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14. 初カレ.2

 何かトラブルかと思って一歩納屋に近づこうとするとロイが私の腕をとり死角になる家の隙間に隠れた。


「シーッ、ちょっと黙って聞いてろ」


 喋ろうとする私の口を手で塞いで小さな声でそう言う。シリルもロイの方を向いてこくりと頷く。

 ミアが男性とやり取りする声がはっきりとではないが聞き取れる。


「うるせぇな、重いんだよ!3日と開けずに手紙送ってきやがって!」


「そんな、だってベンとなかなか会えないでしょ?たくさん話したいことがあるし寂しかったから…」


「俺は仕事で忙しいんだよ。そんな構ってられねぇしどの町に行っても騎士団に所属してるってだけで女には困らねぇんだよ」


「そんな…酷い!前はそんなんじゃなかったのに」


「いつまでも初々しくなんかしてられねぇよ!もう手紙なんて送ってくるな!返事がない時点で察しろよ!!」


 しばらく言い合いが聞こえた後、大股で歩き去っていく足音が聞こえた。私はこのやり取りに驚いてしまって頭の中で情況を処理しきれずロイのほうを見た。するとロイはこうなることを分かっていたのか大して驚いている様子もなく静かにミアのいる納屋の方を見ていた。


 しばらくはミアのすすり泣く声が聞こえたけれど、宿に戻るのか静かに立ち去っていった。私はミアに声をかけたかったけれどロイに止められてしまったのでミアが立ち去るまでそこで大人しくしていた。


「よし、大通りに出たな。こんな人気の無い道で女の子一人は危ないからな。帰ったみたいだし俺らも帰るか…」


「ねぇ、ロイは知ってたの?ベンのこと!」


「いや、知らない。けど18師団に所属してるって聞いてからちょっと引っ掛かってた。シリルもなんとなくは分かってたろ?」


『私は…男女の駆け引きというのに詳しくはないのでなんとも。でも18師団は入りたての若い騎士が所属するところなのできっと新米なんだろうかくらいは分かってましたが、こんな展開になるなんて…』


 帰り道、宿へ遠回りしてゆっくりと歩きながらロイは自身の推測を教えてえくれた。



「騎士になりたての若い男はだいたいがチョロいんだ。学校から出て騎士団に所属するとしばらく男だらけで訓練をして生活をする。で、きっとブルノーバーは初めての演習だったんだろうな、久しぶりに外に出て可愛いミアを見つけたら即恋に落ちたんだろう。初めは毎日のように会える、可愛い、癒される。そんな彼女を大切にしなきゃって思ってたとは思う。

 でもしばらく会わないでい他の遠征地でまた可愛い子を見つけたりするとすぐそっちに気が移るってのは目に見えてる。

 騎士団に所属してる男は頼りがいがある、給料は安定してる。なんて思われてけっこう人気だからな。大方、急に女にモテて気が大きくなってるんだろ」


「酷い…もう二人はどうにもならないの?」


「ベン次第だがさっきの話しぶりじゃもう駄目だろ。変に第三者が間に入ったって物理的な距離が縮まる訳じゃないしな」


『ミアがよりを戻したいと懇願したところでもうロイの気持ちは覚めてしまってるんですね。ヒステリックに言い寄っても益々逆効果…ですね』


「そんなに…たった数ヵ月で気持ちが変わっちゃうの?」


「ハルは分からないだろうけど恋って目まぐるしく変わる相場みたいなもんだよ。

 付き合いたては互いにめちゃくちゃ盛り上ってすっごく楽しい。

 相手のちょっとした仕草も可愛くて全部が愛しいと思う。相手の良い部分しか見えてないんだ。

 でもその盛り上がりがずっと維持できる訳もなくて、ちょっと約束の時間に遅れたり、意見が違ったりで相手の嫌な部分が見えると急降下だ。

 ミアとベンは遠距離で会うこともなかったから、ベンが何かのきっかけでミアの嫌な部分が見えたりしたときに新しい可愛い子が近くにいたら…そっちに気持ちが全部もってかれる。多分そんな感じたろ」


「はぁ…なんだか男性不振になっちゃいそう」


 聞いているだけで恐ろしい。そんなにも移り気だなんて。ミアは会いにも行けなかったわけだし結局ベンに振り回されただけじゃないか。

 人の恋心を何だと思ってるんだ!考えただけで沸々と怒りの気持ちが込み上げてくる。


「ハル、この世にどれだけの人間がいる?世の中はどれだけ広い?その中でこれだって人に出会える確率ってどんだけなんだ?

 …ミアはまだ若いしこれから男を見る目も養えるだろう。あんなバカ男で立ち止まってちゃ駄目だ。きっとあの子は前を向いて頑張れると思うさ」


「…随分と饒舌に語るわね。ロイもベンみたいな経験があるってこと?」


 心なしかロイとの距離をあけ、じろりと見上げながら聞いてみる。


「何だよ!?俺は紳士だぞ!今までに付き合ってた子とはめちゃくちゃ誠意をもって接してきた!いい加減なベンと一緒にしないでくれ!」


「ふぅーん、じゃあロイはミアみたいに裏切られた事のある側ってこと?」


「…。シ、シリルはどうなんだよ?魔道師であれだけ有名なんだ。そりゃあモテただろ?」


『あの、私は…幼い頃から勉強と研究で頭がいっぱいでそんな恋愛をする余裕なんて、そんな…』


 何故だかロイはシリルに話を振るとシリルは両方の手を頬に当てて照れるように話す。


「シリル、シリルなら私のこのもどかしい気持ちが分かるよね?力になってあげたいのに自分の経験がないからアドバイスしてあげることもできない!何もできないのが悔しいっっ」


 シリルを抱き上げてもふもふする。


「いや、アドバイスをしなくったって、ただ話を聞いてあげるだけでもいいんだよ」


 言いつつロイは顎で前を見るように促しながらシリルを取り上げる。

 宿屋の前には…ハンカチで涙をぬぐっているミアがいた。



 ・・・



 ミアは夜遅くまで私の部屋でベンとの酷かったやり取り、どんなにベンが好きだったか、どんなに悔しいか…たくさん涙を流しながら喋ってくれた。

 私はロイに言われた通りひたすらミアの気がすむまで話を聞いていた。ほぼ明け方の時間にロイを起こしミアを宿へと送ってもらった。




「おはよう…」


 ミアが帰ってから少しだけ仮眠をとっただけだから眠くてしょうがない。立っているのに今にも瞼は閉じそうだ。


『大丈夫ですか!?』


「今日は馬車の中でゆっくり寝てるといいさ」


「そうね…そうするわ」


 フラフラと馬車には乗り込もうとすると小走りにミアがこちらへ向かってきた。

 ミアこそ一晩泣きいて疲れているだろうになぜか顔には笑顔か浮かんていた。



「ハルさん!」



 息を切らしながら私の元へ駆け寄ってきた。


「ミア、わざわざ来てくれたの?」


「はい!お話ししておこうと思って…私、寝ずに考えたんです!

 私、なんであんなグズ男の為に泣いてるんだろうと思ったら馬鹿馬鹿しくなっちゃって、吹っ切れました!

 私、もっと可愛くなって今度は大人の男の人ともっと素敵な恋愛をするぞ!って決めました!昨日ハルさんに話を聞いてもらってスッキリしました!ありがとうございました!」


 ミアの目元は泣きすぎたせいで腫れぼったいけれど顔は憑き物か落ちたかのようにスッキリとしている。


「ハルさん、ロイさん、旅気を付けてください!またブルノーバーに来たら私のレストランに食べに来てくださいね、ごちそうしますから!」


 そう言うとまた深々とお辞儀をして宿に帰っていった。

 私はこのミアの行動を理解するのに随分と時間を要した。馬車が出てしばらくしてからやっと声が出た!


「え?え?なんで?ついさっきまであんなに泣いてたのに!どうして!?」


『ハル、混乱しないでください!』


「言い忘れたんだけどな、恋愛事で切り替えが早いのは大抵女の方だからな。どうでもいい過去の男はすっぱりと切り捨てて忘れる!

 対してベンはしばらくして新しい女に愛想をつかしてくると、ふとした拍子にミアの事を思い出してやっぱりミアと付き合ってれば…なーんていつまでも頭の隅でミアの事を想ってたりするもんだ」


「えーっ!?わからない!難しい!何なの!?恋心ってややこしいわね!」



 ふて寝のごとく横になり寝ながら馬車は次の目的地へ急ぐ。


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