ミッドガルドⅡ
お久しぶりです、久しぶりの投稿です
“絶剣”のローラン。
常に携帯しているのは絶対に壊れないという謳い文句のある西洋剣、デュランダル。本人の技量もあり、振るわれれば、その剣はまるで身体の一部のように違和感がないと見た者は誰もが口を揃えて語る。同じく鋼のような肉体はデュランダルを遣わずともローランの腕っぷしから振るわれる鋼拳は凶器ともいわれる。
「で、どうするんだ?少なくとも俺は火の粉は振り払うぞ?」
「その綺麗な顔をアバタだらけにしてやるぜ!」
「難しい言葉、よく知ってんな」
「ローラン、テメェ……っ!」
エリマキトカゲの男はローランの挑発に青筋を立て、その身を震わせる。すると、空気が震えた。外の世界に生息しているとされている、アウスヴィの尖兵であるクリーチャーのドラゴンと呼ばれる種類に襟巻を広げる様子が酷似している。スラム街で殴り合うにはシチュエーションも場所も似合わない種類と言えよう。繰り出される攻撃は蜥蜴の鱗の鋭利さもあって、やはり身は引き裂かれる。
「いいじゃないか、こんなスラム街でもこんな強敵がいるなんて!」
異形と化した顔は苦悶に歪むエリマキトカゲ。対し、ローランの表情は強敵に出会えたという喜びに震えている。精神的な意味でも形勢は逆転、ローランの表情はサーリアと絡んでいた時よりも生き生きしている。
「ヴァルハラのエインへリアルだ!アウスヴィの尖兵であれば、投降せよ!」
割って入るように毅然とした青年が声をかける。歪な刀身の剣を持った金髪の青年と不思議な気配の少年、さらに槍を二本携えた精悍な顔立ちの男。
「チッ、ズラかるぞ!」
エリマキトカゲの男は手下に呼びかけると、ローランにやられた身体を引きずって全力で走り去っていった。
「お、おい!待て!」
「落ち着け、オスカー。……あのクリーチャー擬きに囲まれていたようだが、連れのお嬢さんも君も大丈夫か?」
「ああ、平気だ。……へえ、あんたらがヴァルハラの」
ローランは彼ら三人の制服にある紋章、槍を持った狼の皮を被った獣人を見て目を細めた。暁はそんな不敵なローランの様子に脳裏をよぎるものがあった、昔からよく知っていて頼りがいのある男。
――アキレウス。
懐かしさを覚えるも、その雰囲気はあまりにもアキレウスと似ていないだろう。アキレウスはこの男みたいにいきなり敵を向けたりしないし、アキレウスはアキレウスはアキレウスはアキレウスは―――。
「知っているのか?なら、話は早い。俺はディルムッド・オディナ。金髪で螺旋のような武器を持った奴は俺の親友のオスカー、で、こいつは暁だ。俺たちはここミズガルドでクリーチャーの反応が確認されたので、派遣されてきたんだが、もしかして、あの男はクリーチャーか何かなのか?」
暁の中で膨らんだものがディルムッドの中で弾け飛んだ。天羽々斬に襲い掛かっていってから、なにか自分の様子がおかしいと感じた。天羽々斬の時にしたって、アキレウスの槍を持って襲い掛かったし、あのときの自分は抑えが聞かなかったように思える。
(もしかして、クリーチャーに近づいているとか?)
だとしたら、最悪だ。アキレウスとパトロクロスに代わってやっていくと誓ったのに、自分がエインへリアルが殺すべきクリーチャーに変わってしまうとは。
「ねえ、ローラン?終わったなら帰ろうよ、ゆっくりしたい」
「少し待て。いや、ああいう奴がいてもミズガルドはおかしくない。外の世界がどんなものかは俺は知らんが、ここはそういう者がいてもまかり通ってしまう世界だ。あんたらはエインへリアル、だっけな?あんたらに似たような能力を持っている奴は何人かいる。俺だって、その一人だ。言い遅れた、俺はローラン。このミズガルドで暮らしている。後ろにいる女はサーリアだ。居候ってやつだな」
「そんな、居候とはひどいよ!……私はサーリア、ローランの恋人だよ!」
そう言ってローランは空間から一振りの愛剣、デュランダルを取り出す。オスカーとディルムッドの二人は「おお!」と目を輝かせた。どうやら、エインへリアルの中でも一大部隊を築くフィオナ騎士団の中でも屈指の勇士である二人から見ても評価できる代物であったようだ。
「その割にはあまり良い紹介をローランはしていないようだが……。しかし、本当に良い剣だな。それがお前の能力なのか?ローラン」
「ああ、これが俺の武器・デュランダルだ。その能力は絶対に壊れないこと。だが俺は事実を述べただけだ、ディルムッドとやら。他に俺にあるのはこの鍛えあげた肉体と反射神経だな、それと日々の鍛錬だ。それをやり続けることだな」
「なぁ、ローラン?」
「?どうした、オスカー」
「そんなに暴露して大丈夫なのか?お前の弱点を突かれるかもしれないんだぞ?」
ローランは自分の能力について、ぽろぽろと暴露する。自分の強さの秘訣を暴露するのはオスカーやディルムッドとしても自分を高めることができるという意味で参考にできるが、ローランは自分の手のひらを全て晒しているのでついさっき知り合った身としても心配だった。そんなに自分のことをぺらぺらとしゃべっても大丈夫なのかと。
ローランは不思議がった。この来訪者たちは不思議がっている、自分の強さの秘密を話すことはそんなにもおかしなことなのかと。剣を振るう、鍛錬した結果の肉体、日々精進しようという心。それこそが強さの秘訣だと語るのはローランにとっては対価のいらないものだ。
「そんなに不思議がる必要はないぞ、俺は強いからな」
ローランはきっぱりと言い切った、ローランの様子にサーリアはどこか得意げな表情をかすかに見た。ふんすっと言った表現の似合う、腕組みをしているローランの様子はサーリアの目を通してみて可愛らしいと思う。
「実際にローランはその言葉を言ってもいいから凄いよね、さっきの奴だってタイマンで殴り合っていたし」
「本当に規格外なんだな、ローラン……」
「ディルムッド、オスカー、アカツキ。もしよければ、これから俺の家に来ないか?ここで話していてもなんだしな。それに、またあいつらのような奴が来るかもしれん」
ため息をつくサーリア、ボロボロな様子であっても平然と立っているローランが普通に会話ができること、そして平気そうな様子からディルムッドはありえるかもしれないとさえ思っていた。
「ローランが言うのであれば、お言葉に甘えさせてもらおうとは思っているが……」
「お前はいいのか?」
「そのヒトが機嫌悪くなったりしない?」
暁、ディルムッド、オスカーはほとんど同時に顔を見合わせた。さきほどから怪しいまでにローランに好意を示しているサーリアという少女、容姿は見知らぬ彼らから見ても整っていると言えるし、自分の実力を知ってくれている。そんな相手と過ごす時間というのは男として大切にしたいところではないかと思うが、ローランはどこまでもマイペースな返しをする。
「もしかしたら、俺の新しい友になるかもしれない。ああ、礼は別に要らないぞ?」
ローランは気持ちのいい男だ。
少なくとも、このスラム街において心が荒むことなく、見知らぬ他人を家に招くと言うのは誰にもできるものではないだろう。それに礼を求めないとまで来た、そんなローランに好感を抱かないオスカーとディルムッドではない。
(こんな人でも、きっと……)
「その代わりと言っては何だが、俺と手合わせをしてくれないか?ディルムッドとは長物、オスカーとは歪な得物で相手をお願いしたい!」
暁はローランの言葉に嫌な予感がしていたが、その予想はどうやら外れではなかったようだ。
暁って実はホモなんじゃないかとまで