ぺリウスメレア
暁に果たしてハーレムは作れるのか
というわけで鍛錬パートです
一日の業務が終わり、ヴァルハラのエインへリアルの教育施設がある。そこはドーム状になっており、いわゆる体育館の形になっている。ヴァルハラは創始者のオーディンの意向によって非常に大きな作りとなっていて様々な施設が存在する。幹部用の施設、エインへリアルの居住施設、食堂に記録の保管庫といった具合にだ。噂には地下施設も存在しているらしい。
エインへリアルの教育施設において教官のスカアハは暁に頼まれ、鍛錬の監督を行っていた。スカアハは他にいるエインへリアルの教官に比べ、トレーニング内容が厳しいことで有名だ。そんな自分に監督を頼むとは暁はなかなか見所があるやつだと思い、スカアハはなんとなく誇らしく思った。とまぁふざけるのはおいておいて、暁が自分のところに来るのは何らかの迷いがあるときだ。今回もまた何かがあって自分のところにやってきたのだろうと見た。
旧時代の体育館と言うやつには円形のサークルのようなものが体育館の中で作られていると聞く。トラック内を雨の日に走れるように作ったと聞くが、エインへリアルの教官の中で他と比べて体育会系であるスカアハにとって興味深いものだった。しかし、なかなか自分の鍛錬を受けに来る者がおらず、自ら志願しにやってくる暁に課してやろうかとスカアハの権能によって作り出した『鍛錬用標的人形』の攻撃を見慣れぬ槍で攻撃をかわしながら一突きを浴びせる暁を見ながら思う。
スカアハの権能は魔槍を用いるが、それ以外にも様々なことを超常的な異能で可能とすることが出来る。エインへリアル天羽々斬小隊隊長、天羽々斬のように前線に出れないのがスカアハの悩みだが後進を育てるのもまた面白いものだ。口元に笑みを浮かべつつ、ボディラインがジャージの上でも分かるスタイルに長い髪を結わえて槍を立てている様はまるで戦乙女のよう。
「突きが足りんッ!槍を使うのであればリーチを生かせ、己の領域に入ってこさせぬよう心がけよ、我が弟子エリアル!」
「はいッ!」
「声が小さい!」
そんなやり取りをしながらも、暁はアキレウスの槍――ぺリアスメレアを構えなおし、鍛錬用標的人形の得物である槍をかわす。スカアハが「これからアキレウスの槍を使って戦いたい」と言った暁の気持ちを汲み、用意したそれらの攻撃ははじめて槍使いとなる暁が初心者であるにも関わらず情け容赦が無い。暁自身に期待していると言えばよく聞こえるが、何も知らない他のエインへリアルからすれば暁の行動は狂気の沙汰であろう。
しかし、暁の身体の動きを作り上げたのは他でもないスカアハである。アキレウスの死後、晒し首となっているのを見て苦しんでいたのをスカアハが見逃していたことは無く、ぺリウスメレアを持ってスカアハの元を尋ねたときに何も言わずとも彼女は目を丸くしていた。
詳しいことは聞かれなかったことがそのときの暁には嬉しかった、ただ彼女の教えに従っていれば確実に強くなることが出来るのだと。そこでアキレウスの言葉を思い出す、「いいセンセイがいればやるき出るだろ?」と言っていたのを。彼はスカアハに教授していたわけでなく、アキレウスが師事していたのはケイローンという弓使いのエインへリアル。非常に博学でアキレウスの知る多くのこと、それに礼節を教えたのは他でもないケイローンである。以前に座学を学びに言ったことがあるが、ケイローンは確かに教えるのが上手かった。
表も裏もあるのかはっきりしない170センチはあるであろう、デッサン人形のような鍛錬用標的人形による攻撃をいなしつつ槍で突く。穂先に己の権能によって生み出した炎を灯し、小さくも勢いの強い槍による一突き一突き一突き―――!的は三体、心臓にあたる部分には小さく丸がしてある。きっとスカアハが刻んでおいたのだろう、想像するとなんだか可愛らしい。
――ぺリウスメレア。
たとえ、鍛錬であっても常に全力であれ。それがスカアハの教えだ。自分の視線があっても気にせずに鍛錬せよ、と言うがスカアハの容姿は大変麗しいので最初の頃は見とれてしまって怒られたこともある。素直に伝えたときに部屋に連れ込まれたのは暁にとって永遠の謎であるが、それは周囲とスカアハのみぞ知る。
ぺリウスメレアの名を心で叫ぶと、それこそアキレウスのものからはまだまだ至れてはいないが穂先から『火炎を吹いた』。火炎を“吹く”権能の効果はそれこそ“吹く”効果である。それは口からでなくとも可能で暁が念じさえすれば、それこそどこからでも吹くことを可能とするのだ。ゆえにアキレウスは暁に言ったのだ、その権能は強力であると。
(つくづく、エリアルの権能は強力なものだ。流石は私が認めた男、技量はまだまだ未熟だが権能は一級品だな)
これこそ、暁の権能の真骨頂。
自分から己の殻に閉じこもり、自己評価が低かったものの決して暁の持つ能力は悪いものではない。ぺリウスメレアの名を呼ぶと、まるでその翼を羽ばたかせる場所を求めていた鳥のように火炎が広がる。正確な調整もあり、まだまだ火力は足りないもののスカアハの用意した鍛錬用標的人形を燃やし尽くした。
「できました!先生!」
「アキレウスのものに比べれば、まだまだだが……。まぁ良い、よくやった」
ぺリウスメレアが三叉槍の紋章のあった位置に光となり、吸い込まれてゆく。自らの魔槍とは違う仕組みであろうが、愛しの弟子が槍使いとなったことは喜ばしいことだ。自然な足取りでスカアハは暁に近寄り、その頭を胸元に寄せた。
「天羽々斬の奴に何かされれば私に言いに来い。私がなんとかしてやろう」
「せ、先生……苦しいです……。それにモゴォッ!?」
「フフ、遠慮するな。エリアル、お前は私の教え子なのだ、それくらい私が何とかしてやるさ。昔もよくしてやったろう?」
大きな柔らかい双丘が当たっているのもあり、暁はスカアハに訴える。そうしてジタバタしている様子さえも愛おしいとばかりにスカアハは手を緩めない。スカアハは暁より背が高いが、体格はそれこそ権能を使わなければ普通の女性にしか見えないだろう。エインへリアルの中で天羽々斬のように前線で戦うことをあまり許されず、細腕で十代少年の頭を胸元に抱き寄せ、恍惚とした表情でジャージ姿で後頭部を撫でているのでは残念美人と言ってもいいだろう。
自分の味方になってくれるスカアハはありがたいが、いかんせんやりすぎるのが玉に瑕だ。ふと幼少期を思い出す、アキレウスと喧嘩をして負けたときのことだ。泣いている暁を見かけ、最初はそれこそ暁を叱責したものの泣き止まない暁に対してスカアハはどうして泣いているのかと尋ねた。その際にアキレウスに喧嘩で泣かされたといった旨のことを伝えると、やり返しに行った(当時はアキレウスも子供なので食事に下剤を仕込んだくらいのスカアハ曰く、軽い悪戯らしいが)。それが何度も続いたのでケイローンが苦言を呈そうとしたらしいが、その前に暁からスカアハに頼んだのだ。
『あきれうすをいじめないで!』
言葉が足らなかったゆえにそれ以上のことを言えなかったが、以降、より一層、スカアハから可愛がられるようになってしまった。
「失礼します、スカアハ教官」
「……教え子との時間を潰すとはいい度胸だな?」
「これは上層部からの命令ですので。暁・エリアル、これから私と一緒に来てもらいます」
「は、はいっ!またお願いしますね!先生!」
スカアハが暁を堪能している時、ちょうど入ってきたのはきっちりと赤銅色の帽子と制服を着た一般のエインへリアル。スカアハが殺気を帯び、暁を抱き寄せるが上層部からの命令、と聞いてスカアハは眉を顰める。それを聞き、辞令を思い出して暁はするりとスカアハの蛇のような捕縛から抜け出した。張り切っているようにも見える教え子、そんな可愛らしい様子にスカアハは、
「いってくると良い、待っているぞ」
思わず微笑んでしまった、その愛らしさに。
ヤンデレなスカアハ先生
オッパイタイツ師匠と違い、表記はスカアハとさせてもらいます
槍使いに暁がなってご満悦なご様子、ちなみにジャージの色は暁の髪と同じ黒です