表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケミスト・ブレイブ!  作者: KAME
―竜族の山脈―
54/250

すべて失ったとしても

「…………」


 僕は沈黙する。頬杖をついたまま、彼女の顔を眺める。

 こんな時だけれど、綺麗な娘だよな、なんて思った。


「その、危険な登山なんですよね。とても。それに、その先にどんなことが待っているかも分からない。報酬についても推測だけで、あるかどうかも不確定です。リスクが高すぎると思うのですよ」


 曖昧な笑顔で、視線を逸らして、少女は反対意見を述べる。

 なるほど。リターンがあるか分からないのにハイリスクだからやめよう、と。

 別にその考え方は間違っていない。

 間違っているのは前提だ。


「リスクは無いよ。僕は現在役立たずだからな。君の調整役にはピアッタがいるし、死んだところでマイナスにはならない」


 レティリエが苦しそうな、痛ましそうな顔をする。

 彼女は僕の身を案じてくれているのだろう。けれど、僕は今のままでいるわけにはいかない。

 無力な足手まといのままでは、勇者の……彼女の仲間ではいられない。

 たとえ、チートなどという自分の実力外の、反則みたいな力でも。取り返さないことには、共に先へ進めない。


 ゆっくりと、諭す。冷静に、論理的に。


「リスクなしで、リターンがあるかもしれない。なら挑むべきだ。僕らはいずれ魔王を相手にしようとしているんだし、多少の冒険はしなきゃな」

「……また」


 少女の表情から感情が消える。


「また、あんな戦い方をするつもりですか?」


 呆然と、抑揚の少ない声で。


「殺されれば勝ちだなんて、本気で口にできるような戦い方を、また?」


 感情が消えたはずの瞳から、涙が流れた。

 あまりに激しい感情が、逆に表情を消しているのだろう。


「なんで、あんなふうに命を投げ出すような戦い方を?」


 嘘など吐きたくなかった。

 だから、誠実に答える。


「僕に価値が無いからだ」


 パンッ、と。小気味いい音がして。

 頬に痛みが走った。


「……あなたは、とても優しくて凄い人です」


 平手で打たれた頬が、じんじんと痛んだ。


「……あなたは、わたしを救ってくれた恩人です」


 少女はうつむいたまま、涙を流す。


「……あなたは、わたしのパーティの一員です」


 僕は黙して、嗚咽のような声を聞く。


「価値が無いなんて、そんなことは絶対にありません」


 信じられんバカやったな、僕。……そんなふうに、人ごとのように考えた。

 だってあまりにバカすぎる。勝てもしない勝負にこだわって、この少女を不安にさせた。

 心配させて、悲しませて、涙を流させた。


「あんな戦い方を、してほしくありません。あんな戦い方をするなら、この山に登らせるわけにはいきません。たとえ魔力が戻っても、この先へは共に行けません。わたしはあなたに……」

「……なら」


 その先を言うのは、さすがにツラかった。


「パーティを解散しよう」






「ピアッタ。僕の荷物を持ってきてくれ」


 その場の全員が声を失う中、僕はハーフリングの後輩に指示を出す。

 ピアッタは眉をひそめて少しこっちを睨んだが、言うとおりにしてくれた。悪いな。こう身体が痛いと、立ち上がるのも億劫でさ。


 僕は鞄をあさって、丸めた羊皮紙の束を出す。

 それを、そのままピアッタに差し出した。


「これを渡す。錬金術を囓った程度のお前じゃ少し難度が高いが、そこは頑張れ。この先で必要なモノだ」


 内容はロムタヒマの壁を覆う瘴気の無効化方法。……それの試算書とでも言おうか。錬金術師が読めばだいたい内容が分かるはずである。

 まだ細かな計算を詰め切れていないが、このままでもおおかたは大丈夫。手がけるのがピアッタなのは不安だが、レシピに余計な隠し味とか入れそうで本当に不安だが、まあなんとかなるだろう。



 ―――これで本当に、僕が勇者パーティでいる意味は無くなった。



「レティリエ。君はピアッタと共にロムタヒマへ向かえ。こいつはいい意味で臆病者だ。僕みたいに、自分の身を危険にさらすような無謀はしない」


 好奇心でいらんことに首突っ込んだりはしそうだけどな。

 まあ、僕よりはマシだろう。


「……なんで、そうなるんですか?」


 なんでって。

 そりゃ、そうなるだろう。そうするしかない。


「足手まといにだけはなりたくないからな。そうなるなら、死んだ方がマシ、さ。だから僕は、この先もああするに決まっている。もうやらないなんて約束はできない。……それに、君には急ぎの用があるだろう? 共に行けないなら僕を待つ必要はない」


 王女様はもう半年間も囚われの身だ。生きてるかどうかも分からない。

 幸運にも、剣は手に入れた。最上級のやつだ。これなら魔族の相当強いヤツとも渡り合えるだろう。

 レティリエはなるべく早くロムタヒマに向かいたいに違いない。

 だから、こうするのは仕方ない。


「リッドさんは、どうするんですか」

「山頂へ向かう」


 やることは変わらない。


「そして、ロムタヒマへ向かう。君と共には行けなくても」

「なんで……」


 なんでだろうな。

 後ろめたさはあるが、贖罪なんてのはガラじゃない。

 死んでもいいとは思っていたが、死にたいとまでは思ってない。

 人族を救うため、なんてそれこそ失笑モノだし。


 ―――考えて、頭をよぎったのは今朝の試練だった。


 まったく。なんて気にくわない。

 こんな辺境の土着宗教の儀式なんかに、教えられるなんて。


「マシな生き方がしたいからだ」


 多分、僕は笑っていた。

 体はまだ痛いし、大切な人を泣かせたし、パーティも解散してしまったけれど。

 魔力量チートも奪われて、もう本当になんにも無くなってしまったけれど。


 なんだか、心に涼風が吹いたようで。


「世界を救う旅ってのは、悪くない」


 立ち上がる。

 ああ、そうだ。僕の行く道は元から決まっている。


「それに、文句を言わなきゃいけないヤツらもいるしな」


 荷物を背負った。

 なんだかいてもたってもいられない気分だ。こんなに前向きになったのはいつ以来だろう。


 泣かせて気まずいのもあるけどさ。


「ゾニ、やっぱりもう行こう。山頂へ。女王のもとへ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ