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だって僕はNPCだから 3rd GAME  作者: 枕崎 純之助
第二章 天国の丘

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第9話 宴の後で

 僕の背中からアリアナの寝言が聞こえる。


「アル君。ムニャムニャ……」

「はいはい。もうすぐ部屋につくからね。アリアナ」


 慣れないお酒を飲んだためすっかり寝入ってしまったアリアナを背負いながら、僕はエレベーターを降りて廊下を歩き始めた。

 僕の隣には疲れを微塵《みじん》も見せずにシャキッと背筋を伸ばしたジェネットが歩いている。

 

「楽しい宴席でしたね」

「うん。あんなの生まれて初めてだよ」


 食べきれないほどの多くの御馳走《ごちそう》に、夜が更《ふ》けるまで続いた数々の余興《よきょう》。

 天使たちが開いてくれたまるでおとぎ話のような宴がお開きとなり、僕らは自室に戻る途中だった。

 おいしい料理も楽しい余興《よきょう》も初めてのことで一生忘れられないくらいだったけれど、僕にとって何より印象深かったのはミランダと天使長イザベラさんの摸擬《もぎ》戦だ。

 2人の激しい戦いは30分の時間切れを告げる鐘の音によって終わりを告げた。


 時間切れ引き分け。

 それが戦いの結末だった。

 

 だけど引き分けとは言ってもイザベラさんは3つある命のうち2つを残し、一方のミランダはライフが残り10%を切るまで追い込まれていたんだ。

 試合が終了したその時、イザベラさんは涼しげに微笑み、ミランダは戦意十分ながらも息を切らして疲労困憊《ひろうこんぱい》の様子は隠せなかった。

 もしあの勝負に判定があるのだとしたら、誰が見てもイザベラさんの勝ちだったろう。

 どうやら同じことを考えていたらしく、隣を歩くジェネットが口を開く。


「天使長イザベラ様。相当な達人ですね。私が戦っても結果は同じだったでしょう」

「そっかぁ。ジェネットから見ても、やっぱりイザベラさんはかなり強いんだね」

「ええ。初見であの方に勝つのは厳しいと思います。ただ、もし仮に第二戦目があるとしたら……ミランダはきっと別の結果を出すと思いますよ」

「え?」


 ジェネットの口ぶりに僕は驚いて目を向けると、彼女は確信めいた笑みを見せた。


「アル様も御存じの通り、ミランダが持つ一番の強さは魔法の威力でも魔力量の多さでもなく、戦闘中に臨機応変に立ち回れる抜群の戦闘センスです。闇《やみ》の魔女として一日も欠かすことなくプレイヤーとの戦いを続ける彼女が今まで積み重ねてきた経験が、彼女の土台となってその強さを支えているのでしょう」

「た、確かに……」


 ジェネットの言う通りだった。

 ミランダは戦いの駆け引きに長けていて、ここぞというところで戦況の流れを引き寄せるような一手を打つことがある。

 連日のように色々なプレイヤー達と戦い続けているミランダだからこそ、そうした百戦錬磨の強さを持ち得たんだろう。

 幾度かミランダと一騎打ちをしたことのあるジェネットもそれを感じていたってことだ。

 

「イザベラ様の命が3つあるのは確かに脅威ですが、初めからそれが分かっていればミランダは何らかの対処法を見せると思います。まあ二度目の対戦は無いでしょうけれど」

 

 そりゃそうだ。

 明日、僕らが戦う相手は悪魔たちだもんね。


「さて。アル様。アリアナはこちらで引き受けますよ。アル様も今日はもうお部屋でお休み下さい。明日も慣れないこの世界で一日過ごすわけですから、システムを休ませないと」

「そうだね。ありがとうジェネット」


 僕は眠りこけているアリアナを一度床に降ろし、それからジェネットの背中に背負わせた。

 それでもまだ眠り続けるアリアナを背負って苦笑するジェネットと別れて僕は自室に戻った。


 模擬《もぎ》戦を終えたミランダは僕らのいる宴席に戻ることなく、先に部屋に戻って休んでいるとのことだった。

 まああれだけ激しい戦いをしたらいくら彼女でも疲れるよね。

 それに結果が結果だけに僕らのところに戻りにくかったのかもしれない。

 機嫌が悪くなっていなければいいんだけど。

 そんなことを考えながら玄関の扉を閉めて、リビングのソファーに腰を下ろした。


「ふぅ。疲れたぁ。ようやくゆっくり……」

「遅かったわね。家来のくせに私を放っておいて、いつまで遊び呆けてるのよ」

「おわっ! ビックリしたぁ!」


 僕がソファーに腰を下ろすと、すぐ隣にはミランダがふんぞり返っていたんだ。

 彼女は横目で僕をチラリと見た。


「な、何してんの? ミランダ」

「休んでるんだけど。何か文句ある?」

「え、ええと。ここは僕の部屋じゃなかったっけ?」

「そうよ。別にいいじゃないの。あんたの部屋は私の部屋よ」

「ど、どこのガキ大将だよ。まったく」


 そう言いながら僕はミランダの顔を見た。

 その表情はさっぱりとしていて、憑《つ》き物が落ちたようだ。

 模擬《もぎ》戦で限りなく不利な引き分けに終わった彼女だったけれど、それを引きずった様子はない。

 僕は恐る恐る尋《たず》ねてみた。


「……イ、イザベラさん、強かったね」

「まあ、そうね。けど、ここで最高の実力者っていうからには、あのくらいじゃないと拍子抜けするところよ」

「全力で戦ってみてどうだった? 気持ち良かった?」

「ええ。久々にね。30分時間切れってのが気に食わないけど」


 そう言うとミランダは胸を張り、僕に右手の5本指を示すと鼻息荒く話を続ける。


「あと5分あれば劣勢を跳ね返して私が逆転勝ちするところが見られたのに。残念だったわね。アル」

「ミランダ……そうだね。ちょっと時間が足りなかったかもね」


 そう言いながら僕は思わず苦笑してしまった。

 つくづく僕も闇《やみ》の魔女に毒されているな。

 そこで僕はふと気になったことを口にした。

 さっきの模擬《もぎ》戦を見ていてミランダの行動でどうにも腑《ふ》に落ちない点があったんだ。


「そういえばミランダ。どうして悪神解放《イービル・アンバインド》を使わなかったの?」


 悪神解放《イービル・アンバインド》。

 それはミランダの上位スキルで、その土地に眠る悪神を呼び出して戦わせるという強力な魔法だった。

 それを使えば悪神を操って、数の多い小天使たちにも対抗できたような気がしていたから。

 だけど僕の質問にミランダは呆れたように答えた。


「馬鹿ね。ここは忌々(いまいま)しい天使たちの土地よ。悪神なんているわけないじゃない」

「あ、そうか……」

「悪神のいない土地じゃ、あの魔法は使えないのよ。だから今回はあらかじめカスタマイズで外してきたの」


 なるほど。

 ちゃんと考えてるんだね。

 いや、僕が考えなさ過ぎか。


「でも、それなら上位スキルは今どうなってるの?」

「ふふふ。実はね、新開発のスキルを実装してきたのよ」


 新開発のスキル?

 初耳だな。


「へぇ。どんなの?」

「教えない。とにかくすっごい魔法よ。かなり魔力も消費するから使い方に注意が必要だけどね」


 なるほど。

 見てのお楽しみってやつか。


「でも模擬《もぎ》戦で何でそれを使わなかったの? 魔力が足りなかったとか?」


 僕が尋《たず》ねるとミランダは少しムスッとしてフンッと鼻を鳴らした。


「魔力は十分に足りてたけど、あの時あそこで使うのは芸がないなって思ったからよ」


 芸がない?

 どういうことだろうか。

 何だかよく分からないけど、これ以上質問するのはやめておこう。

 怒らせちゃうだけだから。


「とにかくお疲れさま」

「で、どうだった? 私の戦いぶりは。感想を言いなさい。アル」


 おっと。

 そうきたか。

 多分これ、ミランダちょっと機嫌がいいんだな。

 そんな彼女に僕は素直な感想を伝えた。


「楽しそうだった。やっぱり強い相手と思い切り戦えるのは気持ちのいいものなんだね」

「それだけ? もっと他にないの? 格好良かったとか、家来として誇らしいとか」


 こ、これはマジメに答えないと怒られるパターンだ。

 僕はさっきまで見ていた模擬《もぎ》戦の様子を思い返す。

 イキイキとしたミランダの姿は見ている僕も嬉しかった。

 そして戦いの中にあるミランダの表情はとても綺麗《きれい》で僕はそんな彼女から目を離すことが出来なかったんだ。


 でもこれを本人に言ったらセクハラだとかドエロだとか言われて怒られること確定だから、言わずにおこう。

 それに……面と向かって綺麗《きれい》だなんて、恥ずかしくてとても言えないって。

 そんなことを考えていると、ミランダが僕の両肩を掴《つか》んで激しく揺さぶる。


「……あんた。何ニヤニヤしてるのよ。今、考えていることを正直に言いなさい!」

「あううう……な、何も考えてないって」


 そう言って誤魔化《ごまか》す僕に顔を近づけてミランダは僕の目をじっと覗《のぞ》き込む。

 ち、近い近い!


「嘘《うそ》おっしゃい。目を見れば分かるわよ。何か……エロいことを考えているわね」

「な、なぜそうなる。そんなことこれっぽっちも考えてないって」

「……本当に? 私の目を見て言いなさい」


 エロいことは考えていないけど、吐息がかかるほどすぐ近くで見るミランダの顔に僕は息も出来ないくらい見入っていた。

 こんなに近くで彼女の顔を見たのは初めてかもしれない。

 綺麗《きれい》な肌は健康的で、大きな瞳は金色に輝いていて宝石みたいだ。

 

 いつもならミランダの放つ重圧《プレッシャー》に耐え切れずに一刻も早くこの状況から逃げ出したいと思ってしまう僕だけど、今は、今だけは……時が止まってしまえばいいと思った。

 もっと彼女の顔を見ていたいと思った。


 あれ……この気持ち。

 何なのかな。

 僕は自分の胸の奥に灯《とも》る不思議な気持ちに戸惑いながら、彼女の目をじっと見つめる。

 するとミランダの瞳がわずかに揺らぎ、それを感じ取った僕は思わず彼女から目をそらした。

 急に恥ずかしくなって、まっすぐに彼女の目を見ることが出来なかったんだ。


「あっ! 目をそらすな!」

「ぐえっ!」

 

 ミランダはそう言って無理やり僕の顔を掴《つか》んで自分の方を向かせる。

 だけど僕が恥ずかしさに耐えて彼女の目を見ていると、やがてミランダも恥ずかしそうに頬《ほほ》を赤く染めて目をそらした。


「そ、そんな近くでガン見してんじゃないわよ……キモイっつうの」


 ど、どうしろと……。

 思わず内心でツッコミを入れる僕だけど、その時ミランダの肩越しに見えるベランダの外を何かが横切るのを見た。

 それは……見たことのない奇妙な生き物だったんだ。

お読みいただきまして、ありがとうございます。


次回 第二章 第10話 『侵入者』は


10月2日(火)掲載予定です。


よろしくお願いいたします。 

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