ》の魔女が座っていらっしゃった。


 ひいいっ!

 ラスボス登場!

 そしてミランダはやはりいつもの黒衣ではなく、黒のドレス姿だったんだ。

 舞踏《ぶとう》会に行く気満々!


 そのミランダは玉座の肘《ひじ》かけに頬杖《ほおづえ》をついて面倒くさそうにこちらを見ていると思ったら、おもむろに彼女は指先をこちらに向けた。

 ま、まさか……。

 そう思った時には轟音が鳴り響き、彼女の指から黒炎弾《ヘル・バレット》が放たれた。

 

 黒く燃え盛る火球は、言い争う4人の女子たちの頭上を通り抜けて壁に炸裂した。

 驚く4人の視線が一斉にミランダに集まる中、彼女は朗々たる声を発する。


「あんたたち馬鹿じゃないの? アルは私の家来なんだから私と行くに決まってるでしょ。あんたたち4人はここでドレスの品評会でもやってなさい」


 ミランダの挑発的な言葉を聞いた4人の少女たちの目つきが変わった。

 や、やばいぞ。

 そう思い僕が青くなっていると、ヴィクトリアがいきなり嵐刃戦斧《ウルカン》を取り出して、それを肩に担《かつ》ぎながら言う。


「そうか。5人もいるからアルフレッドが迷うんだな。なら4人がいなくなれば残りは1人。アルフレッドも迷わずに済む。簡単な引き算だ」


 へっ?

 どういうこと?

 唖然とする僕の前でジェネットとアリアナとノアもそれぞれの武器を取り出した。

 ちょ、ちょっとちょっと……。


「ヴィクトリアの言う通りですね。アル様のためにも邪魔な4人には消えていただきましょう」

「そうだね。アル君が目移りしちゃうのは5人もいるからだよね。いらない4人は退場だね」

「同感よの。手っ取り早く殺し合い(バトル・ロイヤル)といこうではないか」


 バ、殺し合い(バトル・ロイヤル)……。

 何て物騒な。

 そんな優雅なドレスを着ながらやることじゃありませんよ!

 いきり立つ4人を見てミランダは玉座から腰を上げた。


「まったく馬鹿ばかりね。アルはそもそも迷ってないっつうの。まあでもいいわ。殺し合いましょうか」


 つい3日前には5人で一致団結して共闘していたはずの彼女たちが、今日は満場一致で殺し合い!

 いや、僕この後、この殺し合いの勝者と舞踏《ぶとう》会に行くの?


「よくぞ勝ち残った。では舞踏《ぶとう》会にGO!」


 ってなるわけあるか!

 僕は慌てて皆をなだめにかかる。


「も、もうやめようよ。せっかくのドレスが汚れちゃう……」


 だけど僕がそう言いかけたところで戦いが始まってしまい、魔法が飛び交う。

 そして5人の元へ踏み出そうとした僕は……黒炎弾《ヘル・バレット》を浴びて黒焦げになった。


「ぐえっ……ごふっ」


 お、おおう。

 ま、まさかの流れ弾被弾。

 最初の犠牲者は……殺し合いに参加していない僕だった。

 こ、こんなのアリか!

 崩れ落ちた僕は遠のいていく意識の中、理不尽な運命を感じつつ、神に祈るのだった。

 

 神様。

 次に僕に何か特殊な力が目覚めるとしたら、気性の荒い彼女たちを穏《おだ》やかにする魔法を覚えさせて下さい……ごふっ。 

 

 完

ここまでお読みいただきまして本当にありがとうございました。


『だって僕はNPCだから 3rd GAME』はここで完結となります。


お付き合いいただきました皆様に、心からの感謝を。


いつかまたアルフレッドたちの物語を皆様にお届けできる日を楽しみにしています。


そして……NPCたちの物語は舞台を移し、次の物語へと進みます。


新作『どうせ俺はNPCだから』の制作を開始いたしました。

https://ncode.syosetu.com/n3316fi/ (先行して序幕のみ掲載いたします)


またよろしくお願いいたします。

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