6. 道なき道
『まずは、国王様のお墓に参りましょう!そこに箱の鍵が納められています』
シリルは地図を広げると墓のある位置を指差した。
…マスコットキャラクターに指はないから手全体で指したのが正しいのだけれど。
「王族の墓は観光地化されてる公園の中にあるから大きな町に出て公園のある王都方面への乗合い馬車に乗るのが早いな!」
さすがロイは最近の国の状況を把握しているからか話が早い。
私は地図を見てもこの世界について全く分からないので大人しく一緒に地図を見ているだけだが一番気になることを聞いてみる。
「まず町まではどれくらい歩けばいいの?」
「とりあえず一番近い町までは2日だな」
「え」
・・・
「ファイトォォォ!!」
『いっぱーーつ!!!』
私は今人生ではじめてロッククライミングなるものに挑戦している!
挑戦せざる終えないからだ!!
マーガレット姫の幽閉されていた塔は山々に囲まれた秘境の地にあり近くに道らしき道はなく、獣道を歩きたどり着いた絶壁を越えるために命を懸けて頑張っている!
先にロイが崖を登りロープを垂らしてくれたので命綱として腰に結びつけていざ登りはじめた。
シリルは私の肩にしがみついてるが重さはほとんどないので苦にはならない。
むしろ日本式の掛け声を教えて、一緒に声を出してもらいながら必死によじ登る。
命綱があると言っても失敗したら岩にぶつかって大怪我をするのは目に見えているので一挙一足慎重に登っていく。
「はぁっ、はぁ…の、登りきった!」
かなり時間をかけてしまったので無事登りきった頃には日は随分と傾いていた。こんなに頑張ったのは何時ぶりかしら?
仕事でデスクワークを頑張るのとは訳が違うので体は悲鳴をあげている。
「よく登ったな!元お姫様だって言うから心配したけど上出来だな!」
「お姫様の頃の記憶はないわよ!ただの社畜よっ!それにしても、これじゃあ明日は筋肉痛だわ…」
今日はこれ以上進むことをせずここで一晩過ごすようだ。
ロイはテキパキと寝床の準備を始め手慣れた様子で近くにあった大きい木にリュックから取り出したハンモックを張っている。
私も手伝わなければと手頃な薪を集めて積み上げていく。
「ハルはここに寝てくれな」
「え?ロイのハンモックでしょ?そんな、悪いわよ」
ロイのリュックにはトレジャーハンターとして必要なサバイバルグッズが詰まっているがハンモックがふたつ入っているようには到底見えない。
「これでも俺は紳士なんだ!女性を土の上に寝かせて俺はハンモックなんてのは紳士道に反するからな。俺はシリルを枕にして下で寝るから気にするな!」
『ちょっと、聞き捨てなりません!枕になんてさせませんからね!』
食事の準備をしているシリルはロイの言葉を聞き逃していなかった!
食事はと言うとハンモックの設置を見ている間に薪の回りにはどこから出したのかナベや干し肉、根菜が並べられていた。
「すごい!これどこから持ってきたの?」
『ちょっとこの体に細工をしておいたのです…!』
そう言うとマスコットキャラクターの腰の部分に手をあてポケットに手を突っ込むとトマトを取り出した!!
「え!?すごいっっ!ポケットなんてつけてたの!?」
「何だそれ!?便利じゃねぇか!ってか俺の荷物もしまってくれよ!」
二人で驚き大きな声を出す!
『残念ながら何でもかんでも入れる訳には行きませんのでロイの荷物は預かれませんが、旅に必要なものは大体揃えてます!ハル、安心してくださいね』
「シリルありがとうー!」感動してもふもふとシリルをなで回した!
ちなみに、シリルは自身にかけた魔法のせいで長年睡眠を必要としない体になっており寝床の概念が無くすっかり用意するのを忘れてたらしい。
うん、ロイの枕になっても文句は言えない気がする!
・・・
森は静寂に包まれ焚き火がなければ回りが見渡せなくなった。
食事を終えると私は一足先にハンモックに横にならせてもらった。はぁぁ、生き返るー!
シリルは一晩火の番になったので体が燃えないよう距離をとって薪を追加している。
『そういえば、ロイはなぜあの塔のことを調べていたんですか?』
「確かにそうよね。こんなに森の奥まで来て。あの塔にすごいお宝があると思ってたの?」
落ち葉を集めた上に大きな布を敷いてロイは横になり今日の出来事をノートにメモしながら答えた。
「うーんと、もう数ヶ月前になるんだがトレジャーハンターとしてあまり調べていない地域を調査しようと思ってこの森に滞在してたら偶然見つけたんだ。
見つけたからって持ち主が分からなきゃ入るわけにもいかないから一旦町へ引き返して塔のことを調べたんだが不思議とほぼ情報がなかったんだよ!
どの文献にも乗ってないし塔から一番近い町の人達もそんな塔あるの?って感じで。
町一番のばぁさんを探して話を聞いたら昔魔女が幽閉されてたって言うんだ。そんな大層な塔なら普通は何かしら文献があるはずだし口伝えで町の人が知ってたっておかしくないだろ?でも全く無いんだ。
だから変だなと思って自分で調べようとしてたんだよ」
確かにおかしな話だ。
いくらマーガレット姫が亡くなって40年経ったとはいえ国民の暴動が起きるほどの大きな出来事だったのだから何かしら言い伝えが残っていても全く不思議でない。
『霊樹がマーガレット様の事を人々の記憶から消し去るようにしているのかもしれませんね…』
「なぜ霊樹はそこまでしてマーガレット姫に執着するのかしら?」
『それが分からないんです。王家は毎年奉納のため霊樹に訪れているので接点があったのは確かですが王の口からもトラブルがあった話は聞いたことがありませんでした』
焚き火はパチパチと燃え上がる。
ゆらゆら揺れる炎を見ていると瞼が重くなってくる。
「まぁ、先は長いからいずれ嫌でも分かるだろう?今日は早く寝ようぜ」
ロイはメモをリュックにしまうと焚き火を背にして丸まった。
確かに今日はいきなり慣れない事ばかりしてくたくただ。明日も町まで歩かなければいけないし寝て体力を取り戻す方がいいのかもしれない。
「シリル、ロイ、おやすみなさい」
森の中でなんて眠れないかと思っていたが疲れのせいか程なくして深い眠りについた。




