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アルケミスト・ブレイブ!  作者: KAME
―竜族の山脈―
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チート消失

 転生した!

 魔力量が人より多かった!

 ただし魔法が使えなかった!

 魔力の使い道を開発!

 魔力量のチートを奪われた!(←new!)



 new! じゃねぇんだよ。



「……つまり、魔力容量が激減したってことっスか?」


 魔力回復促進の護符を身につけさせられた僕は、脂汗をかきながら沈痛な面持ちで頷いた。

 気がついたときにはピアッタとレティリエがいて、僕をのぞき込んでいたのである。

 今はどうやら魔力枯渇したようだ、ということを話して、そこからの推測を語ったところだ。


「そうとしか考えられない。体調は問題なかったはずだ。魔力が減少している感覚もなかった。結晶状態の餌やりで倒れるなんて、普段の僕ではあり得ない」

「つーかまだ結晶、十二個もあるっスよね。これいっぺんに魔力喰わせたら、普通の人なら三度くらい魔力枯渇するはずっスけど普段からそんな雑な運用してたんス?」

「バカ言え。屍竜戦の消費でこれでも数は減ってるんだ。本当なら二十はいける」

「意外ととんでもなかったんスね先輩……」


 転生チートだからな。

 とはいえ無尽蔵というほどでもない。多分ドロッド副学長と同じくらいだろう。


 今は一般人くらいだけどな!


「いや……これかなりマズいな。これじゃあ、ヒーリングスライムも通常起動で精一杯だ。オーバーリミットができない。僕の唯一の戦闘手段が封じられた」


 まあ足止め程度しかできないしアテにはしていなかったが、それでも何もできないよりはマシだった。

 今の僕は狙われたら即終了の完全お荷物である。


「役立たずになっちゃったっスねぇ……」

「ハッキリ言いやがって……」


 しかしくっそあの女王、まさか僕の転生チートを狙ってたとは……。

 というか僕の魔力量、たしかにおかしかったもんな。大賢者が父親だとかいう与太話で思考停止せず、もっと現実的な理由を考察しておくべきだった。


 おそらく、僕の中にはなんらかの増幅器があったのだ。

 魔力量が多かったのは生まれつきだし、多分、転生の際にそれは与えられたのだろう。チート、ちゃんとあったんだな僕にも……。

 そして竜種の女王はそれを奪っていた。ファック。


「その……リッドさん」


 心配そうに、そして怖々と、レティリエが口を開く。思い詰めた様子だ。


「これから、どうするんですか?」

「僕はロムタヒマには行けないな。ピアッタが言った通り、本当に足手まといになった」


 事実を淡々と述べる。

 まあ上級魔族とか出てきたらヒーリングスライムなんかなんの役にも立たないだろうし、元から死にに行くようなものだったのだけれど、自分の身は自分でと見栄も張れなくなったんじゃ話にならない。


「そう……ですか」


 レティリエが目に見えて落胆する。

 僕がロムタヒマに行けないってことは、レティリエは足止めを余儀なくされるってことだ。

 彼女は身体はまだ定着しきっていないから、いつ発作が起きるか分からない。僕がいなければ、彼女はほどけて消えてしまう。

 数ヶ月か、あるいは年単位で。定着しきるまで調律が必要なのである。


 あとはまあ……治療役だし、そもそも二人パーティだし、僕なんかでも一応頼りにはしてくれてるのかもしれない。……などと思うのは自惚れだろうか。


「ノールトゥスファクタはどこにいる?」


 僕は二人に聞く。


「……あの後、すぐに消えてしまいました」

「多分、山頂に帰ったんじゃないかってダムっちとゾニが言ってたっスよ」


 なるほど。

 そういえばあの女王、普段は山頂にいるんだったか。ダムールが言ってたな。


「ゾニは?」

「外で村の人たちと話し合いをしているはずです」

「居るんだな?」


 起き上がる。即刻ゾニを見つけなければならない。


「あの、まだ……」

「僕なら問題ない。魔力枯渇は慣れてる」


 ヒーリングスライム開発時に何度もやったからな。

 ピアッタの魔力回復の護符もあるし、無理すれば動ける。走ったりは無理だけど。


 レティリエは空き家と言っていたが、どうやらここは空き倉庫と言った方が正しそうだ。一つだけの扉を開けばすぐ外だった。

 多分、食料の貯蔵庫だろう。冬の間に備蓄を食べ尽くして空いていたのを、客人のために掃除したってところか。


「場所は分かるか?」

「村の奥です。村長さんの家の先に用がある、と」

「行こう。彼女に話がある」


 僕はできる限り足早に進む。体調不良で息が切れたが、焦りがあった。

 ゾニはまだこの村に滞在しているようだが、姿を確認しないことには安心できなかった。

 彼女がいなければマズい。あの女、気まぐれにどっか行きそうな気がするし。




 はたして。

 村の奥にある広場。わざわざ何もなく空き地にしてある場所。

 褐色の竜人族はそこに居た。槍を持ち、村の男たちを薙ぎ倒して立っていた。


「お、起きたのかお前。母の目にとまるなんて、災難だったナ」


 シシシ、と明るく笑って、ゾニは軽く手を挙げてくる。余裕だな君。


 レティリエもピアッタも、この惨状に目を丸くしている。とはいえ血の臭いはしないし、ゾニの様子からも大事とは思えない。

 なんか急いで来たのがバカバカしくなったぞ。一人で勝手に焦ったの僕だけど。


「……何やってるんだ?」

「見りゃ分かるだろ。訓練だ。しごいてやってんだヨ。あんな姿だったが母が生きてたとなっちゃ、この村の腰抜けどももまだ門番の役割があるしナ。仕方ないから鍛え直してやることにしたんだ」

「イジメじゃなくて?」

「モチロン、うさばらしも兼ねてる」


 正直だよなぁ……。

 僕は地べたに横たわった男たちを見渡す。中にはダムールもいた。

 みな呻いて悶絶していたが、それだけだ。手加減されたんだろうな。


「それで、お前。ずいぶん魔力が減ってるみたいだが、何とられたんだ?」

「分かるのか?」

「アタシにゃ見えるのサ。竜眼だからナ」


 竜の魔眼か。魔力量を量れるってことは、魔素を見通せるんだろうか。

 ……それ、めっちゃ羨ましくない? 研究用に超絶便利そうなんだけど。戦士じゃなくて術師が持つべき眼だぞそれ。


「なら話が早い。実は女王になにかされてな。僕は役立たずになった」

「それで?」

「君に頼みがある」


 僕は聳え立つ山脈の頂上を指さした。

 推定標高約一万メートル。エベレストより高いそれを見上げて、毅然と言い放つ。


「女王に会いに行く。君の力を貸してくれ」


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