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崩壊世界の宿神兵(エインへリアル)  作者: ふくつのこころ
ハイエナ上がりのエリアル
7/18

スカアハの愛弟子

ベオウルフと別れた後、暁はスカアハに引っ張られるようにして部屋に引きずり込まれた。変わらずジャージ姿――というわけでもなく、ライダースーツタイプのエインへリアルのエンブレム付きユニフォームに身に包んでいた。クリーチャー退治に邪魔そうな長い髪はそのまま結わえていて、普段は怖いとスカアハのことを思う暁ではあるものの、今日はそうは思わなかった。

はじめて暁とスカアハが会った時のように見とれてしまっていたからだというのもあるが、今日のスカアハは大変お怒りの様子だ。理由はわかる。スカアハと珍しく食事をしなかったばかりか、ベオウルフに包帯を巻いてもらったのをスカアハに見つけられたからである。


「おい、エリアル。その傷は誰にやられた?あいつか?あの糞野郎なんだな?いい、皆まで言うな。お前の仇は私がとってきてやろう」

「待ってくださいよ!そんなこと、されて困ります!確かに先生が心配するのもわかりますけど、僕の上司になるんです。今、そんなことをしたら……」

「なら、お前は死ねといわれれば死ぬのか?私は嫌だ、せっかく育てた弟子を殺されてたまるものか。そうなるくらいなら私が殺す。私が手にかける。必ずな。……だから安心して待つが良い」


 そうは言うスカアハだが、目が全くと言っていいほど笑っていないのは暁の気のせいではないだろう。この女性は、この先生は間違いなく天羽々斬に抗議をしに行くという名目で魔槍を突き刺しに行くと見た暁は策を講じる。

――――考えろ、考えるんだ。こんなとき、アキレウスならどうする?

 思い出すのだ、パトロクロスを怒らせてしまった際にアキレウスが見せた行動の数々を。彼は一体どうしていたのか?どうやって気分を落ち着かせていたのか?その際にこちらに送ってきた視線を思い出せ。

『もう、アキレウスのことなんて知らないっ』

『悪い悪い。本当に反省しているんだ、パティ。どうしたら許してくれるんだよ』

『……うーん、アキレウスが私と一緒にいてくれたら考える』

『ああ!いてやるよ!』

 ずいぶん、参考にならないケースだったがこれはスカアハに有効だろうか?暁の中では厳格で格好いい女性であるスカアハ、時折見せるスキンシップはさておき尊敬できる人物であるのに間違いはない。が、暁の中でスカアハに対してデートしますからやめてください、というのはあんまりだと思ったのだ。何よりセクハラだと思ったきらいが強いのかもしれない。

 

 しかし、他に策があるかと言われればNOだ。このまま放っておけば怪物殺しの権能の餌食にスカアハがなってしまうだろうから。クリーチャー殺しにおいてデメリットなしで一振りでクリーチャーのような人外を殺せるというのはこと戦闘においては強みであるのは間違いない。それが味方に振るわれないよう、エインへリアル上層部が天羽々斬に上層部と同等の権限を持つとされている小隊長の権利を与えているところから天羽々斬を自らの首輪で繋ぎ止めておきたいという魂胆が見られる。


「あの、スカアハ先生」

「どうした、エリアル。私は今更曲げるつもりはないが、食事のお誘いは歓迎する」


 スカアハが暁に呼び止められると、きっちりと振り返った。部屋から出ようとしているところで呼び止めてみたはいいが、そのまま出て行かれるのではないかと暁は思ったからである。


「僕がデートしますから、その……」

「エリアル、デートとな?そう言ったのか?」

「え、あ、はい」

「返事ははっきりせよ」


 その切り替わりの速さはコンマ二秒。そして、ここはお世辞にも広いとは言えない教官室である。デスクとエインへリアルの過去に計測したデータがファイルに纏められており、その中には当然のことながら暁やスカアハのデータも収められている。この教官室にはスカアハの性格上、暁とスカアハのものしかないのだが。

 スカアハはそのとき心臓の鼓動が早まるのを感じた。愛弟子に食事を誘われるのはこれが初めてだ。もしかしたら、それ以上のことも待っているかもしれない。経験が多そうに見えるスカアハだが、本人の男性の経験人数はさほど多いほうではない。むしろ、美人ではあるのだが訓練生に課す鍛錬があまりにも厳しすぎて受けようとするものがそもそも少ないのだ。


 スカアハは幸せを噛みしめていた。

 可愛い愛弟子の暁・エリアルに『でえと』とやらに誘われたことを幸せに捉えていた。その裏に天羽々斬の権能の餌食にスカアハがなってほしくないから、という理由で暁によって利かされた機転ではあるものの、真実を知れば彼女なりに曲解して愛情表現を行うであろう。その愛情表現は彼女の原典となった北欧神話に登場する影の国の女王のようにいささかやり過ぎでヤンデレじみてはいるが。

―――嗚呼、私の愛しの暁。そんなに私のことを……っ!

 気がつくと暁はスカアハに肩を思いきり掴まれていた。端正な顔がすぐそばにあると恥ずかしいと思う。色白で綺麗な黒髪のロング、暁よりは身長は少しばかり高くてスタイルが良いと来たらより取り見取りのはずなのだが彼女の残念さはここに来ていた。そう、スカアハは最近少しばかり背伸びしてボサボサ頭をブラシを通しているのもあって暁の顔も引き締まってきたし、昔から知っているスカアハにとっては可愛いことこの上ない。つまるところ、スカアハは両頬を手で挟んで呼吸を荒げていた。まるで呼吸困難のように荒げるものだから、暁が心配して「だい、丈夫ですか?」と下から覗き込んでくる。心配そうな様子もまた可愛らしく、スカアハは天羽々斬を魔槍で串刺しにしてやろうと思う感情はすでに消えていた。


「……先生?」

「いや、なんでもない。私の疲れを癒してくれるのは、エリアル。お前だけだよ」

「僕の疲れは誰が癒してくれるんですか……」

「それはもちろん、私だ。私はお前のコンディションを把握し、体調が悪ければ私がカウンセリングを行ってやろう。――だって、私はお前の先生なんだからな?」


 そういう男前な発言をした師を見ていると、暁としてはスカアハはどうして生まれてくる性別を間違ってしまったのだろうと思った。しかし、違う性別であったのならば豪快な性格からきっとフェルグス・マック・ロイとかクー・フーリンやフェルディアと言ったようなほかの名前になったのではないだろうか。エインへリアルは生まれた時から権能がどんなものかを調べることが必要である。

 戦闘でどんなことができるのか?というのは旧人類・オールドを護るという、エインへリアルの宿命において必要なことだからだ。いまいち、スカアハの権能をよくわかっていない暁はまた聞く機会はあるだろうか、と思いつつスカアハに部屋のほうへと引きずられていくこととなる。あんなに嬉しそうなスカアハが久しぶりだったから、気にしなかったのもあるが。



「……チッ、思い通りにならないな」


 そんな二人のやり取りを見ている者あり。

 このヴァルハラに於けるエインへリアルが着用している赤銅色にエンブレムの入った征服をまとわず、黒のロングコートの男はスカアハと暁のやり取りを見ていたようだ。黒い手袋に黒いズボン、黒いブーツと彼が白髪でなければ、顔を出さずにすっぽりと顔を覆うフードをしていれば、彼の表情をうかがうことは黒ずくめゆえに難しかっただろう。


「……まぁ、いい。リヴァイアサンの目覚めにはまだ早いとして報告しておこう。下手に計画が早まるのも困るからな」


 そう言うと男は黒いデバイスを取り出し、その場からまるで権能でも使ったかのように姿を消した。





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