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15. 通行止

 

「すいませんお客さん、この先魔物が出たみたいで通行止めになってますね」


 馬車の振動が止り休憩かな?と思って起き上がったら思いもよらぬひと言が投げ掛けられた。


「そっかー…、もしかしてオルバに引き返すことに?」


「いやぁウチも王都で待ってるお客さんがいるんでなるべく早く馬車を進めたいとは思ってるんですよね。なので少しここで様子を見てもいいですか?」


 ロイが御者の人と話をしている最中、私は起き上がって窓から外の様子を眺めてみた。

 道の真ん中には、これが騎士団の人なのかな?長い槍を持った人が二人、この先通行できないよう検問のような事をしている。

 …と奥からもう一人出てきた。

 黒色のローブを着てフードを深く被ってる。


『騎士と、あのローブは国王直属の魔道師ですね』


 いつの間にかシリルも一緒になって外を眺めていた。


「じゃあシリルもあの人と同じ格好をしていたの?」


『黒色のローブは黒魔法が得意な魔道師が着るものです。白色もあってそちらは白魔法が得意な魔道師が。

 私はどちらも得意としていたので紺色に金糸の刺繍が入るものを着ていました』


「おー、シリル格好いい!」


 そんなうんちくを教えてもらっていたらロイが馬車の中に帰ってきた。


「お待たせ、魔物退治がいつ終わるか解らなけどとりあえずこの辺りで待機することになったぞ」


 馬車は騎士の人達に近くの小川で待機するよう指示された。騎士団が周辺を見回っているので遠く離れなければ馬車から出ても構わないと言われたので、外に出て昼食を食べる事にした。


「あー、よく寝た!」


「短い時間だったけどぐっすり寝てたぞ。けっこ揺れてたのに起きないんだもんな」


「そうだったの?全く気がつかなかった」


 ブーツを脱いで川の中に足をつっこむ。眠気も冷たい水でシャキッと覚める。

 ロイとオルバで買っていたサンドイッチを頬張っているともう一台、今度は商業用の馬車が止まり人が降りてきた。


「こんにちは、皆さんも足止めですか?」


 降りてきた男性が荷物を降ろしながら声をかけてくれた。荷物からブランケットを出すと座りやすそうな大きな石にかける。


「そうです、まだかかりそうでしたか?」


「恐らく…。でも早く王都へ行きたいのでギリギリまで待つことにしたんです」


「一緒です」


 男性は馬車に戻ると荷台に乗る女性に手を貸し「気を付けて」と声をかけながらブランケットを敷いた石へ案内し座らせた。女性のお腹は大きくて丸い。


「もしかして、妊婦さんですか?」


「はい。もうすぐなんです」


 女性は愛おしそうにお腹をなでる。


「商品の納品と妻の病院をかねて王都に行く途中なんです。早く退治してもらえるとありがたいですね」


 男性は荷物からリンゴを取り出すとナイフで剥きはじめた。随分と手先が器用そうだ。それに身重の奥さんを気遣っているのもあるけれど、とっても優しそう。リンゴを剥き終わると私たちにも振る舞ってくれた。


「ありがとうございます。ちなみに納品って、お仕事は何なんですか?」


「昔っから代々続く武器屋なんです。僕の代からはこんな小さいものも作ってるんですけどね」


 そう言うとリンゴを剥いていたナイフを指差す。


「そうなんですか!さっきそのナイフをケースから出すときに何本か見えたんで料理人なのかな?って思ってました。武器屋ですか…今その馬車に商品があるんですよね?」


 ロイはぜひ商品を見せてほしいと男性にお願いし二人で馬車に移動してしまった。


「あー、なんだか私の連れがご主人を連れて行っちゃってごめんなさい」


「気にしないで!あの人、仕事が好きなのよ。それに主人の作ったものを誉められると私も嬉しいし」


「…あの、いきなりこんなこと聞いて失礼だとは思うんですけど、ご主人とは出会ってからどのくらいになるんですか?」


「えーっと、学生の頃の同級生だからもう15年になるわね。でも付き合いはじめてからは3年、結婚して2年になるわ」


「そうなんですか。仲良しでいいですね!」


 いただいたリンゴは密がたっぷりでおいしかっ た。

 私は仲の良いご夫婦を見ながらもミアとベンの事を思っていた。

 二人も、もっと前から出会ってたら?もっと一緒にいられたら?…違ってたのかな?



「ハル、いいナイフが買えた。これは念の為持っていてくれ」


 帰ってくるなりロイが革のケースに入ったナイフを手渡してくれた。持ち手にユリの花が彫ってある。


「え?どうしたの急に」


「今後何かあった時の為だ。草木を切ったり万が一の時の護身用にもなるからな」


「わかったわありがとう。お金は・・・?」


「それは特別に俺からのプレゼントだ。ほら、最初お前にナイフ向けちまったからな、お詫びもかねて」


 そんなことすっかり忘れてたのに・・・。気にしなくてもいいのに、と思いながらナイフのケースを腰のベルトに付けた。なんだか一気に旅慣れした人みたいになった!


「ありがとう!」




 その後もなかなか馬車は出発できずしばらくご夫婦と話をしていたら御者の人がやってきて、やっと道が通行できるようになったと教えてくれた。

 3時間ほど時間を押してしまったので急いでご夫婦に別れを告げると馬車に乗り込み公園を目指す。


『ハル、奥さんに色々質問してましたね』


「うん、なんとなくね。ミアとベンの事があったでしょ?結婚している人はどんなきっかけで出会って結婚したのかなぁって思って・・・。ちなみにロイは今までどれくらいの女の子と付き合ったことがあるの?」


「え、俺か?3人かな。俺の仕事はどうしても一か所に留まれないから・・・なかなか難しいな」


「ふぅん、結婚しよう!って思った子はいなかったの?」


「長く付き合ってなかったしそこまでは考えたことなかったな」


「理想が高いの?」


「そんなことないと思うけどな」


 ロイにどんどん質問をしていたら「ちょっと待ってくれよ、恥ずかしくなってきた」とストップされてしまった。

 だって、シリルは恋愛経験ないって言ってたしロイにしか聞けないから・・・


『ハルはどうして急に恋愛関係の質問をし始めたんですか?』


「あのね、自分の恋心が取り戻せるかもって思ったら今まで恋愛について全く勉強っていうか、友達の話もあんまりちゃんと聞いてなかったから事前に知っておかないと私この年になってから初恋とかしちゃう訳でしょ?不利っていうか…あんまりつまづいていられないなぁーって思ったの」


「なるほどな。ちなみにハルとシリルの理想の人ってどんなんだ?」


「私は誠実で、嘘つかなくて、うーんできたらかっこよくて?話が面白くて・・・」


『私はあまり多くは望みません。この人だ!と思う方がいれば・・・』


「はい、ハルは高望みしすぎ!」


 ロイは水筒の水を飲み干すと「話はおしまい!ひと眠りする!」と横になってしまった。


 ずるい!結局ロイの理想の人は聞き出せないままだ。


 多分順調にいけばあと少しで私の恋心は取り戻せるんだ。そう思うと私が付き合う人はどんな人なんだろう?そんな妄想ばかりが膨らんでいた。

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