8. 協力
何で屋根の上に人が!?
驚いて口をぽかんとあけているとその人物は屋根の上から飛び降り私と女の子達の間に着地した!
「キャー!ラインハルト様っ!!」
「いやだ!私達道に迷っていたそちらの女性をお助けしていただけですっ!」
「そうです!ちょっとあなた、もう道は分かったわよね?それでは、さようなら!!」
女の子達は口々に騒ぎ立てると顔を真っ赤にして表通りへ小走りに去っていった。
な…何なの!?
私は状況が全く理解できなくて立ち尽くす。
「何やら猫を探して屋根に登っていたら女性達の喧騒が聞こえてね。覗いてみたら3対1とは美しくない。
それにどうやら言いがかりだったみたいだからね?」
私に背を向けていた長い金髪を1つに結んだ男性は言いながら振り向き爽やかな笑顔をふりまく。
女の子達がキャーと言っていたのはこの人の顔面偏差が最高値だからだろう。まるで美しい絵画が飛び出してきたような整った顔をしている。
そして手には猫を抱いていた。
猫を探して屋根の上…は本当だったみたいだ。
「急だったもので私も何がなんだか…でも助かりました。ありがとうございます」
シリルを抱いたまま深々と頭を下げ日本式にお礼をする。
すると男性は私に一歩近づきまじまじと私の顔を見る。
「あの、何でしょうか?」
「おっと、美しいレディに大変失礼なことをした!私の名前はラインハルトと申します。どうぞお見知りおきを。」
「いいえ…私はハルと申します。あの、急いでいるので失礼します。本当にありがとうございました!」
ラインハルトさん、何を考えているのかよく分からないし早くロイと合流したかったので無理矢理切り上げその場を後にした。
・・・
ご飯屋さんの扉を開けると店内は人で溢れていた。店員に話しかけられる前にきょろきょろとロイを探す。
「おい、ハル!ここだ!」
4人がけのテーブル席ですでに飲み物を注文していたロイが手を挙げていた。さっそく私も席についてとりあえずアルコールと、ご飯はロイのおすすめを頼んでもらった。
「ぷはぁー!ビールおいしぃぃ!!ほのかに柑橘の香りがあって爽やかで!これ好きだなぁ」
「けっこう飲めるクチか?いいねぇ、俺も酒は好きなんだ。」
久しぶりの凝ったお店のご飯に舌鼓を打ちながらリラックスしてきて会話も弾む。
「そうだ!今日女の子に絡まれたんだけど"ロイ様の何なのよ!"って言われたのよ!?助けてくれた人がいたから良かったものの大変だったのよ!ロイってばそんなにアイドル級の人気者なの!?」
「そんな事があったのか!?そりゃあ悪かった…。最近はトレジャーハンターが人気でこれくらいの田舎町に滞在してると何を勘違いしてるのかファンみたいな子ができてな。
でも、今この町にもう一人いるトレジャーハンターの方が人気があるから俺にそんなファンがいるなんてびっくりだよ」
困ったような口振りだけど顔は嬉しそうだ。人が大変だったのにそんなにヘラヘラするなんて!!
「ちょっとねぇ…」
「ロイ!この店にいたのか!」
怒ろうとした時だった。
ロイを呼ぶ声がお店の入り口から響いた。気づいたロイは手を振ると声の主をこちらに呼び寄せる。
せっかく文句を言ってやろうと思ってたのに誰よ!?と振り返ると目があった。
「さっきの美しいお嬢さん!またお会いしましたね」
「ラインハルトさん!?」
ラインハルトさんはウインクをしながら私の隣に座る。
ロイの知り合いだったの!?
「何だもう顔見知りか?ハル、もう聞いたかもしれないけどこいつは俺と同じトレジャーハンターのラインハルト。で、今俺が用心棒として雇われてるハルだ!」
「職業は聞いてなかったけど、今日助けてくれたのがラインハルトさんよ!」
「またハルに会えるなんて光栄だよ!運命かな?」
ラインハルトさんは若干歯の浮くようなセリフだがスルーしておく。
私がおかわりを注文するついでにラインハルトさんのビールも注文する。
「ハルを助けてくれたのか。ありがとうな!」
「何てことはないよ。花屋のリリィが飼ってる猫が逃げ出してしまってね、探していたらたまたま出くわしたんだ。
…そうそう、あの時ハルが言ってたこの人形の呪いって本当なのかい?」
ラインハルトさんは私が肩から下げたショルダーバッグに入っているシリルを指差し不思議そうに眺める。
「聞こえてたんですね。あれは咄嗟に出た嘘です!これは大切なものなので彼女達に触られたくなかったんです…」
「なるほどね!ところでロイ、彼女の用心棒はいつまでなんだ?」
「特に期限は決まってない。
訳あってあちこち移動する予定だからな。ひとまずこれから王都方面に向かおうと思ってる。
今日、事務所で仕事依頼をストップする手続きもしてきたところだ」
「そうなのか…多分なんだが今王都まで行くのは難しいぞ?」
「「えっ!?」」
ラインハルトさんの言葉を聞いてせっかくほろ酔いで気持ちよくなっていたのに一気に酔いが覚めた!
シリルもびっくりしたのかバッグの中でごそっと動いた。
ラインハルトさんに詳しく話を聞くと、この店に来る前にトレジャーハンター事務所に寄り新しい仕事依頼の確認をしてきたばかりらしい。
その依頼と言うのがこの町から大きな町へ行く途中の森に出る魔物退治の依頼だった。
通常魔物退治は王都から派遣される騎士や魔道師の仕事なのだが、最近王都やそれに準じる大きな都市で魔物が多く現れており人手が足りず田舎町まで派遣依頼をしてもなかなか来てくれないらしい。
そこで遺跡発掘中に魔物と戦うこともあるトレジャーハンターに依頼がまわってきた。
しかも魔物退治が終わるまで馬車も運休しているそうだ!!
「えぇ!?それじゃあここから先に進めないってこと!?」
まだこの町に来ただけだけど、あんなに苦労してたどり着いたのに先に進めないなんて!
頭を抱えて泣きそうになる私の手をラインハルトさんはすっと取りまるで絵本の中の王子様がお姫様にするように甲に口づけをした。
「泣かないで、美しい人。僕とロイがハルの行く先を照らしましょう!」
「へ?」
「"へ?"ではないよ。ロイ、一旦私と一緒に魔物退治をしようではないか!」
ラインハルトさんはまず魔物退治を行って町に行く馬車が運行できるように協力してくれと言うのだ。
確かに王都から人が派遣されるのを待っていたらいつまで足止めされるか分からない。それならばと私も首を縦にふった!
「わかった。協力しよう!」
「ああ、よろしくな!」
ロイとラインハルトさんは立ち上がるとテーブルの上でがっちりと握手を交わした。
まぁ、それが一番の選択よね。私はその様子をおしぼりで手の甲をごしごししながら見守っていた。




