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崩壊世界の宿神兵(エインへリアル)  作者: ふくつのこころ
ハイエナ上がりのエリアル
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アキレウスの槍

意欲的に投稿しておりますが、これは予約投稿となります

なので、これ以降はいくつかスパンが空きますがご了承を

「エインへリアル事後処理部隊の暁。どうして此処に呼ばれたか分かっているかね?」

「いえ」


 翌日、暁はエインへリアル部隊の上層部の部屋に呼び出されていた。エインへリアルの制服の紋章である、狼の獣人が槍を持っている『バーサーク』の槍の穂が大きい特殊な制服に身に纏っている人物がエインへリアルを束ねる幹部の一人だ。べオウルフに不動とのやり取りを見られたと知らない暁は要領を得なかった。

 権能が火を吹くことから変化したことがエインへリアルである為にどれほど重要なことなのかを自覚していないのもあるが、よもや決意した次の日に事後処理部隊から実戦部隊に投入されることを予想しろと言うのは厳しいだろう。

 アッシュグレーの瞳と髪をした幹部の名はバロール。外見が変化するタイプでもなく、武器を用いるタイプでもない能力系のエインへリアルで主に搦め手を名前とたがわず得意とする。エインへリアル部隊の責任者でもあり、自分の管轄ではない事後処理部隊に所属している暁とは今日がはじめての対面となる。


 エインへリアルの多くはその性質上、神話や伝承の登場人物などになぞられる傾向にあり、暁を襲った不動の本名は不動明王というように大抵はそれら伝説的存在に名前をもらっているのが大半である中で普通の旧日本地域の名前を使っている暁は珍しかった。バロールは肘を立てて座ったまま、暁を見る。ぼさぼさの黒髪に黒縁眼鏡といい、もやしと言ってもいいほどに貧弱な体格。この体格では戦場で生き残ることは愚か立っていることも怪しいだろうが、そこはエインへリアル。成果を残せず、旧人類を護ることができなければ待つのは死のみである。よって、暁が死のうともバロールには関係ないのだ。


「君をエインへリアル実戦部隊に異動して欲しい。構わんね?」

「ええ、権能を見せなくてもいいですか?」


 一瞬、小さく炎が爆ぜたかと思えば暁の髪が少しだけ整った。ボサボサな髪に小さな爆発を加えることで起きた現象、当のバロールとしては気弱な印象を持っていたのでどうしてなのか尋ねておきたかった。“英雄”アキレウスの親友であったとデータにあったし、エインへリアルの建物の前の門には“英雄”アキレウスの槍で串刺しにされたアキレウスの首を晒し首としている。

 それについて尋ねてこないのか?

 尋ねて殺しに来い、そのときはエインへリアルとして使えない烙印を押してやる。

 バロールはアキレウスが気に入らなかった。勇猛果敢に挑む様はまさに神話の時代の英雄のそれ、名前に違わない強さを誇って臆せず意見する性格はバロールや上層部が気に入らなかったものの一つだ。それに気づいてもなお、アキレウスは暁とパトロクロスを護る為にエインへリアルとして戦い、散った。その遺体の当たることしかできないが、それでも屈辱を死後に与えたとなれば上々だ。


(さぁ、どうする?アキレウスの幼馴染)


「いや、構わんよ。戦場で成果を立ててくれればそれでいい。我々、エインへリアルの目的はオールドを護ることだけだ」

「分かりました。バロール殿、一ついいですか?」


(殴れ、殴れ。ここで殴れば、私は貴様を―――)


 炎の勢いがおさまり、暁は少しバロールのほうへと歩を進めた。バロールは待ち構えていた。どのように宣告してやろうかと。扉の外ではバロールの部下がおり、いつでも突入させることが出来るように透過能力持ちの接近戦に長けた者がいる。もやし同然の暁では敵わない相手だ。


しかし、バロールの予想は大きく覆る。


「アキレウスの首と槍を返してもらいましょうか」

「ほう?それはどうしてだ。クリーチャーを殲滅し、オールドを護って生存し、そして新たな戦いへと備える。それを“英雄”アキレウスは一時の感情の昂ぶりでたかが女一人の為にオールドの奴隷である身を顧みずに突貫して行った愚か者だ。そんな者が増えないよう、アキレウスを使って教訓としているのだ。エイユウ様もさぞお喜びだろう、自分の姿を死後も見せつけることが出来るのだから」

「しかし、それは十分ではないでしょうか?エインへリアル小隊隊長の天羽々斬隊長はまさに無敗と言える権能の持ち主であります。その権能でしたら向かうところ敵なしでありましょう。出撃回数が少ないのは玉に瑕ですが、アウスヴィに対する抑止力であるのは間違いない」


 このガキ、暁・エリアルはどうも頭と口がよく回るらしい。怒りを抑えながら身体を震わせる様はどうも心地良いが、そんなにもアキレウスの形見の品が欲しいのか。

 バロールには理解できなかった、あの愚か者の遺品が欲しいと言う暁の心が。しかし、これでもかなり暁は怒りを抑えているほうだ。昨日、己の権能に気づいた時から理解できたことがある。それは己の感情の起伏によって炎の火力は左右され、感情のままに操ることが出来るからだ。その際に炎の色が変わるし、アキレウスの槍があればアキレウスと共に戦っていることが実感できる。

 自分にとって憧れでヒーローだったアキレウスと戦えることは暁にとって、これほどの栄誉は無いのだ。


「いいだろう、好きにするといい。エインへリアル実戦部隊がなんたるかを天羽々斬の元で学んでくるといい」

「分かりました。では、失礼します」


 そう言ってバロールはアキレウスの首と槍を暁に渡すしかなかった。魔眼を持つ自分がただ炎を吹くだけの権能しか持たないだけの青二才に劣ることが許せないが、それでもここで自分自身の仮面を崩して青二才に優位に立たれるのはバロールの面子が許さない。お辞儀をして去ってゆく暁の背中を見送りながら、予想通りの反応をしなかった暁がバロールは憎かった。





 広い廊下を通り、エレベーターで1階に降りて門へと急ぐ。そしていつも通りの灰色の空の下へと出る。相変わらずエインへリアルでは生活できる環境では在るものの、空気は決していいとは言えない。腐敗が進み、見れた状態じゃなくなっているアキレウスの槍が突き刺さった首ごと門から回収し、帰路を急いだ。ヴァルハラの居住区域へと向かっている間、アキレウスの首に残されたC臓器が暁の因子と反応する。


「これは……」


 徐々に暁の右腕の中に収縮してゆく、アキレウスの首。左手に持っている槍がそれに吸い込まれていくようで、まるでアキレウスの身体の一部であることを槍が主張しているようだった。もしも、暁が本当に外見に違わないもやしのような精神の持ち主であれば槍をどこかに投げているだろう。しかし、暁は確かに燃え上がっていた。その炎に、アキレウスの意思(もの)を受け継いでいたから。

 エインへリアルとして思うところはあるが、このときの暁は自分がエインへリアルであることを無意識のうちに感じていただろう。C臓器に含まれているC因子が共鳴しあい、より強い権能を宿している暁の中に吸い込まれていったのだから。良い場所に葬ってあげたい、と思ってバロールに食って掛かった暁だったが、どうやら親友の死後に共に戦うこととなったようだ。


「一緒に戦ってくれ、アキレウス」


 右手の甲に消えていったアキレウスの首と槍。代わりに浮かんできたのは三本の槍。三叉槍(トライデント)のようにも見え、連なっているさまはかつてのアキレウス、パトロクロス、暁の三人でいたときのことを思いださせてくれる。アキレウスとパトロクロスとの繋がりを感じることが出来る唯一の品と一体化してしまったのもあり、右手は“手”であり“槍”となった。




 ただ、このことは誰にも言えそうにはなかった。


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