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アルケミスト・ブレイブ!  作者: KAME
―竜族の山脈―
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チートを取り返すために

「女王は僕に、知るべきモノと手に入れるべきモノがあると言っていた。それを用意している、とも」


 倉庫に戻った僕は、三人に理由を説明する。


「用意している、だ。どういうことだと思う? ピアッタ、推測」

「ピアッタっスか? えっと……おみやげ?」

「すまない。聞いた僕が悪かった。ゾニ、君は?」

「奪い取れってことだよナ?」

「レティリエ」


 イライラしながら質問対象を変える。わざとだろ君ら。

 黒髪の少女は少し考えた後、おずおずと答えた。


「報酬、でしょうか?」


 それだよ。


「多分ね。おみやげだったら普通に渡してくれればいいし、奪い取れってのは冷静に考えて不可能だ。……女王はまだ、僕に何かをさせたいのだ、と僕は考えている。そしてそのために、僕の魔力を奪っていった。僕がそれをやらざるを得ないように」


 あくまで推測だけれどな。ハッキリそう言われたわけじゃない。

 けれど、彼女は待っているとも言ったのだ。


「おそらく彼女は報酬として、何か代わりのものを用意している。あるいは、僕に何かをさせたいってだけなら、それさえやれば魔力を返してくれるかもしれない。なんにしろ、僕がこのまま旅を続けるためには、それに縋る以外に方策が無い」

「なら、行きましょう!」


 立ち上がって、両手で握り拳を作るレティリエ。

 おお、やる気満々だな。頼もしいぞ。


「君はこの村で待機だ」

「はい! ……はい?」


 ごめんな。けどこれは譲れないんだ。


「山頂へはゾニの翼で運んでもらう。ただ彼女は持久力が無いらしい。荷物もあるし、高所は空気が薄いから、いくら魔力が主体でも飛行しづらいはずだ。何人も運ぶのは難しいだろう。無理をすれば不測の事態が起こる可能性もある」

「つまり、アタシとお前だけで行くってことか」

「ああ。それにここほどの高山ってのは、人間にとって死の領域だ。相応の準備をしないと確実に死ぬ。だからピアッタに護符の製作を頼みたいが、できるだけ時間も素材も節約したい。二人分で済むならそれが一番いい」


 連れていけない理由が並べられ、レティリエの表情がみるみる消沈していく。せっかく気合い入れてくれてたのに、かわいそうなくらいだ。

 まあこれは仕方ないよね。いくら勇者でも翼はないからね。


「あー、なるほどっス。じゃあピアッタとレティリっさんはお留守番っスね。……ちなみにどんな護符がいるっスか?」

「防寒。体力補強。呼吸補助。空気圧調整。とりあえずこのくらいか。耐衝撃は……工芸魔法だと役立つ前に死にそうだ」

「前二つはともかく、後ろ二つは作ったことないっスね。まあピアッタは優秀なんでできるっスけど!」

「頼む。それと、手を出せ」

「なにっスか?」


 僕はヒーリングスライムが入った袋を取り出し、中から一つだけ結晶を取りだして、残りを袋ごとピアッタの手に置いた。


「これを預ける。お前のオドじゃ足りないだろうが、魔術陣を使えばマナを餌にできる。面倒だろうが僕が帰るまで管理しておいてくれ」

「……いいんスか? 解析するっスよ」

「護符の代金と考えるさ。錬金工芸魔術士様にはいい報酬だろう? あと、これもだ」


 もう一つ、僕は別の場所にしまっていた結晶をピアッタに渡した。

 特別製のそれは、屍竜戦の後に使用したもの。


「レティリエの調律用スライムだ。彼女に発作が起きたらお前が対処しろ。後で魔術陣の見本も描いて渡す」

「う……そういえばなんかやってたっスね。あれ専門外にはツラそうっていうか、それってけっこう責任重大じゃないっスか?」


 ピアッタが露骨に尻込みする。まあ実際、レティリエの命を預かるわけだからな。プレッシャーにはなるだろう。

 けれど……まだ分かってないのかコイツ。



「何甘えたこと言ってるんだピアッタ。僕が帰らなかったときは、君がレティリエの調律を完遂するんだぞ」



 おそらく。

 予知の大家、星詠みの魔女セピア・アノレは、この状況を見越してこのハーフリングを寄越したのだろう。


 工芸魔法で補助魔具を製作できて、僕自らが錬金術を教えた後輩。

 なるほど今回の助っ人として、そして僕のスペアとして、彼女以上の適任はいない。


「そ……そんなこと言わないでください!」


 大きな声を出したのはレティリエだった。

 ……この優しい少女なら、そういう反応にもなる発言だったか。


 けれど。

 女王に会いに行くのは、僕の悪あがきでありワガママだ。

 役立たずとなった僕などのために、彼女を危険へと付き合わせるわけにはいかない。


 もはや今の僕には、なんの価値はないのだから。


「場所も相手も大概だ。必ず帰ってこられるとは言い難い。出発して七日で戻らなかったら諦めろ。そのときは、死体は探さず放置してくれ」


 素人が登れる山ではないなんて、重々承知。

 待っているのは山脈の女王にして最古の竜種。神にも等しい自然の体現。


 いいだろう。命くらい賭けてやる。どうせもはや役に立たずだ。惜しくない。


「ま、僕だって勝算があるから行くんだ。死ぬつもりはないさ。……帰ってきたら、すぐにロムタヒマへ行こう。囚われの王女様が待ってるんだし、こんな田舎でいつまでもグズグズしてるわけにはいかないからな。できる限り早く戻れるよう、努力するさ」


 精一杯に明るく振る舞って、レティリエに笑いかける。すると、少女の顔がさらに曇った。

 ……今、強がり見抜かれたな。






 準備には数日かけた。

 何より時間がかかったのはピアッタの護符製作だ。なんせ今回は四種を二個ずつで計八個の仕事である。


 芸術性の高い繊細な仕事だからあまり急かすわけにもいかないし、僕も工芸魔法については門外漢なので、手伝うわけにもいかない。

 まあやる気は十分のようだし下手に口を出すと邪魔になりかねないので、完成まではなるべく放っておいたのだが……今思えば、少しくらい干渉しておいてやった方がよかったかもしれない。


「これが防寒。吹雪の中でも暖かい火竜の護符っス! そして体力増強には無尽蔵な膂力な地竜の護符! 呼吸補助は水中でも呼吸可能な水竜の護符! そして空気圧調整は天空高くを飛ぶ風竜の護符!」


 徹夜続きで目に隈をこさえたピアッタはいつもよりもテンション高く、完成した護符を一つずつ指さして解説する。

 ……竜ばっかじゃねーか。ちゃんと機能するならいいんだけどさ。


「ドラゴンってスゲーんスよ! ピアッタ村でいろんな伝承聞いてきたからもう先輩より詳しいっスよ! 雄大で壮麗で力強く、叡智までもを備える全ての生命の頂点! そう、まさしく竜は大自然の体現。神のごとき存在なんスよ!」

「感化されてんじゃねーよ」


 ダメだ、ぐるぐる目になってるよコイツ。完全に盲信状態。護符作りのためのここ数日、なんかやけに村人と仲良くなってたからな……。

 いつのまにか布教されてたのかコイツ。


「いやっスね先輩。工芸魔術師たるもの、インスピレーションを求めるのは最重要課題なんスよ! そして竜は神っス! 女王様最高!」


 ……いや、好奇心で自分から首突っ込んだなこれは。


「まあ竜の護符ならアタシは不満ないけどナ」


 ゾニがまんざらでもなさそうに護符を首から提げる。溜息を吐いて僕もそうした。あり合わせの素材でどれだけ効くのか分からないが、気休めよりはマシだろう。


「あの、これ携帯食です。なるべく栄養を考えて、美味しくなるように作りました」


 レティリエが渡してくれたのは、大葉寿司みたいに大きな葉っぱで包んで小分けされた食料だ。どうやら持ち運びやすく、さらに日持ちもするよう工夫してくれたらしい。


「気をつけて、必ず帰ってきてください。危なくなったらすぐに引き返してくださいね」

「ああ。ありがとう。無謀はしないさ」


 無理はするだろうけど、と心内で付け足す。言わぬが花だろう。


 空き屋で、僕は荷物の最終確認を行ってから背負い袋に詰め込む。

 簡易テントや寝袋は、やっぱりかさばるし重くなるな。とはいえ上の気温はこの時期でも厳しいだろう。天候の変化も考慮すると外せない。前世の世界だと軽くて小さい装備が揃えられたんだろうが、それは無い物ねだりだ。

 錬金術で固形燃料を揃えられたのが救いだな。着火はゾニの黒炎だが。


「それじゃ、行こうゼ。実はアタシも山頂は初めてだ」

「そうなのか?」

「聖域だからナ。村を出る前は律儀に守ってた」


 聖域ね。正直、そんなモノを尊重する気分にはならないな。

 この状況だからではない。僕の信仰心が薄いせいもあるのだろうが、どうにもそういうモノは、まず疑ってかかる習性がついているのだ。うん、悪人に囲まれた前世の悪癖だなこれは。


 外套に袖を通し、荷物を背負う。ずしりと重いが、早くもピアッタの護符が効いているのか、そこまで苦には感じなかった。

 ゾニも新しくこしらえた防寒具に袖を通して、荷袋を腰の辺りに巻き付ける。翼を使うため荷は背負えないが、慣れているらしくかなりの量を持っていた。


「じゃあ、行ってくるよ」


 建て付けの悪い扉をギィィと開き、外へ出る。

 天気は快晴。雲一つ無い、抜けるような青空がむかえてくれた。絶好の登山日和だな、と太陽がさわやかに笑っている。

 ほとんどズルで登る気満々の日陰者には、鬱陶しいことこの上ない。が、天候に恵まれてるのは吉兆だ。


 外には三人の村人が待ち構えていた。


「……知らない顔だな」


 といっても僕、この村の人間なんてダムール以外は覚えてないけれど。


 中年の男が二人。年端もいかぬ男の子が一人。

 ここは村の外れだ。集落の人間が用も無いのに立ち寄る場所ではない。偶然立ち話していたわけではないだろう。

 めっちゃこっち見てるし。


「どうしましたか?」

「なんで突っ立ってるんス?」


 レティリエとピアッタが不審そうに外に出てくる。……彼女たちも意味ありげな村人を見て首を傾げた。どうやら知り合いではないらしい。

 いつまでも、こうしてにらみ合っているわけにはいかない。しかたなしに、僕は意を決して話しかける。


「えっと……何か用かな?」

「そん格好で、どっチャ向かウ」


 男の一人が聞いてくる。ダムールより訛りが強いな。というか、ダムールはあれで気をつけてたんだな。

 僕が山頂へ行こうとしていることを、集落の人間は知っているはずだ。別に隠さず準備していたからな。ゾニの防寒着だって、村で毛皮を分けてもらって作ったやつだし。

 こんな小さな村で、珍しい客人の動向が噂にならないはずがないのだけれど。


「山頂だよ。女王に会いに行く」


 僕が正直に答えると、中年の男たちは顔を見合わせてから、一つ頷いた。親指をしゃぶる少年の背中を僕らの方へ押す。


「こん子についてケ」


 男の子は僕らをぼうっと眺め見た後、何も喋ることなく歩き出した。

 ……案内、だろうか。それにしては様子がおかしいが。

 僕はゾニが小さく舌打ちするのを聞いた。


「何か知ってるのか?」

「ああ。無視すればいいゼ」


 ムスッとした顔をして、ゾニは不機嫌な声を出す。恐いんだよな君のそういう態度。


「ろくでもないことか。まあ、なんだかんだで数日世話になってる村だ。レティリエとピアッタはまだここに置いていくし、禍根を残すのもな」

「お前、性格悪いクセにそういうとこ甘いよナ。命取りだゾ、それ」


 甘いかな? 残すレティリエのことを考えたら、村人との関係は良好に保っておくべきだと思うが。


 おそらく、何か儀式的なしきたりがあるのだろう、と僕は見当を付けていた。

 ゾニが言ったとおり、この先は村にとって聖域だ。立ち入るために必要な手続きがあってもおかしくはない。それを無視してこの先に踏み入るのは、竜種信仰への冒涜にもなる。村人達はいい顔をしないだろうし、僕としても不本意だ。


「行こう。せっかくの機会だ。竜種信仰の文化を見とくのも悪くない」


 結局、僕はそう言って足を進めた。

 やはり気になるのだろう、見送りついででレティリエとピアッタもついてくる。ゾニは呆れたようだが、文句を言わず最後尾を追ってきた。


 ……後悔するまで、そう時間はかからなかった。


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