16. 噂話
あたりが真っ暗になった頃ようやく目的の国立公園に馬車が止まったが、残念ながら今日はすでに閉園していたのでそのまま王都中心まで乗せてもらい馬車を降りた。
王都にはガス灯が設置されていて夜でも明るく、建物はオレンジ色の煉瓦で統一されていて暖かみを感じる。
まるで凱旋門のような大きな門の奥には厳重な警備に守られたお城が見える。シリルが言うにはまだあそこはほんの入り口に過ぎなくてもっと奥まで続き門の中には湖や畑まであるという。
大通りから離れた静かな場所に宿の空きを見つけたので予約をとった。すると、なんと王都には公共の浴場がありこの宿からそう離れていないと受付の人に聞いた!ご飯の後にロイに連れて行ってもらう約束をしてひとまずご飯を食べに行く。
「明日は日が昇ってるうちに公園を散策して下見しなきゃな」
「下見して・・・?」
「できたらそのまま閉園まで隠れて、夜になったら・・・だな。どこに鍵があるかは分かってるんだよな?」
『はい、王の墓に一緒に埋葬されています』
「え・・・それって、王様の亡骸と一緒にってこと?」
もし一緒に埋葬されているなら王様も見ることになるの!?それは怖いっ!
「いや、たぶん遺体の埋葬とは別に生前所縁のある品物を収める部屋みたいなのがあるんじゃないか?」
『さすがロイ、その通りです!私たちだけで掘り起こすのは時間的にも難しいので私が魔法で開けようと思います』
「そうなんだ、よかった・・・」
公園は高い塀に囲まれているので無理に侵入するよりはどこかに閉園の時間まで隠れていたほうが良いとロイは判断した。敷地内は広くて緑も多いので隠れる場所はたくさんあるだろうとの事だ。
明日は昼過ぎからの行動なので夕飯もゆっくり時間をかけて食べてから公共浴場へ連れていってもらった。シリルは宿でお留守番だ。
「ではお二人様分の入場料金と貸しタオル代を頂戴します」
こちらの公共浴場はどんなシステムなのかなと思っていたら日本のスーパー銭湯みたいなシステムだった。
入口の受付で料金を支払ってタオルを受け取ってから男女別の建物に入りお風呂を楽しむようになってる。
「入口横に休憩室があったから出たらそこで待ってるよ。夜道は一人じゃ危ないからな」
「ありがとう!久しぶりのお風呂だからゆっくりしたいし、ロイもゆっくり入っててね!」
わくわくしながら女湯の扉を開ける!
・・・
「ふぁー…ぬくい!!」
はじめてなので勝手がわからず、ちらちらと回りの人の様子を伺いながら体を洗いお風呂につかる。
お湯は少し赤みがかっているから鉄分を多く含んだお湯なのかもしれない。残念ながら温泉成分に詳しくはないので美肌に効くのかは分からないけれど暖かいお湯に肩まで浸かるだけで体がほぐれて最高に気持ちいい!
どうやらこちらの人たちはお風呂に長く浸かるよりもサウナで有料のマッサージをしたりお喋りをしたりして過ごすのが主流のようで隣のサウナ室には沢山の人が出入りしている。
しばらく温泉で暖まってから出入りする人を真似てタオルを巻いてからサウナ室にも入ってみる。
ドアを開けた瞬間水蒸気が室内に充満していて奥まではよく見えない。しかしアロマでも焚いているのか柑橘の良い香りが全身を包む。
近くに空いていた台に座って回りの人と同じようにのんびりとサウナを楽しむ。水蒸気がすごいけれど温度はそんなに高くないので長くいられそうだ。
隣の台には友達同士なのかご婦人二人が楽しそうにお喋りをしている。"魔物"と言うワードで盛り上がっていたのでつい聞き耳をたててしまう…
「今日ウチの人に聞いたんだけど外は魔物が益々増えてきたみたいよ」
「怖いわね。王都の外に出掛けるのは不安ね」
「騎士団にも死傷者が増えてるって聞くしね。うちの姉の子も騎士団に所属してるから心配よ!」
「そうそう、第三王子と第五王子が魔物にやられて亡くなったらしいじゃない」
「え!第五王子まで!?怖いわー」
「それにしても王子って何人いたんだっけ?王女様は昨年お嫁に行ったお一人だけよね?」
「第五王子までは昨年の行事にも顔を出してたわよ。でも国王の事だから他にも隠し子が要ると思うのよね」
「そうよね。素晴らしい方なんだけどちょっとその辺だらしないわよね」
「うちの娘もそろそろ就職を考えないとなんだけど、城にお勤めさせるのはちょっと考えちゃうわ」
「国王の子だから王子も…?やだぁ、まさか!」
魔物からどんどん外れて盛り上がってる。噂話はどの世界にも溢れてるみたいだ。
それにしても今の国王は随分と女性にだらしない人みたいな話ぶりだ。マーガレット姫は魔女と叩かれて、国王なら黙認されるなんて…なんとも理不尽な話だ。
悶々と考え事をしていたらさすがに暑くなってきたので一度汗を流してからまたお風呂に浸かって外に出た。ロイは先に出ていたようで休憩室に顔を出すとすでに座って待ってくれていた。
「お待たせ!最高に気持ち良かったわ」
「良かったな。俺も久しぶりだったから楽しんだよ。ハルが来たいって言わなければ来なかったからな、ありがとう」
外灯のついたメイン通りは明るく、遅い時間にも関わらず多くの店がまだ営業していて歩いている人の数も多い。酔っ払いの団体がふらふらと蛇行しながら歩いているのを気にしてかロイは私の半歩前を歩いてくれている。
「そういえば中で王都の外には魔物が増えて王子も二人亡くなったって噂してたわよ」
「王子が?」
「えっとー、第三王子と第五王子がって言ってたかな」
「ふぅん…」
ロイは知らない話題だったらしくしばらく真面目そうな顔をしながら考え事をしているようだった。男湯では近々徴兵が行われる話で盛り上がっていたようだ。
「徴兵かぁ…この国の人は大変ね。もしかして、ロイも徴兵される可能性はあるの!?」
「一応徴兵は次男からって事になってるから一人っ子の俺は免除されてる。まぁ、これ以上人が足りないってなったら分からないけどな」
「そっか!ロイが抜けちゃったらどうしようって心配しちゃった」
「シリルがいるだろ?」
「そうだけど、この旅にはロイもいないと!って感じだから」
「へぇ、嬉しい事を言ってくれるな!」
ロイは気分が良くなったのか「一杯飲んでから宿に帰るか!」と賑わっているお店のドアを開けて私を手招きする。留守番していてくれているシリルには申し訳ないな…なんて思いつつもお酒の誘惑に負けてしまう。




