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アルケミスト・ブレイブ!  作者: KAME
―転生錬金術師と儚き勇者―
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彼はすでに、遠き彼方を見据えて

 レティリエと共に地上に出ると、残りの全員がお待ちかねだった。

 遺跡調査隊の一行は人質としてひとかたまりにされ、黒装束たちに四方からクロスボウを向けられている。


「や、みなさんお揃いで。どうしたんです? お化けでも見たような間抜け面晒して。まだ怪談話シーズンには少しだけ早い……っと、これはあっちの風習だったか」


 ヤバイヤバイ。夏の怪談とかばっちり前世の話じゃん。また頭がおかしいヤツだと思われるとこだったよ。恥ずかしいなぁもう。


「動くな! なぜその侍女が生きているっ? 説明しなければ一人ずつ射殺す!」


 黒装束の一人が叫ぶ。彼が副官か? みんなおんなじに見えるから分からないな。まあ誰だって大差ないか。

 人質を殺されるのは困るし、ここはちゃんと説明しよう。


「気が変わったんで裏切りました。やーい間抜けども」


 黒装束のほとんどが僕に向かって矢を放った。いやあ、さすが訓練された軍隊。ろくに狙わなくても軌道が正確に急所へ向かってる。


 ザガガガガガガガ、と。飛来した全ての矢が打ち落とされる。僕の一歩前に出たレティリエが、片手で軽々と長剣を操ったのだ。

 剣技なんてもんじゃない。だって肘から先しか動かしていない。

 あの重い長剣を、彼女は指揮棒のように振り回す。


「……無用な挑発は感心しません。皆さんが射られていたらどうするつもりですか?」

「即死じゃなかったら治してたつもり……てのはダメか?」

「当然です。後でじっくりお話ししましょう」


 ヘイト稼いで無駄撃ちさせたつもりなんだけどな。

 まあいいや。たしかに軽はずみだったし。


「ああ、いくらでも付き合うよ」


 時間ならあるからさ。これからたくさん。


「お、おのれ! お前ら、人質を殺……」


 副官らしき黒装束が言葉の途中で後頭部を強打され、意識を失って倒れ込んだ。

 やったのは別の黒装束だ。メチャクチャ綺麗に入ったな今。やっぱこいつら精鋭だわ。


「そうだレティリエ。言い忘れてたけど、黒装束に二人ほど味方が紛れてるから」


 他方でもさっきクロスボウを撃たなかった黒装束が、別の黒装束に奇襲を受けている。

 ありがたいことに師匠が仕込んどいてくれたらしい。元々あっちの仲間だからな。魔術で認識をぼかしたんだろう。

 指揮系統もったし、彼らが攪乱してくれれば人質の危険はかなり薄まるだろう。だいぶ楽になったな。


「……その件についても、後で聞きますから」

「全部話すよ。けれど今は、楽しい実験の時間だ。……蹂躙しておいで、勇者様」


 レティリエが凄まじい速度で駆ける。

 結果は明らかなので、僕は視線を切った。

 あれはもう勇者ではない。神の腕だ。天災にも匹敵する災害の類である。ただの人間では束になっても勝てやしないだろう。


 僕は人質になっていた調査隊の方へ向かう。

 大人しくしておけばいいのに、混乱に乗じて彼らも応戦を始めていた。怒号が、魔術が、肉のぶつかり合う音が響く。あーあ、ぐっちゃぐちゃだなこれ。ちゃんと全員生き残れよ。怪我は後で治してやるから。


「みんな、そのままでいいから聞いてくれ」


 無茶な前置きをして、僕は勝手に宣言する。


「ちょっと用事ができたので、僕らは二人でロムタヒマに向かうことにした。なので皆様とはここでお別れです。おさらばです。今までお世話になりました。学院の方のいろんな手続きとか、面倒なんでそっちでやっておいてくださいね。よろしく」


「「「「「ふざけんな!」」」」」


 よし、まだ憎まれてるな。そのままでいろよ。

 僕はこれくらいがいい。英雄なんてガラじゃないにもほどがあるからな。


 自然、笑みが漏れた。

 そうとも。僕は勇者と共にあっても、英雄になんてならない。

 ふと思いついて周囲を見回せば、遺跡の入り口で黒猫が座っていた。高みの見物か。

 まったく。弟子の旅立ちくらい生身で見送ればいいのに。


「我ら千里眼の弟子、ことごとく星も届かぬ遙か彼方、前知不能の災厄を目指す者なり。……此度の見世物、お気に召していただけたでしょうか?」


 喧噪で聞こえないはずなのに、黒猫の一鳴きが届いた気がした。


 英雄なんてまっぴらだ。僕のような性悪には荷が重い。

 今回の勇者伝説はどうせ、異分子だらけでマトモなものになりゃしないんだ。なら英雄よりは災厄になろう。

 とりあえず王女と魔王には、生まれてきたことを後悔させてやる。


「終わったね。レティリエ、調子はどうだい?」


 最後の一人が無力化されたのを確認して、僕は少女に問いかけた。敵の黒装束が全て倒れ伏し、静かになった遺跡内を見渡す。

 結果は上々。死人もいないようだ。


「……湧いてくる力が強すぎて、慣れるのに時間がかかりそうです」

「だろうね。ま、そこは君が頑張ってくれ」


 さすがにそれはどうしようもないからな。地道に訓練してもらうしかない。

 さて、これで憂いは綺麗さっぱりなくなった。神聖王国の王女と裏組織なんて果てしなく面倒くさそうだが、あとはドロッドがどうとでもするだろう。


 ワナが走ってきて、レティリエに飛びついた。遺跡調査隊の他のみんなもやってきて、彼女を囲む。

 泣いて、笑って、喜んで。良かったな大団円だ。

 なんて微笑ましい。居づらいことこの上ない。


 僕はそっとその輪から離れて、遺跡の外に出た。外壁にもたれかかって大きく息を吐く。

 あんなところ、僕がいたら明るい空気が台無しだ。共に喜ぶ資格があるとも思えない。


「……あー、疲れた」


 ずりずりと、壁に背中をこすりながら座り込む。疲労で力が入らなかった。もう立つ気力もない。


 それでも僕には、自分に課した責任が残っている。

 遙かロムタヒマの地へと視線を投げて、これからの道のりに想いを馳せる。きっと今回の何倍も大変な未来が待っているのだろう。

 さすがにうんざりする。けれど、悪くない、と思う自分がいた。


 だって僕は今、ゴミみたいだった前世よりだいぶんマシだ。




 ……さあ、それでは異世界転生者として。

 同郷のやらかしを咎めに行こうか。

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