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アルケミスト・ブレイブ!  作者: KAME
―転生錬金術師と儚き勇者―
30/250

アルケミスト・ブレイブ! 2

「なん、で……?」


 その第一声に、僕は用意していた答えを口にする。


「君に苛ついたからに決まってるだろう」


 できる限り冗談っぽく笑ってやった。

 僕は性悪の小悪党だからな。なんでもかんでも思い通りに動いてやるなんて、そんなの嘘っぱちだ。

 騙して詐欺って裏かいて、舌出して中指おっ立てるくらいがちょうどいい。


「よくよく考えたら、君は自分のことばっかりだ。こちらの気持ちも立場も考えやしない。死ねば楽になるなんて、そんな甘い考えは僕が困る」

「な……そんな!」

「君をここで殺したままにしたら、僕はどんな顔で同郷のやつらに会えばいいんだ?」


 レティリエが絶句する。僕は深い、深い溜息を吐いた。

 まったく。早いうちに気づいたんなら、さっさと言ってくれりゃいいのに。


「王女だろうが魔王だろうが、知ったことじゃない。その二人には文句が山ほどあるんだ。会ったら絶対マウント取ってグチグチ言ってやる。そう決めた」


 本当に、同郷の二人はマジ許さないからな。


「……だから、君を生け贄にするなんて後ろめたい話はやめだ。姫様は自分で助けろ。魔王は自分で倒せ」

「それができないから、こんな装置に頼ったのでしょう? リッド・ゲイルズ。あなた、わたくしたちを舐めすぎじゃありませんか?」


 長剣の刃先が首筋に触れる。憤怒に満ちた声はエストのものだ。他の黒装束も得物を抜いてこちらを取り囲んでいる。

 あら迂闊。裏切られたって分かった時点で殺せばいいのに。


 でもそうだよな。君はそんな簡単に終わらせないよな。せめてこっちの吠え面見なきゃ。


「やり直します。今すぐ装置の準備に取りかかりなさい」


 無理だって。もう上書きしちゃったし。第一もうこの霊穴の魔素すっからかんでしょ。しばらくは起動すらしないよ。

 でもそんなこと言ったら怒られるに決まってるので、僕は別の話題をふる。


「エストさん。僕が人工生命の研究を始めたきっかけなんですけどね」

「あなたの話は聞いていません。すぐに……」


『反転展開・ドレインスライム』


 べぇ、と舌を出して。さっき筒からあふれた、床を浸すどろりとした液体……大量のヒーリングスライムの悪趣味な裏コマンド発動。

 コイツは元々培養液として開発したんだ。ちゃんと仕込ませてもらったぞ。


 ぼごり、と。スライムが蠢き、その場の全員に襲いかかった。僕やレティリエにもだ。

 対象設定なんて複雑なことしてないからな。そもそもコイツの感覚器官、すっげぇ鈍いから誰が誰とか判断できないし。面倒だからみんなで仲良くドロドロになろうぜ。


「な……!」

「すみません、その前に餌のお時間でした」


 驚く全員を前に、ケラケラと笑ってやった。エストは長剣を振るおうとするが、スライムに絡められてまともに動けない。他の黒装束もそうだ。

 まとわりつかれて動きが鈍り、そしてやがて力が抜けたかのように、がくりと膝をつく。うん、僕はまだ余裕だけど、普通の人間ならそんなもんだろう。


「さて研究のきっかけですが、僕って体内魔素は多いのに魔術が使えないという、悲しい特異体質でして。だったら、僕自身を魔力タンクとして扱えないか、と考えたんですよね」


 スライムに纏わりつかれながら腕を組んで、難しそうな顔をして述べてやる。絵面酷いな。


「僕の魔力を勝手に消費して、使用してくれる理想的なナニかを必死に考えました。いやまったく、魔力量がやたら多くて助かりましたよ。人工生命は金も手間もかかる不人気分野ですが、自分を餌にすれば金銭面はかなり節約できる。……ええ、もうおわかりですよね? そいつらの餌、人の魔力です。がっつり吸われると貧血みたいになるでしょう? 僕も最初の頃はそんなふうになって倒れてました」


 人の魔力を吸って、活性化させて生命力とし、また人に譲渡する。これがヒーリングスライムの基本仕様だ。

 ……結構燃費悪いんだよなぁ、これ。結晶状態から起動するときも、かなり魔力吸われるし。この辺も改良しないと市井に出すとか無理だろうな。怪我治そうとしたら気絶しました、なんて笑い話にもならない。


「こ、殺す……殺してやる!」

「あ? 誰に向かってモノ言ってやがる」


 僕は藻掻こうとするエストの胸ぐらを引っ掴んで、その鼻っ柱に思いっきり頭突きする。額に軟骨の折れる音が響く。

 まだ全然足りない。こんなもんじゃ溜飲なんて下げようがない。こちとら根暗の陰険なんで、ワナの足のこと忘れず根に持ってるからな。


 相手が怯んでいる隙に、長剣を掴み取る。力が抜けてるから簡単に奪えた。持ち直して、切っ先を眼前に突きつけてやる。

 まったく。これだから身の程を知らないヤツは。


「殺さないでください、の間違いだろ。なあ、王女様?」

「ヒィッ……」


 鼻血を流して尻餅をついたエストは後ずさろうとするが、スライムがぬめって上手くいかないようだ。全身ドロドロになりながら、恐怖で震えている。

 ざまぁないな。悪党の末路なんてこんなもんだ。僕も前世の最期はこんな感じだった。


 あまりの無様さに気を削がれ、僕はエストから視線を切った。レティリエに向き直る。


「行こうか、レティリエ。君もこれくらい平気だろ? ちょっとくらい魔力吸われたからって何の問題もないはずだ。わざわざ勇者の力を存分に引き出せるよう、生成体を調整しておいたんだしさ」

「え……?」


 スライムに塗れたレティリエは、しかしまったく平気そうな顔色で、驚いて自分の手を見た。

 ……気づいてなかったのか。僕、そこはちょっと頑張ったんだけどな。


 最初に彼女の血液サンプルを視たとき、魔力が空回りしている感じがした。仮にも勇者がたった二十人を相手に逃げるしかなかったのも、違和感しかなかった。

 その時は体調や状況のせいで流したが……彼女が後天的に勇者になったというならば、話は違ってくる。


 勇者になって日の浅い彼女の身体には、まだ勇者の力が馴染んでいない可能性が高い。

 というかそもそも、神の腕の力は人の身で振るえるモノではないのだ。

 では、それを調整してやれば?

 しかし、どうやって?


 どうやって、神により設計された生命のくびきを越えて、天上の音階に届かせる?


「……容量のでかいソフトをインストールした後は、一度再起動してやらないとな」


 誰にも分からない話を独りごちて、レティリエに長剣の柄を差し出してやる。

 ところで重いなこの剣。持ってるだけで腕がぷるぷるする。いやこれが普通なんだろうけども。


「さあ、レティリエ・オルエン。剣を取るんだ。君が今代の勇者だ。否が応でもやってもらう」


 生まれ変わった少女が僕を見上げる。

 続けて口にする言葉は、少し勇気が要った。



「そして僕を、君のパーティの仲間にしてくれ」



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