第四章 愚者
それから何年か経ち、王女様は女王様になりました。女王様はもう結婚してもおかしくない年齢でしたから、大臣たちが近隣の国の王子さまや王様との結婚を薦めたのですが、女王様は決して首を縦には振りませんでした。少年のことが忘れられなかったからです。
しかし女王様は少年の名を覚えていませんでした。何で少年のことがこんなにも好きなのかも分かりませんでした。少年は特別顔が良いわけでも、身分が高いというわけでも何かに秀でていたわけでもありません。
それでも少年は女王様の心に残り続けていたのです。少年との約束をどうしても果たしたかった女王様に、ある考えが浮かびました。
「お菓子の城を造りましょう。城が完成すれば、噂をたどって彼が戻って来てくれるかもしれない」
そう決めた女王様はさっそく城の建設にあたる人材を集めました。
国中から集められた菓子職人や建築士たちは女王様の計画を聞いて困惑しました。
「そんなものできるわけがない」
「女王様は正気なのか」
みんな陰で口々にそう言いましたが、誰も女王様に逆らえませんでした。もちろん、お菓子の城造りはうまくいきませんでした。城の設計に建築士たちを困らせ、何より一番困ったのは国民たちです。お菓子の城を造るには大量の、それでいて大きなお菓子がたくさんいります。そのお菓子をつくるには途方もないほどの材料が必要です。小麦粉にバター、卵……。それらは国中から集められ、国民の生活は圧迫されました。
国民たちの不満は高まりました。
「女王は愚かだ」
「私たちの生活を何だと思ってるの」
「お菓子の城造りをやめさせろ」
「女王がいる限り、それは止まらない」
やがて国民たちは女王様に見つからないように「反乱」の計画を進めました。お菓子の城造りがうまくいなかいのに対し、反乱計画は賛同する国民が日に日に増えていったのです。