第七章 終焉
リーダーの男を先頭に、反乱軍たちは波のように城へ押し入っていきました。
口々に「女王を倒せ!」と叫びながら。
「すまない。お菓子の城は完成できなかった」
「もういいのです。女王様」
「でも約束を破ってしまった」
「城は完成できませんでしたが」
男はすっと何かを取り出しました。
それは、
「カップケーキ?」
「私が作ったものですが……。女王様はカップケーキが大好きだったと記憶しておりますので」
それを聴いて女王様は嬉しくなりました。
男はちゃんと覚えておいてくれたのです。
「そういえば、お前の名は何という?」
「ザラムと申します。女王様」
ザラム、と女王様は男の名を復唱しました。
それはとても懐かしい名前で、なぜ今まで忘れていたのだろうと不思議に思いました。
「女王様、ここで2人だけの結婚式を挙げましょう」
「ああ」
「私たちは、もうずっと一緒です」
「そうだな。ずっと一緒だ」
ザラムは持っていたカップケーキを、女王様と自分の顔の間に持っていきました。
そして、2人は口づけをするかのように顔を近づけ、カップケーキを1口ずつかじりました。
「女王の間はこっちだ!」
城の門を破り、中へなだれこんだ国民たちは、まっすぐ女王の間へ進行していました。
ついに女王の間へとたどり着くと、リーダーの男は勢いよく扉を開けました。
「女王、覚悟しろ!」
声をはりあげ、ずかずかと部屋に入ったリーダーの男は不意に足を止めました。後から入ってきた国民たちも同じ反応をしました。
みなが目の前の光景に茫然と立ち尽くし、言葉を失ったのです。
「何ということだ……」
リーダーの男からもれた声はひどくかすれていました。目の前には自分達の生活を苦しめた憎い女王と、そんな女王に仕え続けた菓子職人の男がいました。ただ、2人は国民を前に逃げることも弁解することもありませんでした。2人は互いに寄り添いあい、床に横たわっていました。
2人の顔は驚くほど穏やかで、どこか微笑んでいるようにも見えました。
「……これは」
リーダーの男は、2人の側に落ちていたあるものに気がつきました。
「カップケーキ?」
特別な装飾などない、地味なカップケーキには2口かじった跡がありました。
「なるほどな……」
リーダーの男は全てを察したかのように息をつきました。
「女王様、あなたは自分の死をもって我々への行いに対しての償いをしたということですかな。そこの若い男は女王様の後を追って命を絶った……ということでいいのかな」
リーダーの男は後ろで立ち尽くす国民たちに向き直りました。
「我らの反乱はここまでだ。この2人を弔ってやろうと思うが、異存のあるものは?」
誰も何も言わせんでした。
リーダーの男の言った通り、女王様とザラムのための墓が作られました。最初は2人を別々の墓にいれようとしたのですが、仲良く寄り添う2人を引き離すのは可哀想だという声があがりました。
その意見をくんで、女王様と男は一緒の墓にいれられたのです。
教会の鐘が鳴り、墓の前に立つ国民たちは祈りました。2人はきっと恋人同士だったのだろう、どうか2人が天でいつまでも一緒にいられますように、と。
リーダーの男は前に歩みでて、墓の前で頭をたれました。
「どうか安らかにお眠りください」
そう言って、墓に花と女王様の好きだった甘いお菓子たちを捧げました。そして、そのなかには女王様の大好物でもあったカップケーキもあったのでした。
「女王はバベルの夢を見る」ついに完結です。
物語を書いていて、私は女王様をどうしても身勝手だと責めることはできませんでした。愛着が湧いたというよりかは、約束を守るために必死になる姿を責める気にはなれなかったからです。