13. 初カレ.1
「本当にありがとうございます。私、ミアと言います。ブルノーバーのレストランでウエイトレスをしています」
馬車が出発すると落ち着きを取り戻したミアは申し訳なさそうに小さくなっていた。
「気にしないで。だって通り道なんだし、泣いてるミアを見たら放っておけないもの」
「あの、でも…せっかくお二人でこんないい馬車に…もしかして新婚旅行とか?」
「いやいやいや、違うわよ!」
「俺達は仕事で一緒に行動してるだけだから」
ミアの言葉に思わず立ち上がって天井に頭をぶつけてしまった!こんな旅の格好で新婚旅行に行く?
私達が全否定するとなぜかミアは「そうなんですか」と残念そうな顔をしていた。なんでもかんでも男女をくっつけて妄想を広げないでいただきたい。
「それにしてもミアが泣き止んでくれて良かった。…ってあんまりこの話しはしない方がいい?」
「いえ…黙っていると色々考えちゃうのでお話させてもらってもいいですか?」
ミアがそれで良いのならと事の経緯を話してもらうことにした。
ミアが彼氏のベンと付き合い始めたのは3か月前。
ベンが騎士の演習でブルノーバーに2週間滞在していた時だと言う。
ミアの働くレストランに来店したのがきっかけでお互い一目惚れだったらしくすぐに付き合うこととなった。
ベンは演習の合間何度もミアの元へ足を運んでいたが、演習が終わりブルノーバーを去り遠くの地域に配属になってからはずっと手紙でのやり取りが続いていた。
ところがこの1ヶ月いくら手紙を出しても返事が返ってこない。
そこでベンの同僚と手紙のやり取りをしていた友人に相談したところ、今ベンの所属する18師団が魔物退治のためオルバに立ち寄っていると聞き、急いでベンの安否を確かめに行くのだと言うのだ。
1ヶ月前は魔物が頻繁に現れた時期と重なる。ベンが手紙を返せないほどの大怪我をしているかもと考えたら居ても立っても居られなくなり、急いで休みをもらってきたそうだ。
「オルバに着いてからはその18師団がどの場所にいるのかは分かってるの?」
「オルバは大きくないので、町の案内所で聞けばすぐに騎士団が宿泊している場所が分かると思います」
ミアは涙を我慢しているのか、苦しそうな顔でハンカチを握りしめている。そんな様子を見ていたら私も心配になってきてしまった。
「オルバで無事がわかるといいね」
「ありがとうございます…私、男性とお付き合いするの初めてで、手紙の返事がないだけでもう気になって気になって、仕事中も考えちゃってミスばっかりしちゃって…店長さんにはもう少し待ってみたらとは言われたんですけど、オルバなら私でも行けると思ったらもう…」
私には話を聞いてミアの肩をさすってあげることしかできないのがもどかしいと思った。
なぜだかロイは窓に肘をつき考え事をしているのかずっと外を眺めていた。
・・・
オルバに着いたのは夕方、昼までは晴れていたけれどいつの間にか雲が出てきてどんよりとした天気になっていた。
「お二人とも、本当にありがとうございました。…あの、これでは足りないと思うんですけど」
「いいの、お金は帰りの馬車代に使って」
「何かあれば俺達はあそこの宿に泊まってるから頼ってくれ」
ミアはお金をバッグにしまうと丁寧にお辞儀をしてから町の中心へと走っていった。
「そういえばロイ、今日馬車の中で随分と大人しかったね?馬車に酔っちゃってた?」
「いや、ちょっと気になったことがあって考え事してただけだ」
宿に荷物を置いてしばらくしてから夕食を食べに外へ出た。あまり食事を食べられるお店が多くないのか、どの店にも騎士団らしき若い男性が沢山いて盛り上がっていた。
ミアは無事に彼に会えただろうか?無事だといいけれど…。
なんとか空いてるお店を見つけて私達も夕食を終え宿に戻る。
「明日も朝早くから馬車に乗るから寝坊するなよ」
『明日はいよいよ公園に到着ですからね。私もドキドキします!』
「この世界は目覚まし時計がないから大変なのよね…明日のためにも早く寝るわっ」
宿への帰り道、道から外れた納屋の辺りで声が聞こえた。
「どうしてそんな事したの!?」
泣いているのか声が湿っている。でもこの可愛らしい声には聞き覚えがあった。
「ミア…!?」




