11. 伝説の魔道師
「何てことだ…」
シリルは全ての事情をラインハルトさんに話した。簡単にはい、そうですか。と理解してもらえるとは思っていなかったがラインハルトさんは暫く驚きの言葉を口にしていたけれど段々と「なるほど」だとか「そうなのか」と理解してくれた。
「シリルは約50年前に王都に勤めていた魔道師なんだね?」
失礼、と声をかけるとシリルの側に寄りよく観察している。
『はい、そうです。幸運にも私は霊樹の怪しい術にかからなかったようでマーガレット姫の事を忘れることもなく王が亡くなるまでお側でお仕えしておりました』
「シリル……君はもしかして、
シリル・ウォルシュかい?」
その名前をラインハルトさんが口にするとシリルはびっくりしてラインハルトさんに飛び付いた!
『私の名を知っているのですか!?』
「やっぱり!あの伝説の魔道師シリル・ウォルシュなんだね!?」
"伝説の魔道師"という単語に私とロイはびっくりして「どういうこと!?」とラインハルトさんに詰め寄った!
ラインハルトさんにはお姉さんが二人いて、上のお姉さんが王都で魔道師としてお勤めしているという。
小さな頃からお姉さんが魔法の勉強するのを見て育ったラインハルトさんは一緒になって魔道書を読んだりもしていたそうだ。
そこで何度も出てくる名が"シリル・ウォルシュ"。
シリルは幼い頃から類い稀なる魔法の才能を持ち、最年少で魔道師となりそのまま国一番の魔道師として一世を風靡していたらしい。
しかしある時からぱたりとその名を聞くことはなくなり今では伝説の魔道師として語り継がれているという。
「まさかこんな有名人にお会いできるとは!」
「シリルってそんなにすごいおじいちゃんだったのね…」
『おじ…!確かに永く生きていますがこの魔法は魂が老いることのない魔法です!まだおじいちゃんなんて歳で…っ』
「伝説の魔道師に協力できるとあらば僕は喜んで協力するよ!」
シリルが喋っている最中だったがラインハルトさんは感激した様子でシリルに抱きつく。
「ありがとう、ラインハルト。信じてもらえると思ってた!」
「当たり前だろう!」
男性同士の友情も深まったようだ。
アイス・ウルフがいなくなった森は暖かくなってきた。
ひとまず町に戻って魔物退治完了の報告と馬車の運行再開を待つこととなった。
・・・
「ハル、シリル!さっそく明日馬車が運行するってなったからチケット取ってきたぞ!」
魔物退治から帰宅するとそのまま二人はトレジャーハンター事務所へ行き報告を済ませた。そして夕食後には馬車運行再開の知らせが一番に届いたのだ。
「本当に?早かったわね」
「まぁ、役得ってやつだな」
『これで前に進むことができますね!』
この小さな田舎町からもう少し大きな規模の町、ブルノーバーへ出てそれから王都行きの馬車に乗るらしい。
王の墓がある公園は王都へ行く途中で下車するのが一番近いそうだ。
「それで、次の町までは馬車でどれくらいかかるの?」
「明日の朝に出て、3日後の夕方には着くかな」
「はぁ…遠いのね」
・・・
次の日の朝、さっそく馬車乗り場まで歩いていく。
ラインハルトさんはもう少しこの町で仕事が残っているというのでここでお別れとなる。
「おーい、待ってくれ」
宿から出たところでラインハルトさんが見送りに来てくれた。
「魔物退治では一緒に行動してくれてありがとう。これ、報酬の折半だ」
そう言うとお金の入った袋をロイに差し出す。そして、そのまま袋は私の手に渡される。
「?」
「ハルが今は雇い主なんだ。預けておく!」
『ハル、お預かりしておきましょう。そして最終的に上乗せしてロイにお渡ししましょう』
シリルがそう言うのでポケットにしまってもらうことにした。
「昨日の魔物退治だけではまだ原因がよくわからなかっただろう?だから王都に勤める姉に手紙を書いて今どんな事になっているのか教えてくれるように頼んだよ。
返事が来たらロイが王都につく頃に俺からロイ宛の手紙をあちらの事務所に出しておくよ。確認してくれ」
昨日の魔物退治でのアイス・ウルフ達の強さは一般的だったらしい。では魔物が増えたのは結界が弱まったせいなのか?となったけれどやはり巫女がいる事もあり答えは出せなかった。
しかし、王都に勤める現役魔道師の情報なら何か分かりそうだ。
「助かる!ありがとう」
「ラインハルトさん、ありがとうございます!」
「礼には及ばないよ。僕もこの国のためになるなら何だって協力するさ。それに、美しいハルの為にもね!」
そう言ってまたウインクを私に向ける。
馬車乗り場まで行くと乗客がすでに何名か待っていた。やっと魔物がいなくなり馬車が再開したと聞いてチケットは即完売したらしい。
馬車は簡単な帆が張ってあるだけの簡易馬車だがこれに座ってるだけで次の町に着くなんて本当にありがたい!
さっそく乗り込みラインハルトさんに別れを告げると馬車は動き出した。




