猫になったジャンと小さなロビン
これは、とおい、とおい、ある国のおはなしです。
王さまが住む、とある大きな町には、とても有名な大泥棒がいました。
大泥棒の名は、ジャンと言います。
ジャンはとにかく、人がたいせつそうに持っているものをぬすむのが好きでした。
ジャンの手にかかれば、とてもたかいところにある部屋からも、とてもふかいところにうめてある宝箱のなかからも、とてもかたい金庫からでも、欲しいものはなんでも手に入りました。
ジャンは人のものをぬすみます。だから、ジャンは町の人間から嫌われていました。ジャンはいつも一人です。
「なぜ人のものをぬすむんだい?」
誰かがジャンにたずねました。
するとジャンは言いました。
「人が大事そうにしていると、つい欲しくなっちゃうのさ!」
でも、違うのです。
ジャンは宝石が欲しいわけでも、玩具が欲しいわけでも、お菓子が欲しいわけでもありません。
本当は、もっとちがうものが欲しかったのです。
そんなジャンのもとに、ある時、知らない小さな男の子がやってきました。
小さな男の子は、なまえをロビンと言います。
「ジャンさん、ジャンさん。おねがいがあってあなたをたずねにきました。ぬすんでほしいものがあるんです」
「どんなものだい?」
すると、ロビンは言いました。
「僕のお母さんの『いのち』です。心のつめたい神さまにぬすまれた、いのちを、どうか、とりかえしてください」
ジャンはこまりはてました。
今までは、となりの家から、王さまの住むお城まで、いろんなところからいろんなものをぬすんできました。ですが、「いのち」をぬすむことは、今まで考えたことがなかったのです。
ジャンは、それでも、心のつめたい神さまから、ロビンのお母さんの「いのち」をぬすもうと考えました。
ですが、どんなことをしても、何をやってもうまくいきません。
とうとうロビンは泣きだしてしまいました。
その時になって、ようやくジャンは、いろんなことに気づきました。
ぬすむことで、自分だけが良い思いをしたいための、ずるい気持ち。
自分のものをぬすまれてしまった人の、かなしい気持ち。
「取りかえす」と約束したのに、それをやぶられてしまった、ロビンの涙の気持ち。
大泥棒のジャンは、くやしくなって、大泣きしました。
そして、自分なんていなくなれと思いました。
すると、涙をこぼすロビンの目の前で、ジャンは、みるみるうちに猫になりました。
ジャンは自分にばつをあたえて、ひとをやめて猫になったのです。
何をしても、きっとロビンはゆるしてくれないだろうと、ジャンは思いました。
でも、ロビンはそうではなかったのです。
「おいで」
ロビンは猫になったジャンをかかえて、お父さんの待つ家へと帰りました。
ジャンは腕の中で、安心して泣きやみます。
ジャンが本当に欲しかったもの、それは「かぞく」でした。
完