表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケミスト・ブレイブ!  作者: KAME
―竜族の山脈―
44/250

新たな目的地

 他人に迷惑をかけて生きていた。

 それ以外の生き方をできなかった。

 ああそうとも。

 救いようのないゴミだったさ。






「ところでゾニ。屍竜の首はないけど、討伐の報酬は受け取れるのか?」

「んー、多分ダイジョブだろ。ちと時間はかかるが、人を寄越して確認させればいい話だしナ。というか、首持って帰るつもりだったのかお前。重いゾ」


 地べたにあぐらで座って右手で左足を持ち上げ、ゾニは怪我の具合を確認しながら答える。おいヒーリングスライム味見するな。つーか身体柔らかいなお前。


 結局僕らは、岩陰で野営することになった。戦闘要員の消耗が激しかったためだ。


「例えだよ例え。あの大きさだからな、首はさすがに無理だって分かる。けどそういえば、屍竜の討伐って何を持ってけば証になるんだ? 切り取っても再生するだろあれ」

「……やっぱ首かナ。アタシの息で燃やして骨にしちまえば運べる重さに」

「母親の頭をされこうべにするつもり? 凄いなサイコパスだ。……にしても山道だからな。荷車も使えないのは厳しくないか。いや君だったら運べるかもしれないが」

「ふふん、オタクのお前に竜人族の弱点を教えてやろう。……持久力だ」


 肉食獣は瞬発力重視だからな。いいことを聞いた。覚えとこう。


「つーか、お金よりも素材っスよ。レティリっさんの装備揃えるための屍竜討伐っスのに、何も手に入れられなかったどころか後退じゃないっスか。いつの間に剣を失くしたんスか」


 僕の外套を勝手に敷いて、ぐでー、と横になってるピアッタが口を挟む。お前それ、ちゃんと土汚れ払っておけよ。


「すみません……。多分、屍竜の近くに落ちてると思うんですが、あれだけでも回収できないでしょうか……」


 レティリエがしゅんと落ち込みながら、悲しそうに来た道を窺う。あ、気づいてなかったのか。


「それは無理だな。あの剣は蒸発した」

「え」


 いや蒸発するだろ。普通の剣に神の腕の本気パワー全開を注ぎ込んたんだぞ。


「君の服や鎧が無事なところを見ると、完全に力の方向は制御したな。すごい。偉い。才能ありなんじゃないかこれは。あとは加減を覚えようか」

「え、待ってください。ホントに剣、なくなっちゃったんですか? ワナさんたちに選んでもらったのに?」

「誰が選んでも普通の剣はただの鋼だ」


 ……変な顔とポーズで固まるの面白いな。レティリエの新しい面を見た気がする。

 そっか、この娘って思い出の品とか大事にするタイプだったんだな。そういえば酒場でもそんな兆候を見せてた気がするけど、まさかここまでとは。うんうん。これは見誤ったか。


「まあ無くなったモノは仕方ないから諦めようか。素材が手に入らなかったのは残念だが、屍竜討伐の報酬があればもっといい剣も買えるだろう」

「先輩、レティリっさんの剣そのまま使うの反対派だったっスよね。まさか……」

「おっと根拠の無い疑いをかけるのはそこまでだ」


 というか、あの状況でそこまで計算してたとしたら悪魔だろ。ちらっとしか考えてねーよ。


「まあ、ともかく当面の方向性をおさらいしようか。まずはレティリエの剣の調達。僕のヒーリングスライムの補充。ピアッタの工芸魔法用素材の確保。……くっそ、全部に金がかかるな」

「あれ? もうスライムないんスか?」

「あるけど、少し心もとなくなった。当面はともかく、ロムタヒマに向かうとなるとな……」


 フロヴェルスの支援のおかげで(培養液代わりに)大量に用意できたヒーリングスライムだが、餌の関係上、どうしても管理できる数には限りがある。持ってこられたのはほんの一部だ。

 ……ちなみに残りは全部あそこで使い切ってやった。副学長に拾われる前に、捕虜の怪我まで全快させてやったわ。


 しかし、さっきゾニに無駄にされた分は痛かったな。結局処置しなおしたし。


「いい素材の値段は天井知らずっスよ。手持ちと報酬合わせても、全部高級品なんて無理無理っス」

「だよなー。なあゾニ、友人のよしみで金を貸してくれないか?」

「いつダチになったって話だけどナ。まあ、お前らが困ってるのはアタシとアタシの故郷の連中のせいだから、なんとかしてやりたいって気持ちはなくはないゾ」


 でも、とゾニは続ける。


「知ってるか? 冒険者ってのは、貯蓄なんてあっちゃ一人前になれないんだゼ」

「それは君だけだ」

「あー、完全に頭弱い系っスか。ご愁傷っス」

「貯金はした方がいいですよ……?」

「ドイツもコイツもイロモノのクセに堅実かお前ら!」


 ッチ、Aランク冒険者のくせになんで金持ってねーんだよ。使えないヤツ。


「ならやっぱ屍竜の骸、奪い返しに行くか……。ゾニ、あいつらの制圧に何秒かかる?」

「お、いいナそれ。まばたきしてるうちに終わらせてやるヨ」

「いえ、それはやめましょう。彼らにも事情がありそうですし」


 チ、とゾニが舌打ちする。僕もそんな気分だ。

 レティリエは他者を慮りすぎる。初対面で武器を向けてきた相手にすらこの調子では、この先が思いやられる。


「……仕方ない。幸いAランクの討伐依頼がもう一つあったはずだ。おっかない竜人族様に馬車馬みたく手伝ってもらって、そっちも片付けよう。金になるし、そこそこの素材も採れるだろう」

「様付けしてるクセに敬意ゼロだナ死ぬか?」

「ハハハ。誇り高い竜人族が命の恩をアダで返すなんて、あり得るはずが無いだろ?」

「おいお上品な勇者。コイツ本気で性格悪いゾ。どうなってる」


 ゾニに話を振られても、レティリエは苦笑いするのみだ。……あれ、フォローしてくれないの? あれ?


「まあ目下の目標は、町に無事帰ることだけどな。何も無けりゃ明日中には……」

「なんか来たっスね」


 耳のいいハーフリングが僕の言葉を遮る。ピアッタは立て膝を突いて、眉をひそめていた。


「お客さんだナ」


 ゾニが不機嫌そうに鼻をならす。

 その視線の先に現れたのは、先ほど僕らから屍竜を奪った、彼女の故郷の人間だった。




「非礼を詫びたイ」


 枯れ葉色の髪の男は、ダムールと名乗った。

 二十代半ばくらいで筋骨隆々とした、体格のいい男。外観はおそらく人間。

 たしか、ゾニを邪竜の巫女と言った弓使いだ。今は丸腰で、両手を挙げて戦う意思を否定している。


「他のお友達は? どこかに隠れてるのかい?」


 この状況では、交渉は僕の役目だろう。

 レティリエはお人好しすぎるし、ゾニはすでに威嚇モードへ移行している。もちろんピアッタに任せるほど、僕は正気を失っていない。


「ここへは一人で来タ。みなで来ては警戒させルと思っタ。彼らは、女王を送っていル」


 さっきよりゆっくり喋っているな。どうやら訛りを気にしているようだ。

 敬語は……おそらく、使えないのだろう。


「あの屍竜は僕らの獲物だった。詫びるというのなら、竜の骸を返してくれないか」

「それは、すまなイ。許してほしイ」

「なぜだ?」

「山に還したイ」


 ふう、と息を吐く。彼らの目的は想像の範囲内だ。

 竜種信仰は自然信仰とイコールである。竜は自然の驚異と壮麗さの顕現であり、だからこそ、その骸は自然の中で朽ちるべきなのだ。


「邪竜の巫女殿が、なぜ怒っているか分かるか?」


 その質問に、ダムールは思い詰めたようにしばらく地面を見る。

 やがて、彼はゾニにチラリと視線を向けると、悔恨をにじませながら口を開いた。



「アナタ方は、命を懸ケて誇りを守ってくれタ。我々は見ていただけダ。……我々は、アナタ方が守った女王の誇りを汚しタ」



 素直だな。まあわざわざ謝りに来るところからして、悪人ではないのだろう。

 木訥で信仰厚き田舎者。そんな印象だ。


「よろしい。なあダムール。君らは女王の誇りを軽んじた。あの骸は、君らの手で葬送され、山に還されるのは不本意だと思っている。そうされるくらいならば、僕らのものでありたいと願っている。違うか?」


 死者は意見を持たない。だが、宗教家には感情論こそが効果を発揮する。


「僕たちは竜の骸を必要としている。大切な人を救うため、魔族と戦うために、どうしても彼女の遺した力を借り受けたいと思っている。……とはいえ、君たちの信仰心、忠誠心にも敬意を払いたいと思っている。どうだろう。全てが終わったら必ずこの地に還すと約束するから、女王の遺骨を一部分けてはくれないか?」


 少しクサいが、これで遺骨を分配してくれないかな?

 元々、竜の骨なんて全部は持って帰れないんだ。大部分を譲ってしまっても問題はない。

 まあ本当は魔力含有量の多い、いいとこを厳選して持ち帰るつもりだったが、贅沢は言うまい。竜種ならどこの骨でも一級品の素材だからな。……あんまショボイとこだったらクレーム入れるけど。


「アナタ方は、魔族と戦う力が欲しいのカ。……なら、別のモノで払いたイ。掟により詳しくは言えないが、我らの村の宝ダ」


 しかしダムールの口から出た言葉は、予想外のものだった。


「それは、竜の骸と同等の……女王の誇りを守れるほどの価値があると?」


 ダムールはまっすぐ僕を見て、頷く。


「約束すル」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ