エルフの里の隠し事
「それで、君ら以外の子供はどこに避難させたんだ?」
やたらいい香りのする鹿の燻製肉に、胡桃に似た木の実。キノコと野草は細かく刻んでスープにして、初めて目にする花弁の塩漬けを添えて。
僕たちは大樹の内の一室で、ミルクスとモーヴォンが唱えた魔術の明かりが漂う食卓を囲んでいた。
全員腹ぺこなので、レティリエも味より手早さを優先したらしい。よく考えたら僕らなんか、丸一日食べてないしな。……もしかしたらだけど、彼女自身の空腹が限界だったのかもしれない。いつもより食べる速度が速い気がするし。
「ああ、はい。分かりますよねそれ」
ミルクスが燻製肉をくわえたまま気まずそうに目をそらしたので、木の実をつまんだモーヴォンが答える。
年齢を聞いたとき、ミルクスは二十六歳だと言っていた。おそらくだがモーヴォンも同じくらいの年齢だろう。
エルフの出生率が人間のそれと同じとは思わないが、里に子供が二人しかいない、それも二十年以上も他の子供が産まれていない、なんてのは異常すぎる。前世で社会問題になっていた、年寄りしかいない過疎村じゃあるまいし。
「別に騙したりとか、隠したりとかしていたわけではないんです。あのときは細かい説明をする時間が無かっただけで。自分たちより小さな子供たちや身重の女性は、半年前の時点でターレウィム森林にもう一つあるエルフの里へ避難しています。昔から交流がある唯一の里で、北北西の方角に三日と聞いていますね。途中に大きな川があり、そこで狩りの縄張りを分けているらしいです」
北北西っていうとバハンの方か。国境などは自然地形で分けることが多いから、その川の向こうは女王の領地内かもしれない。
もしそうだとしたら、こっちの里みたいに悲惨なことにはなってないだろう。
「自分とミルクスは大人が魔族を狩りに行く際、里の留守を預かるため……という名目で、婆ちゃんの世話役として残ったんです。婆ちゃん、あの足で隣村へ行くのは無理だったでしょうから」
「それはまあ、必要だよなぁ。盲目で足の悪い婆さん一人にさせられないし」
特にエルフは老人を敬うしな。
それに、里の留守を預かる者も本当に欲しかったのではないかと思う。
迷いの森は主に嗅覚から作用する術式だ。体臭のキツいゴブリンは集団で臭気をまき散らすことで効果を弱めたし、そもそも鼻の利かない者には効かない。見張りくらいは必要だろう。
「けど、それなら逃げるアテはあるじゃないか。婆さん、君らが逃げてもロクな未来がないってことで巻き込もうとしてたんだろ? 話が違う……ってのはまあいいか」
朗報には違いないからな。
とにかく、これで二人の今後の心配はなくなった。その里を頼ればいいんだから。
「別に話は違わないわ。向こうもそんなに余裕があるわけないし、受け入れられる人数なんて多くないでしょ。今さらあたしたちが行ったところで、嫌な顔されるだけよ」
「世知辛ぇ……」
ミルクスの話は容易に想像できて、げんなりするしかない。
エルフだからなぁ。森のバランスを崩すことのないよう、森の恵みは最低限だけ採らせてもらおう、って生き方してるはずだ。蓄えなんて最低限しか無いだろう。
状況によっては、すでにその里からさらに他の里へ、たらい回しにされてる子だっているかもしれない。綺麗事だけじゃ共倒れだからな。
そういう事情まで予想してれば、そりゃこの二人は行きたくないだろう。
「その、お二人より年上で成人前の方は、どうなされたんですか?」
「大人たちと一緒に戦いに出ました」
スープの器を置いてレティリエが遠慮がちにした質問には、モーヴォンのそっけない返答。
その意味を理解して、黒髪の少女は瞼を伏せる。
「そうですか……」
驚いてないから予想していたのだろうが、やはりショックは受けてるな。
なら聞かなきゃいいのに、と思うが、一縷の望みを捨てきれなかった気持ちは理解できる。いかにも彼女らしい。
「成人前って言っても、みんな戦えたからね。人数も必要だったし。……でも、年上ってだけであたしより弓の腕がたつ子も、モーヴォンより魔術が得意な子もいなかったわ。あたしとモーヴォンは、残った中で一番年下だから留守番だったの」
そうだろうな。ミルクスの弓術は達人の域だし、モーヴォンが魔術師として優秀なのは見てれば分かる。
だからか。だから、この二人はなおさら逃げられなかった。
押し寄せてくる群勢を前に、己の未来を諦めて無謀な戦いを選ぶしかないほどに、八方ふさがりだった。
自分たちより弱い者が戦いで命を散らしているのに、戦うと息巻く老婆を置いて逃げるなんてできない。
自分たちが行っていれば少しだけマシな結果になったかもしれない、なんて考えてしまえば、もはや考慮すら罪悪に感じただろう。
その心が善性であればあるほどに。
「避難者がいたことは分かったよ。腑に落ちなかっただけで、別に問題視していたわけじゃない。納得できて満足だ。教えてくれてありがとう」
景気の悪い話を終わらせるためにそう言って、僕はよく分からない花弁の塩漬けを囓る。……うっわ、塩辛ぇ。食感はいいけど岩塩の味しかしない。
「あ、ネフェリの花は燻製肉やスープと一緒に食べるといいですよ。そのためにオルエンさんには薄味に調理してもらいましたので」
「……それは塩の塊と同じ扱いじゃないのか?」
「やだなぁ、とても栄養があるんですよそれ。慣れると味も分かりますし」
「綺麗に盛り付ければ食卓の彩りになるしね」
たしかに一輪の花が咲くように盛りつけられた黄色の花弁は鮮やかだけど、視覚にまでこだわる調理の話はちょっとついていけないな。実験器具で作ったビーカー飯でも味は一緒だし。
僕が渋面でスープを口に運ぶと、レティリエもミルクスも笑っていた。……ていうかレティリエ、リクエスト受けたってことは知ってたろ。教えてくれよ。
「それで、この里にはまだ何かあるよな?」
僕が話を戻すと、ミルクスが片眉を上げて気を悪くする。
「疑り深いわね。もう何もないわよ」
「そうか? モーヴォンは何か知らないか?」
僕が対象を絞ってさらに聞くと、エルフの少年は悩み顔で木の実を一つ口に入れ、ポリポリ噛んでから飲み込んで、やっと僕に目を向ける。
「なんで、まだ何かあるって思います?」
どうやら勘は的中か。
しかしミルクスが怪訝な顔してるってことは、知っているのは魔術師ってことなんだろう。なら隠匿の判断はサリストゥーヴェだな。
―――そしてどうせ秘密にするなら、共有するのはごくごく少数が理想だ。おそらく後継候補にしか知らされていない可能性が高い。
ここには里の大部分に知らされなかった、香水の魔女の隠し事がある。
「この里の家屋……というより住処の入り口は、どれも探さないと分からないようなものばかりだった。ここに人里があると知らない者だったら、気づかず隣を通り過ぎてしまってもおかしくない。……たしかに空間魔術が使えるならあれで不便はないだろうが、どう考えてもコストがかかりすぎる。いくらエルフだからって、木を伐採したくない、という理由だけではないと思った。深読みした見方をすれば、何かの間違いで迷い込んだ者には、何も無いと思いながら通り過ぎてもらいたい、という意思の表れ。また害意ある者が来たならば、潜んで弓を射かけるための備えと考えられる」
「……そうですね」
「それに、この大樹と湖の周りには視覚結界が張られていた。森が続いてると思ったのに、いきなり景色が変わるのは僕も驚いたが……わざわざ隠蔽してあるなら、そこに何かがあると言っているようなものだ。仕掛けた術士はどうやら、よほどこの大樹を隠したいらしい」
「ですねぇ……」
「さらにこの湖だな。水の円が霊穴の支配権を得る魔術陣になっているが、それだけで隠蔽の対象になるとは考えにくい。術士が霊穴に陣取るなら、程度の差はあれ当然だしな。そして湖の大きさと深さと、一本しかない道が防衛に適しすぎている。今回は設計思想どおり、とても役に立ってくれたってことでいいかな?」
「オルエンさん。この人はいつもこんな感じで?」
尋ねられたレティリエは苦笑するばかりだ。別にこれ、大した考察でもないんだが。
僕が挙げたのは術士としての見解だ。施された術には必ず理と利がある。
引っかかりを一つ一つ、どうしてそうする必要があったのか、と丁寧に追っていけば、術士なら誰だってたどり着ける……いや、ワナとかだと無理だな。そもそも不自然に気づかなさそう。
「まあ、さっきも言った通り隠し立てする気はありません。お二人にはそのことで頼みたいこともありますし。……ただ、まるで追い詰められて白状するみたいでバツが悪いですね」
「安心してくれ。隠し事がなんなのかには辿り着いてない」
「そうですか。では、自力で辿り着かれる前にぶっちゃけましょう」
モーヴォンは観念して、この村に隠された秘密を告げる。
「楔です」
「くさび、ですか」
あまりにも端的な単語に、レティリエは小首を傾げた。
「はい。このターレウィム森林は境界の森、つまりは人界と魔界との境ですので。ええ。魔界がこれ以上こっちに侵食してこないように、この大樹というピンでしっかり押さえつけていると言いますか」
「おいそれマジか」
モーヴォンのどこか投げやりな調子の説明に、僕は渋面になる。え、本気で言ってる?
「マジもマジ。大マジですよ。この現状では残念なことに嘘偽りありません」
「えっと、つまりどういうことなのでしょう?」
レティリエの質問に、モーヴォンは両の手のひらを上にして肩をすくめた。
「この大樹が倒れたら、魔界がこちら側に侵食してきます」
あっはっは、と。まるでサヴェ婆さんみたいに笑って言ってのけるエルフの少年。
うーん、分かりやすい。分かりやすくて他の解釈とか思いつかないのが最悪だ。あとこのガキ一発殴りたい。今の陽気に言えるってことは、結構いい性格してそうだなコイツ。
レティリエとミルクスも事の大きさが分かったのか、揃って目を見開き驚いている。
「由来は?」
僕は木の実をつまみつつ、楔とやらの正体を尋ねる。
「千年前までさかのぼりますね」
彼はスープを匙ですくって一口飲んでから、その匙を教鞭のように持って宙をクルクルと示す。
「かつて神様は神の腕たちと共に世界を創りました。そして神様は去り、神の腕は人族の様々な種族に枝分かれします。……しかし千年前、東の地から瘴気が湧き出て、空を覆い大地を穢しました。人々はなんとか西に西にと避難しましたが、黒い魔素はそれを追うようにじわじわと世界を浸食し、さらには瘴気に覆われた地から邪悪な魔物や魔族があふれ出てくるようになって、あわや滅亡の危機に晒されます」
「そのくだりは僕も知ってるよ。神話の終章から勇者伝説の序章につながる話だ」
「わたしも知っています。その後、状況を見かねた神様が人間の英雄に勇者の力を授けた、と続く神話の終章。その彼は魔族を退けつつ仲間たちと魔界へ突入し、魔界が広がる元凶となった魔王を倒す―――という勇者の伝説。初代勇者フィロークや、エルフの魔女サリストゥーヴェさんの登場する伝承です」
神聖王国出身のレティリエには、特に馴染み深い話だろう。
なにせフロヴェルスの王様はフィロークの子孫だしな。子供のころは読み聞かせなどで聞かせてもらえたんじゃないだろうか。
「ああ、やっぱりそう伝わってるんですね。華々しいなぁ」
モーヴォンはそう、初代の伝説を否定した。……レティリエが面白い顔したな、今。
「自分が婆ちゃんから聞いた話はこうです。魔族は強かったが、魔王はいなかった。ヤツらはてんでバラバラで、魔族同士でいがみ合っていた、と」
「……なるほど。出現して間もない魔界には、まだ国と呼べるものが無かったんだな」
当然と言えば当然の話だ。魔族は人族より種族が多いしな。見た目も寿命も生き方もバラバラで、簡単にまとまるはずがない。
魔界の王は決闘で決める、と以前ゾニが言っていたが、要するに彼らが一つにまとまろうとするなら、強い者が力を見せつける以外にないのだ。
「だから婆ちゃんたちは、強い魔族が三つ巴で戦って弱ってたところを倒したって言ってました。それが今、魔王を倒した戦いとして美化されて伝わってるらしい……とも」
「わぁ卑怯。好感持てるな」
「ま、まぁ……実際に強い魔族を倒したのですし」
レティリエ、健気に解釈しようとしてるなぁ。
でも多分、美化して伝えたのはフロヴェルスだぞ。どうせ王国設立の時、箔付けのために誇張したんだろ。
「そして強い魔族を倒した勇者フィローク一行は、しかしそれ以上進めませんでした。奥に進むにつれて瘴気が濃くなり、勇者の力を以ってしても仲間を護ることができなくなったからです。ついに元凶の特定を断念した彼らは引き返し、瘴気がこれ以上人族の住む領域を侵食しないよう、境界を定めることにしました。……そして、フィロークは霊穴の大樹に聖なる祝福を与え楔とすることで、霊脈が歪まないようにしたのです」
「モーヴォン待った。魔界に瘴気が発生するのは霊脈の歪みが原因だと? 初代勇者パーティはそれを突き止めていたということか?」
「いいえ。それはいいえですゲイルズさん。原因を突き止めていたというより、霊脈が正常ならばその土地の魔素も正常で在り続けられるはずだ、という希望的推論を試してみた、というのが正解だと思います。瘴気は明らかに異常な魔素ですから、環境の異常を取り除けば発生しないはずだ、と。ですので短絡的に、霊脈が歪んでいるから瘴気が生み出されているんだ、と考えるのは早計です」
なるほど。切羽詰まってたから思いついたことを試した。そして結果的になんとかなった、ということでしかないか。
しかし霊脈に楔を打つなんて途方も無いことをよくやったもんだし、そんなことよく考えたよな。発案は婆さんだろ絶対。
「そんなわけで、フィロークの本当の功績は魔王を倒したことではありません。魔界の侵食を防ぐため、このターレウィムを境界と定め、楔を打ち付けた。これが彼と彼の仲間たちが後世に伝えなかった、真の偉業です」
「……モーヴォンの言ってることは、だいたい分かったわ。つまりフィロークは人界を護ったってことでしょう? 初代勇者はやっぱり凄かった、ということよね」
それまで黙って話を聞いていたミルクスが、木のコップを置いた。
「けれど、なんでそれをそのまま伝えなかったの?」
ああ、うん。それはだいたい分かる。でもその件は口にチャックしておこうかな。
タイミングを完全に逃して、まだレティリエに教えてないから。
「それは多分、その行いが勇者という称号の区分を越えた能力……おそらくは神の腕の力に依るからだと思う」
ミルクスに対しては敬語ではないのが、いかにも姉弟だよなー。
「神の……腕?」
信じられない、といった表情で、レティリエは呟くように問う。
神の腕は創世の助力をした者だ。戦闘能力が主なイメージの勇者とは、力のジャンルからして違う。
「婆ちゃんはそう言っていました。ただし、確証はないとも。ただ、勇者が神の腕だとしても不思議ではありません。また実際は違うにしても、似たようなことができてもおかしくはない。だって、他ならぬ神様がくれた力なんですから」
「ま、実際に霊脈に楔を打ち付けてるなら、神の腕のように世界の理に手を加えた、って理解でいいだろう。……もっとも本当の神の腕なら、この大地に新しく、もっと強固な霊脈を敷くことすら可能だったかもしれない。そう考えればフィロークの勇者の力は幾分格落ちだな。十分凄いが」
僕はしれっと所感を述べておく……もし今後あの神学者に会うようなことがあったら、そのときは早急に口裏を合わせるよう脅さなきゃいけない。
レティリエ、知ってて教えなかったことに怒りそうだし。
「で? それがなんで秘密にしなきゃならないことなの?」
ミルクスは真剣に分からない顔で、首を傾げている。まあこの辺境から一歩も出たことがなければ、理由には思い至らないだろうな。
「勇者の力は代替わりで継げるものだ。そして、それを神聖王国フロヴェルスって国が保管していた。……ただの戦闘能力ってだけなら兵器ってだけだが、世界の理すら書き換えるかもしれない力だぜ。それを一国家が独占していたなんて、物騒だろ? 恐いだろ? そして、欲しいだろ?」
「……災いの元ね」
分かってくれて嬉しいよ。
人は臆病だし、ときに魔族より貪欲で邪悪になるからな。
「で、サヴェ婆さんは万が一にも里の外へ漏らさないよう、村人にもそういう話はしなかったわけか」
「ええ。知っているのは直弟子の母と、僕だけです。でした。―――これで、村に隠されていた話は全て終わりです。よろしいですか?」
「ああ。貴重な話を教えてくれてありがとう。―――頭が痛いが」
つまりは、ここは護らなければならない場所。魔族に明け渡してはいけない場所ってことで、けれどその防人はこの二人を残して全滅していて、森には魔族がうようよしている。
まったく、最悪の状況だな。……………………いや。
違う。違うな。違う。違う違う違う。
魔族はこの楔を壊さない。ゴブリンみたいな低能なら壊すかもしれないが、少なくとも魔王が壊すことはない。
レティリエが言っていた。魔族は王女に、瘴気をなんとかする方法を聞いてきた、と。
ゾニが言っていた。魔族にとってロムタヒマ戦は、死活問題だったと。
魔族が瘴気の問題で悩んでいるなら、これをみすみす壊したりはしない。
―――魔王は僕の同郷、元は地球の人間だ。今は魔族でも、話くらいは通じるかもしれない。……ならむしろ、交渉のカードにすらなり得るぞ、これ。
「それで、疑問を解消していただいたところで、お二人にお願いがあります」
僕が新たな可能性を思索していると、モーヴォンが真剣な声と表情で注目を集めた。
「その……実は最近、里の周辺で局地的に濃い瘴気が発生しては消えるみたいな現象が起きてまして。見ませんでした? 樹の枝が不自然に捻れてたり、葉っぱが斑に枯れてたり」
「あ、見ました。迷いの森の外で、ゴブリンから逃げていた時です」
レティリエが頷く。……そういやあったな。なんかヤバそうな痕が。
「あれの原因は分かっているのですけど、その解決をぜひ手伝ってもらいたいんです。なにしろ重大問題でして、それを放っておくとこの大樹、枯れかねません」
大問題すぎるだろそれ。そういうのやめろ。やっと見えた光明だぞこの楔。
「何をすればいいのですか?」
レティリエが……今代の勇者が真剣に尋ねると、香水の魔女の後継は重々しく口を開く。
「霊脈とは、大地をはしる魔力の循環。それは脈であり流れです。なので上流があって下流がある。……この霊穴の上流に魔族が巣くい、魔族が長く滞在することで発生した瘴気が霊脈に流れ込んでいます。各地の異常はその瘴気が凝りのように固まって、大地から湧き出しているのが原因でしょう。瘴気の量は霊脈全体からすれば大したことなく、今はこの大樹に影響は出てませんが、いずれは蝕み始める。そうなる前に―――霊脈の上流から魔族を追い出したいのです」
つまり、上流から汚水を垂れ流されてる状態か。やっぱ魔族は居るだけで害悪だな。
モーヴォンは立ち上がり、僕らに深く頭を下げて……次の戦場を告げる。
「場所は人間たちが森に建設した、境界を見張る砦―――ボルドナ砦です。そこを占拠した魔族たちと戦うため、お二人の力を貸してください」




