Calamity princess
「あー、恐かった怖かった」
ロムタヒマ城へ続く道を歩きながら、さっきの二人を思い出して舌を出す。
偶然の邂逅とはいえ、あれは楽しかった。そしてちょっと恐ろしいものを垣間見たゾクゾクが止まらない。
勇者の剣は未熟だが、その威力は俺を殺すに十分だろう。
そして今回で分かったが、あの少女は戦いに関して非才というわけではない。一度は俺を殺しかけた女だ。そうでなくては困るが、確信した。
非凡というわけでもなさそうだが、死線を何度かくぐれば順調に強くなっていくに違いない。
そしてなにより、その心の在り方が良い。最高だ。
おしとやかでビビリな侍女は、戦うことそのものは嫌いだろう。傷つけたりとか、殺したりとか、そういうのに向いているはずがない。
けれど、守るべき誰かがいれば、救うべき誰かがいれば、あの女は勇気を出せる。誰かのために踏み出せる。
あまりにも勇者らしい、キラキラした魂だ。俺が一番好きなタイプのヒーローのようなヤツだ。
だからきっと。
今は未熟でも、いずれ力を使いこなせれば、あの前魔王以上に恐ろしい強敵となるに違いない。
「リッドってやつも得体が知れねぇ」
もう一人は別方向のヤバさだ。
魔力量は目を見張るものがあったが、それが脅威とは感じない男。俺の同郷。
その違和感には心当たりがあって、確かめるためにわざと二度蹴られてみたが、やはり全力のそれに魔力は欠片も乗っていなかった。
あれだけの魔力量があれば、魔力放出なんて無意識にでもするだろうに。
転生者は魔法を使えない。前世の世界がそうだったなら、きっと魂がそうなっている。……と言われたことがある。
俺は特殊な魔族の血筋によって多少の融通を利かしているが、制限が多い。殴る蹴るだけで魔王になったようなもんだしな。転移だけは裏技中の裏技で唯一の抜け穴だが、それも他の転生者には厳しいだろう。
一応確かめておくために王女さんにも魔法をやらしてみたが、全然だった。幼少期ですでに才能なしと告げられた、なんて言ってたからちょっと可哀想だ。
だからリッド・ゲイルズも、きっと魔法を使えない。
―――それなのに、あのヤロウは勇者パーティにいる。
殴る蹴るも得意そうではなかった……というか俺視点で言えば、まるっきりのど素人だった。
変なスライムを操っていたが、あの男は錬金術師らしいから、魔法を使えない者でも使用できる魔具くらいは作れるだろう。それはそれで凄いが……あの男自身は本来、戦う力を持たないはずだ。そう俺のカンが告げている。
それがゾクゾクするくらいに、ワクワクするくらいに怖ろしい。
あの男は戦えるからあそこにいるわけではないのだ。
ククリクは言っていた。勇者と魔王の戦いなど茶番だと。なるほど分かる気がする。
おそらくアイツは、己の役目を自覚している。やるべきことがあるからこそあの場所に立っている。
ならば、きっと何かを仕掛けてくるだろう。とんでもない何かを。
「怖い怖い。同郷として誇らしいね」
あの二人は似たもの同士。本来は戦いに無縁の者が、運命に突き動かされるように似合わないことをやっている。
だから旅路は困難を極めるだろうな。大変だ。頑張ってくれ。
俺は玉座で待とう。あの二人が道の果てに何を見つけて俺の前に立つのか、楽しみにしながら待ち焦がれよう。
「けどな。……あんまりグズグズしてると、取り返しのつかないことになるぞ、っと」
鼻歌交じりに大通りを行く。平和なもんだ。壁の外にはフロヴェルス兵が陣を敷いているのに、街には危機感が無い。
魔族も人族も、瘴気に覆われた、破られることのない壁の中で日常を過ごしている。異常な平和を続けている。
こっちも順調だ。問題は多かったがなんとかなってきた。
そろそろ次に行ってもいい頃合いだ。今度はもっと上手くやれる。
「まあけど、とりあえずククリクと王女さんに土産話だな。きっと驚くぞ、アイツら」
二人の反応が完璧に予想できてしまって、俺は思わず一人で笑ってしまった。いかんいかん、これではまるで気持ち悪いヤツだと思うが、にやけ顔が止められない。
今日の偶然は、それくらいに楽しい出遭いだった。
ガン、と。槍と槍が打ち鳴らされる音がした。
何事だろう、と顔を上げる。
城の前だった。正門の前だ。魔族の門番が二人いて、槍を交差させて行く手を阻んでいる。
俺を、阻んでいる。
「あー、と。新人? じゃねぇよな見たことあるツラだし。なんの真似?」
まさか俺の顔を忘れたわけでもないだろうに、と思いつつ、俺は年配の方の門番に問う。
まあこの門番ワリと歳いってるし、ボケてホントに忘れてたら殴って思い出させてやるか、と拳を握ったところで、予想外の答えが返ってきた。
「新魔王の即位により、ゴアグリューズ殿の王位は失われました。新王の意向により、貴殿の入城は認められません」
「ほう!」
驚いた。ビックリした。どうやら俺は留守の間に、魔王から無職になってしまったらしい。王権簒奪だ。クーデターってヤツだ。
え、マジで? 玉座で待つとかカッコつけちゃったよどうすんの?
「そりゃずいぶん愉快なことしてくれるじゃないか。おいおい新しい魔王は誰だよ? 爺さんか? ルグルガンか? まさかゼファン坊やってことは……いやあのクソガキならあり得るな」
「いいえ、ネルフィリア様です」
「そっかー、ネルフィリアかー。あれ? 誰だっけそれ?」
「人間の王女様です」
………………。
「…………………………新魔王は誰って?」
「ネルフィリア様です」
さすがにドン引きした。何それコワっ。
小説を書く時間帯はだいたい深夜なのですが、そんな時間に調べ物の必要があっても、ネット環境があれば座りながら検索できて非常に便利ですよね。
あらためてインターネットって凄いなぁと感心するばかりです。
ラーメンの作り方調べたときは一人メシテロでした。KAMEです。ゴアグリューズは絶対に許しません。
というわけでアルケミスト・ブレイブ三章 境界の森でした。いかがでしたでしょうか。
個人的にはやりたい放題やり過ぎたのではないか、と不安になった章ですが、楽しんでくれたなら幸いです。
では次章、「攫ってきた王女に魔王の座を奪われて無職になったんだが」が本編の裏で進行します。書きません。
お楽しみに!




