新王と新魔王
「―――つまり、人界に攻め入ったのは前魔王の方針であり、現魔王であるあなたの意向ではないと」
壇上からの確認に、答える声は凜々しくも美しい女のもの。
「その通りです、ナーシェラン王子。……いいえ、フロヴェルス新国王ナーシェラン・スロドゥマン・フリームヴェルタ。私はこれ以上の血が流れることを望みません」
新しき魔王も、新しき王も、相手に対して下手に出はしない。互いに対等であると態度で示し、それを咎める者はどちら側にも居はしなかった。
「だから休戦協定を結ぼうと? それは都合が良すぎるでしょう」
ナーシェランは厳しい声音で応じる。
人族に戦争を仕掛けたのは魔族側であり、難攻不落と思われたロムタヒマの壁は壊れ、フロヴェルスは現在戦力再編中である。そう易々と止まれる段階ではない。
なにより、神聖王国は魔族と手を取り合ったりはしない。
「魔族が降伏すると言うのであるならば、受け入れる余地はあります。それも条件次第でしょうが」
ざわり、と場が戸惑う。特に教会側の動揺が大きかった。
魔族は神に反する永劫の敵であり必滅の存在である。全て滅ぼすまで戦う以外に、フロヴェルスには選択肢がない。
降伏を受け入れる、というのは背信行為にすら値する可能性がある。
しかし、それを声高に口にする者はいない。ここに居る皆が魔王の顔に、声に、困惑していた。
彼女はこの国の第三王女と同じ顔であり、まさに今その王女は訳知り顔で、王たちのやりとりを眺めているのである。誰も彼もが正しく状況を掴みきれていないのだ。
「分かりました。対等な間柄を望むことはできないと。では、神聖王国は平和的解決の可能性を捨て去る、ということでよろしいですね?」
微笑みすら浮かべて一歩も退かず、魔王は返す。
「であるならば、これから流れる血は全てそちらの責であることを認識なさいませ。我々は我々が生き残るために、フロヴェルスという巨悪に抗うしかありますまい」
ざわめきが高まる。魔族に悪と呼ばれて、神聖王国の者が怒りを抱かぬはずはない。
だが、魔王はそんな周囲を睥睨し……天を仰いで、神に祈る。
視る者すべてが息を飲むような、完璧な所作で。
「―――おお、神よ。神よ、我々魔族は何故、あなたの敵であらねばならぬのか」
凜とした声はよく通り、式典の場の全体に響く。
「神がこの世の全てを創造したとのたまうならば、我々は失敗作か。あるいは……滅ぼされるために生まれたとでも言うつもりか。神に選ばれない存在であるが故に、産まれながらに罪があると、あなたがそう定めたのか。人族がそこまで可愛く、醜い我らに分ける愛など無いが故に、滅びの運命を受け入れよなどと傲慢に口にするものか」
ナーシェランは厳しい表情のまま、己の妹であった者を見下ろす。
アレは、神聖王国の元第三王女。聖典など全て暗記していて当たり前。急所を突くぐらいわけはない。
「新しきフロヴェルスの王よ。新たに教皇となる者よ。どうか教えていただきたいのです。……神は真意はいかなるものか。我々は、この世に生きることは許されぬ存在であるかどうかを」
移動中や空き時間などにいろいろ考えるスタイルなため、外出自粛すると筆が遅くパソコンの前でひたすらウンウン呻るとかいう悲しいことをしていました。インドア派なのに外出の必要性が問われるKAMEです。
さて、第六章神聖王国フロヴェルス、いかがでしたでしょうか。ほぼ固定の一人称でやる構成じゃないなこれ。本当に、いかがでしたでしょうか?
旅といえば一期一会、リッドたちは出会いと別れを繰り返して進んでいくわけですが、今回は再会という展開になりました。そして同時に、脇役が活躍する回にもなっています。
コレができるのって長く続けている特権的なものだと思うので、気分はついにここまで来たのかって感じですね。
では次章、「神殺し」をお楽しみに!




