3. 勢いで決心
ひとまず、騙されたと思ってマスコットキャラクター改めシリルの話を聞いてみた。
どうやら私はセラフィス国王の一人娘、つまりお姫様の生まれ変わりなんだそうだ。
お姫様は取っ替え引っ替え恋をして仕舞いには近隣友好国の王子と恋仲になり婚約まで取りつけた。
しかし王子に飽き足らず他の男に恋をしたのがバレて婚約破棄となってしまった。
すると国民からは魔女と呼ばれ暴動が起き困った国王は娘の恋心を封印。そしてその身は塔に一人ぼっちで幽閉されてしまった。
幽閉されて10年、お姫様は病にかかり誰にも看取られずに亡くなったそうだ。
その生まれ変わりが私だと言う。
私が誰にも恋愛感情を抱けないのは私の恋心が未だセラフィスで封印されたままだから、らしい。
シリルの話が長かったのでいつの間にか手には缶チューハイが握られていた。
って、シラフじゃ聞いていられないから台所から拝借してきたんだけどね。
「娘を幽閉するだなんて怖い父親ね。」
『いいえ!国王様はずっと姫様の事を心配されていました。
国民の暴動を止めるためとはいえ恋心の封印はまだしも、姫様を幽閉してしまったことを心から悔やんでおられました。
いつしか国民が落着きほとぼりが覚めた頃に幽閉を取り止め、王位を放棄し父娘で静かに暮らすことを真剣に考えていらっしゃいました。
しかし、姫様が幽閉されて3年目に突然病に倒れてそれっきり帰らぬ人に─────。
こうやって私が姫様の生まれ変わったこの時代 にやってこれたのは国王様が姫様のためにと死の間際、私に託してくださった魔力のおかげです!
国王様がお亡くなりになられた後私は誰にも見つからぬよう自身の身体に魔法をかけて密かに城の地下で調べていました。
なぜ姫様の恋心はあんなにも強く病的だったのか。
恋心のせいで友好国の王子との婚約破談は確かに国にとってダメージはありましたがなぜ国民の暴動になるほど騒ぎが大きくなってしまったのか。
なぜ姫様の恋心の封印をし、今後恋をさせないようにしようと提案した国王に国民皆が猛烈に意見をし幽閉にまで至ったのか───。』
「まぁ、確かにビッチだったとは言え元々は国民に愛されていたお姫様なんでしょ?幽閉じゃまるで凶悪な犯罪者扱いよね。」
すかさずシリルからビッチとは何ですか!そのような言い方はお止めください!とダメ出しがはいった。
『私は不思議に思いこの国の歴史を洗いざらい調べてみたのですが、時たま姫様の時のような行き過ぎた歴史があることに気づきました。そしてそのような時に必ずある者が関わっていたのです』
「え?それって…」
『おそらく、ある者により操られ国を動かすほどの大きな騒ぎが起きているのです。
姫様の時も姫様の恋心と国民の暴動はある者により操られていたと考えられます…。』
「ある者…って?」
『我が国の中心には大きな霊樹が生えております。霊樹が放つ霊気により国は守られ繁栄しているとされています。その霊樹には必ず対となる巫女がおります。巫女は霊樹によって選ばれ死ぬまでずっと霊樹に仕えなければなりません。
巫女が死に、新たな巫女が選出されるまで早ければ数年、 遅いときは数十年巫女が不在になる時期がありますが巫女の不在が数十年と長くなると───』
「大きな騒ぎが起こるの?」
シリルは静かに首を縦にふった。
壮大な話に缶チューハイは3本目に突入していた。
「それは大変ね…
でも私の恋心を取り戻すのはまぁ鍵を見つけて箱を開ければいいわけで?それは解るんだけれど、国を救うって…そんなこと私がどうすればいいのよ?」
『実は姫様の恋心の入った箱の鍵が保管されている場所は分かっているので問題ないのですが、箱が問題なのです!
国王様は姫様の恋心が何者かに奪われてしまわないように霊樹のほとりに保管してしまったのです。
霊樹に近づけるのは王族の者と巫女だけで私のような一般の者が近づく事は霊樹の霊力により阻まれてしまうのです。
霊樹のほとりに一般人が行くには霊力の内側より招き入れてもらう必要があります。
姫様の生まれ変わりである貴女様でしたら霊樹にも近づけるはずです!なので霊力の内側に入ったところで私を招き入れ箱を取り戻し…あとは私の魔法で…霊樹を倒します!!』
「こんなちっちゃい体でそんな力を隠し持ってるの?」
『セラフィスでの自身にかけた魔法とこちらに来る魔法を使ったことで今は魔力が落ちていますが、私は国一番の魔道師です!必ずや霊樹にも打ち勝ちます!』
春姫はシリルを手のひらにのせてぷにぷにとつっつくが、シリルは小さな拳を握りマスコットキャラクターの身で力強く言い放つ。
シリルの懸命な話しぶりにほろ酔いの春姫は心動きつつあった。
『あのぅ…つきましては、ちょっと、こう、私に口づけをしていただけませんか?』
「口づけ?マスコットキャラクターに?いいわよ」
大して考えもせず手のひらに乗せたシリルの頭に軽くキスをした。
するとシリルが淡く光り手のひらから勢いよく後方にジャンプしくるりと1回転回ったかと思うと手のひらサイズだった体は成猫ほどの大きさに変わっていた。
「えっ!?なに!?どうなったの?」
『ふぅ、やはり姫様の生まれ変わりである貴女様の祝福を受けたことで魔力がまずまず回復いたしました!なので、とりあえず動きやすいよう体を大きくしてみせました!』
えっへん!と言った素振りで嬉しそうに話す。こんなことまで見せられてアルコールのおかげもあってかテンションが上がってきた!
「よーし!じゃあ倒しちゃおっかぁ?取り戻しちゃおっかぁ!」
『はいっ!!参りましょう!』
「と!ちょっと待って。私は今はシリルの国の姫様じゃないのよ!その姫様って呼ぶのやめてもらえない?」
『ふぁっ・・・あ、ではマーガレット様!?』
「ちっがーう!誰よ!マーガレットって?私の名前は有馬春姫!ハルヒ!ハルって呼んでね!」
『マーガレット様は姫様のお名前ですっっ。あ、ではハル様!』
「ハ・ル!!!」
『は…はるぅぅぅ!!』
酔っているせいかただの絡んでるヤンキーみたいになっていた…。
しかし無事ハルと呼ばせることができてうれしくなりシリルの頭をぐりぐりとなでる。
すると突然、閉まっていたクローゼットが開き部屋の中に冷たい風が吹き込んでくる。
クローゼットの中に入っていたはずの洋服は見当たらず中はどこまで続いているかわからない真っ暗なトンネルが真っ直ぐに伸びていて点々と小さな灯りがふわりふわりと漂っていた。
『セラフィスへの入り口をこちらにご用意しました!』
「すっごーい!!」
『あ、セラフィスに行くのにその格好では目立ってしまいますので失礼致します!』
シリルが言いつつ腕を大きく振ると上下ヨレヨレのTシャツとスウェットだった私の寝巻が見たことのない不思議なデザインの洋服に、足もとは柔らかい革のショートブーツという出で立ちに変わった!
『さぁ、準備はできました!』




