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5. トレジャーハンター

 

「シ…シリル!」


 自分の状況が危険だということはすぐに把握できた!

 声を振り絞ってシリルに助けを求めると、突然足元の土が隆起しツタが生えたかと思うとあっという間に刃物に巻き付き、背後にいた男性にも巻きつく!


「シリルぅ!び、びっくりしたよ!」

『ハル!お怪我はないてすか!?』


 男性から解放されたが驚きのあまり足の力が抜けてしまった!よろよろと膝をついてシリルに抱き付く。


「な…何だその生きもの!?ちょっとこれはどうなってるんだよ!?」


 ツタに縛り上げられた不審者が髪を振り乱して叫んでいる。

 赤茶色の髪の毛から覗く顔はなかなか整っている。見たところ年頃は同じくらいだろうか?

 不審者はシリルを見て驚いているようだ。


「何だはこっちの台詞よ!!急に女性の背後に忍び寄って刃物を突きつけるなんて何考えてんのよ!迷惑防止条例違反に銃刀法違反で即刻警察に引き渡すわよ!!」

「はぁ?何言ってるがわからないがあんた、そんな変な生きものを連れてるってことは魔女なのか!?」


 そうだった、この世界に迷惑防止条例も銃刀法違反も関係なかったわ。と思ったけれどそれよりも"魔女"と呼ばれたことに驚いた。


「魔女!?そんなわけないでしょ!か弱い一般女性ですっ!

 シリルは今こんな格好だけれどちゃんと元は人間だし!

 それよりも、貴方は何者なのよ!?不審者っ!!」


 シリルを抱きもふもふとしながら言い返す。

 あまりにも失礼な事を言われて腹が立つのでシリルをもふもふして少しでも感情を落ち着けようと努力する。


「俺の名前はロイ!トレジャーハンターだ!」

「……トレジャーハンター?なんだ、泥棒じゃない!」

「ち、違うっっ!ちゃんと免許だって持ってるんだぞ!ほら、これが免許…っっ!」


 ロイが体を動かすとツタは離さないと言わんばかりにより強く縛り上げる。


「いってぇぇぇ!ごめん!謝る!すいませんでした!!もう何もしないからこれ、外してもらえませんかっっ!?」


 悲痛な叫びに『また何か不振な動きをすればすぐに縛り上げますよ!』とシリルは忠告してからツタにかけた魔法を解いた。


「た、助かった!

 改めて俺はトレジャーハンターのロイだ!ほら、国で定められた免許も持ってる。怪しい者じゃない!」


 ロイは背負ったリュックから折り畳んだ紙を取り出すと私達の前に広げて見せた。


『ふむ、確かにトレジャーハンターの正式な免許ですね。』

「で?トレジャーハンターがなんで私に刃物を突きつけたのよ?」


「そりゃあ昔魔女が幽閉されてた塔ってのを調べてたら急にツタの間から炎があがってあんたが出てきたんだ。滅茶苦茶怪しいだろ!

 …でも急に刃物を突きつけるのはやっぱりやり過ぎだな。すまなかった!」


 地面にあぐらをかいたままロイは深々と頭を下げる。

 なんだ、そこまで悪い人じゃないのかも?


「私達はちょっと霊樹に用があってこれから出掛けるんだけど、たまたまこの国に通じた通路があの塔の中だったのよ」

「通じた?通路が?さっきのツタといいあんたは魔法が使えるのか?」


『ロイさん!先程から女性に"あんた"とは失礼ですよ!この女性は"ハル"です。

 魔法が使えるのは私"シリル"です!とある事情によりこのような姿でハルをお守りしています!』


 シリルがしゃべるとロイは改めて驚き「そんな事ができるのか」とシリルの姿をまじまじと観察している。

 嘘はついていない。でも私がマーガレット姫の生まれ変わりで恋心を取り戻しになんて言いふらすことではないので省いた。


「しかし、霊樹に用って何をしに行くんだ?

 これは忠告だがあの霊樹は怪しいぞ。極力関わるのはやめた方がいい。ハルとシリルの身に何かあってからじゃ遅いからな」


「『どういうこと!?』」



 声を揃えて詰め寄ると呆気にとられたロイは一瞬たじろんだが真剣な表情になり口を開く。


「まぁ、信じるか信じないかは自由だが言っておくぞ。

 俺の故郷は霊樹の近くにある小さな村なんだ。隣の家に妹みたいになついてくれてる女の子がいてな。その子は人懐っこくて村の皆から愛されてた。

 しかしある日霊樹からその子が次の巫女にってお告げがあったんだ。女の子の両親は高齢でやっとできた一人娘を手放したくなくてどうにかして辞退できないか国に掛け合ってたみたいなんだが、ある大雨の日土砂崩れに巻き込まれて亡くなってしまった。

 女の子は無事だったからそのまま巫女になったんだが…俺にはあの土砂崩れは偶然なんて思えないんだ。

 霊樹が何かしたって考えてる。

 でも相手はあの霊樹だ。今更巫女になったあの子を取り戻すこともできない…。悔しいけどな」


 ロイの話を聞いて私はシリルの方を向いた。シリルも考えていることは同じだったらしく目が合う。



「ねぇ、シリル以外にも霊樹が怪しいって思ってる人がいるのね!」

『はい、しかも最近の話のようですしとても興味深いです。』


「な、何だよ二人してコソコソと!信じなくてもいいって言っただろ。でも俺はマジで話したんだからな」


 私達が"信じられなーい"と話し合っていると思っているのかロイはちょっと不機嫌そうになってしまった。でもシリルとのひそひそ話はまとまった!



「ロイ、信じるわ!

 実は私達も霊樹が良からぬ事をしてるんじゃないかって思ってたの!!

 ねぇ、もしロイが良ければ私達を霊樹のほとりまで案内してくれないかしら!?」




「は!?」




 ・・・




「なるほど。ハルはその恋心の入った箱を取戻したい。シリルは霊樹を倒したいと…。」


 シリルはロイに今までの経緯を全て話した。ロイは終身真剣な表情で聞いてくれた。


「とても危ないのは承知の上よ。

 でもシリルはこの姿だと力の必要なことはできないし、用心棒も兼ねてロイに案内してもらえると助かるわ。ふもとまで連れていってくれたらロイは遠くに逃げてもらって構わないわ!もちろんお礼はするわ!どうかしら?」


 ロイは私とシリルを交互に見比べながら口元に手を置き悩んでいる。


「なぁシリル、本当にあの霊樹を何とかできるのか?」

『はい。その為だけに私は50年近く研究を続けてきました。』

「そうか…」


 口元に置いていた手をぱん!と膝に打ち付けロイは晴れやかな表情になった!


「よし!わかった!二人を霊樹まで連れていくよ!こう見えてもトレジャーハンターとしてはけっこう有名なんだぜ。力仕事も用心棒も任せろ!」

「ロイ!ありがとう!」

『ありがとうございます!』


 私はシリルとハイタッチをした!


「ただし!

 俺も霊樹まで連れていってくれ!二人を置いて俺だけ帰るなんてごめんだ。

 巫女になったあの子に会いたいんだ。もし淋しい思いをしてるなら村に連れて帰ってあげたい」


 ロイが巫女の女の子をずっと心配していたのは分かる。でも一体どれほどの危険があるのかは分からない。

 シリルは少し考えてから口を開いた。


『……分かりました。お互い危険は承知の上ですね!』


「おう!」





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