Calamities in the dark side
「いやあ、さっきのはヤバかったね! ちょっと本気で死ぬかと思ったよ! さすがは二百年前の勇者の仲間。まさか魔族にだけ反応するトラップをこれだけ用意してるとは!」
「……てっめぇマジ、マジ後で半殺すからな……」
「ゴメンゴメン。てっきりここに入った人族が全部解除してるもんだと、たかをくくっててね。まさかバッチリ本命が残ってたとは。うん、ボクにしてはほんのちょっと油断大敵だったね! 次からは気をつけるさ!」
「全力疾走させやがって……こっちはやっと傷が治ったばっかりで、本調子じゃねぇってのに……」
「ん? お腹なら別にもう痛まないだろ? 勇者に刺されて灼かれた内臓も全部取っ替えてあげたじゃないか。あ、もしかして拒否反応出てたり? まいったな、ちょっと薬の持ち合わせないから根性で堪えてくれる?」
「リハビリくらいゆっくりさせろ、って言ってんだよこの馬鹿女!」
「馬鹿とはなんだ。ボクほど聡明な頭脳を持つ者なんて、世界中どこ捜したって見つからないってのにさ。……ところで、ちょっとこの装置を見てくれ。多分これが、昨日あった超特大魔法現象の発生源だ」
「あー……あれな。俺でもビビるくらいの気配だったよなー。で? いったいここで何があったんだよ?」
「んー……んー……?」
「お前、まさか分からないとか言うんじゃねぇだろうな?」
「いや分かるよ! だいたい分かるよ! ただちょっとこれは特殊というか……多分二百年前の術式をベースだけ残して思いっきり書き換えてるんだけど、なんだろこれ。やたら記号が多くて、ぶつ切りのワードの寄せ集めみたいな感じなのに、妙に整然としてるというか……。コレ、一応こっちの魔術言語使ってるけど、この世界の文法じゃなくない? 君の前世の世界のじゃない?」
「は? 見せてみ……やっぱいいわ。だいたい分かった。オレが見てもさっぱりわからんやつだ。マジか」
「うん、マジマジ。多分混ぜこぜっていうか、ハイブリッドなんだろうけど。それで、行われたのは多分、人体生成と魂の転生術式? うっわぁよくやったなこれ。成功確率どんくらいって……神の腕への接続と世界干渉? ひゃっふぅ絶対正気じゃないよコイツ! 最高に最悪だ! こんなの一歩間違えれば世界の理が全部瓦解しちゃって……」
「……どした? いきなり固まって」
「うん、ちょっと黙って」
連れを黙らせて、ボクはそれを見つめる。
大量の魔術式に上手くとけこませて迷彩化した、極小の違和感。
中身より外側の方がよほど大きい、とっびっきりの宝石みたいなオモチャ箱。
この世界の法則を弄くった大罪人が、ボクだけのために残したメッセージ。
……ああ、なんということだろう。ボクは歌うように口を開く。
「―――我ら、真実を求め闇へ踏み出す者」
それは、ブラックボックスを開く合い言葉。
「―――我ら、未知の全てをつまびらかにする者」
それは、契約の祝詞。
「―――我ら、学究の徒」
決意の表明。
「―――世界に挑み、神を殺す者なり」
どうせ知りたいんだろう、と。そいつは扉の先で待っている。
「―――我、同朋として、汝の名を知る権利を主張する!」
フォン、と。
魔術陣がおぼろに起動して。
その名が浮かび上がる。
「……あ、は」
白波のように。
あるいは、シロアリの侵食のように。
その夢のような光景が現実であると、心が理解していく。
「アハハハハハハハハハハハハハハ!」
笑ってしまった。笑わずにはいられなかった。これはダメだ。満面だ。満額回答だ。
こんなの、最高すぎる。
「覚えた」
生涯忘れまい。
なんなら来世まで持っていこう。
「……うん、これは大変だよゴアっち。いや、ゴアグリューズ。魔王ゴアグリューズ・バドグリオス・ハイレン・マドロードゥニウス」
「お……おう、大変だ。お前がオレの名前全部覚えてた。オレでもたまに忘れてメモ見てんのに」
「覚えてるに決まってるだろ? 君のその間抜け顔見るために、わざわざ暗記したんだからね!」
「ろくでもねぇ! で、なんだよ何が大変なんだ?」
「うん。今回、勇者と魔王の戦いはオマケでしかなくなった」
「はぁ?」
「このセカイはまだ未熟なんだ。いまだに創世期を抜け出せていない、不安定な状態なんだ。なのにこんな異世界の術式と神の腕で好き勝手するような危険因子、絶対に許容できない。こんなの放っておいたら、このセカイのコトワリがメチャクチャにされてしまうよ。人族も魔族も全部まとめて滅亡しかねない。コイツはまさしく災厄だ」
「超嬉しそうなんだが?」
「もちろんだとも! ああ、素晴らしい。なんて晴れやかな気分だ。こういう相手を待っていた。そうとも、彼こそがボクの敵だ! 魔王サマの前で口にするのは僭越だろうが、言わずにはいられない。此度の勇者と魔王の戦いは、もはや茶番に堕したってね!」
ボクはお腹を抱えて笑ってしまう。こんな暁光に巡り会えるとは思わなかった。
幸せすぎて踊りたいくらいだ。舞台はセカイで、彼と二人で!
「これから始まるのは、このボクこと学徒ククリクと、錬金術師リッド・ゲイルズの闘争なのさ!」
……この作品のタイトル、ダサくないですか?
というわけで、ここでとりあえず一章の終わりとなります。いかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけた方が居てくだされば幸いです。
この作品はここまで書き上げてから、推古しつつ投稿していく方法をとりました。
書きため分が終わってしまったので毎日投稿はこれにて止まりますが、またぼちぼち続きも書いていきたいですね。
できれば、異世界転生者たちがそれぞれの立場から世界に干渉し合い、状況をどんどん混沌とさせていく物語が書けたら……なんて思っています。
……ところで、やっぱりこのタイトル、ダサいですよね?




