英雄殺しのハーゲン
仮面ライダーの放送とともに投稿です
VS英雄殺しのハーゲン戦
シグルド・オルム。
その名の意味は“蛇の目のシグルズ”。その名が出たのはドラゴンスレイヤーの北欧の大英雄、シグルドと戦乙女・ブリュンヒルドの悲恋の後、実は彼らには娘がいて大蛇殺しを成し遂げたヴァイキング、皮ズボンのラグナルとの子とされている者だ。祖父に竜殺しにしてオーディンの血を引くヴォルスングの血を引きながら、戦乙女を祖母に持つ母と同様に竜殺しを成し遂げた父を持つ英雄の子。
彼に関する記述はそもそも少なく、現在において分権が残されているかわからない。そんな英雄の名をなぜ目前の襲撃者は呼んだのか?
「シグルド・オルムって誰のことだ?原典を辿れば、俺だって竜殺しの逸話を持っている名前だぞ?」
「そうだよ。確か、ベオウルフの逸話は素手で邪竜を絞め殺したとか……」
イマイチ、要領を得ない襲撃者。
シグルド・オルムとは誰のことを指しているのかわからない以上、うかつに攻撃を仕掛けるわけにはいかなかった。目標の人物がこの中にいるから襲ってきたのならば、それがカストールにしろ、ベオウルフにしろ、暁にしても自分かどうかなんて答えようがなかった。
ここで殺されてしまえば、“英雄”アキレウスの二の舞になる。
ベオウルフはそう思っているからこそ、襲撃者に何も言えず、カストールは自分がいなくなれば体格の良い弟が飢え、権能をまだ上層部に隠しているヘレネを護れなくなることを思うとクラウ・ソラスの下で奥歯を噛みしめるしかなかった。
「違う、貴様だ。暁・エリアル。ヘラクレス・エインへリアル、アキレウス・エインへリアルに続いて貴様を殺さねばならん。我が名はハーゲン、英雄殺しのハーゲン。この剣は我が主の為にあり、貴様を英雄にさせん為にある魔剣である。権能を見せよ、その権能を切り裂いて貴様の最期を迎えさせてやろう」
ヘラクレス・エインへリアルは元より、アキレウス・エインへリアルと聞いてカストールとベオウルフは暁のほうを向いた。そこには既に暁の姿はなく、暁はペリウスメレアを構えて向かって行った。あの様子だと襲撃者―――ハーゲンを殺すつもりではないだろうか?
しかし、ここで手を出すのは得策ではなかった。
天羽々斬小隊所属のベオウルフ、エインへリアル特有の“戦闘民族的思考”に捕われた男が指揮する部隊において謎の敵には集団の輪を乱すとして関わってはならぬとされていた。
ベオウルフはよく直情径行と称されることがある。それは自分でも認めている。しかし、幼馴染のデリラが自我を失って傀儡となったかのように天羽々斬に媚を売るようになってからは決定的な何かが抜け落ちたかのように感じている。クラウ・ソラスを着たディオスクーロイの長兄は雄々しく、「今、助けに行くぞォォォォ!」と叫んでいる。一人だけ強化外骨格なんてものを纏っているから平気なんだとベオウルフは自嘲した。
そんなベオウルフが暴漢に徹している中、ハーゲンは槍を操る暁の攻撃を刀身の捻じれた剣で力の流れを逃がす。暁の手の甲に浮かんでいる紋章を見るからに間違いない。
この気迫に満ち、殺意を向けるエインへリアルこそがシグルド・オルムとハーゲンは確信した。
「!?」
『ヘヘッ、僕だってクラウ・ソラスがある。エリアルみたいな動きはできないかもしれないけどさ、ちょっとはマシな動きはできるつもりだぜ!』
「これは僕の問題だ!関わらないでくれ!」
『……あ?ふざけんじゃねえよ、弟弟子の名前をよくわからん奴に出されてヘラヘラしていられるほど呑気じゃない。それにヘラクレスって言ったら、同門だった。だからこそ、こいつをボコって話を聞かなくちゃならねえ!』
クラウ・ソラス越しから聞こえるカストールの殺意。装甲に覆われた腕で剣を振るい、ハーゲンと剣戟を行っている。両刃剣へと片刃剣を二本合わせて作り出し、両手持ちで斬る様だとか武器の扱い方はアキレウスと被るものがある。やはり、ケイローンの師事を受けた者という繋がりがあるからだろうか。
そんなカストールの突貫にもハーゲンはカラドボルグに似た武器を操りつつ、難なく対応することができる。カラドボルグに似た武器――タイタス・スローターはお世辞にも小さな武器とは言えない。むしろ、タイタス・スローターは大剣と言ってもいい。外骨格のクラウ・ソラスの付属武装の剣は空気のように軽く、装甲車の装甲のように硬い。
刃も、柄も、刀身も、どれをとっても一級品だ。
(カラドボルグみてーな武器だなぁ、おい)
クラウ・ソラスの付属武装の白兵武器、それによる剣戟を弾き返すのは並大抵の力量では済まされない。装甲車に外骨格、あまつえさえは重機も軽々と操縦しこなして見せるカストールは車両さえあれば、どんな状況にだって対応できるバリエーションの多さが武器だ。
申し訳程度に覚えた剣術はケイローンから「いつか必ず必要になるから覚えておきなさい」と教授されたものだが、まさか英雄殺しと名乗ったハーゲンと戦うのに使われるとは思わなかった。いや、使えるとは思わなかった。
クラウ・ソラスの剣、そしてハーゲンのタイタス・スローターは剣戟のビートを刻むたびにタイタス・スローターが歓喜の声を上げているかのように金属を削り取る。英雄殺しの権能とやらがどんなものかはさておき、このままの勢いと時折挟まる暁のペリウスメレアの突きで押せれば問題はないように思われた。
「本題は―――貴様だ、ディオスクーロイの長兄よ」
『!?』
「我が権能は、エインへリアル殺しの権能。タイタス・スローター、食い尽くせ」
「カストールさん!?」
『こっちに気を取られるな!カストールは、そう簡単に死ぬ英雄じゃねえってのは教授済みだ!』
ハーゲンがタイタス・スローターを呼ぶと、その形状が刺突武器により形状を近づける。
クラウ・ソラスの白兵兵装がタイタス・スローターに削り取られれれば、今度は戦闘を弟が得意とする武術へと切り替える。殴り合いの取っ組み合いでも平然と使ってくるのもあって、カストールの身体は拳撃も蹴りも記憶していた。そこに外骨格でのブーストも加われば、まさに向かうところ敵なしのはずだった。
タイタス・スローターは検索している。
生体兵器、それも魔剣の類とされるバイオウェポンは神話の英雄を再現するためにエインへリアルの持つC臓器と同様の細胞でできたものが搭載されている。C臓器は一種の生命体であり、生物の体内から出れば別の生命として活動する特徴を持つので容易に命を食らう魔剣を再現しやすくなっている。
カストールという英雄の“最期”をどのように決めるのか?
魔剣の類を自分の周囲で見たことがなかったカストール、取っ組み合ってタイタス・スローターを叩き落させれば、あとはポリデュークス仕込み(しかし被害者である)の武術で押し切ろうという算段だ。
とてもカストールからすれば、お世辞にも格好いいと言えないタイタス・スローター。
なぜねじ切れそうな形状で突きを入れてくるのか、と考えていた時だ。
「ディオスクーロイ・カストール。貴様の弱点、それは即ち―――」
『あ?僕に弱点なんかあるかよ!僕はポリデュークスとヘレネのおにいちゃんだ!エインへリアル最強の戦士と美女のな!』
「―――そういうのだ」
カストールは気がつけば身体が動いていた。
自分から不意打ちのように暁へと標的を変え、タイタス・スローターでその心臓を突かんとして狙ったところ、クラウ・ソラスを纏ったままで射程距離内へと入り込んだのだ。
カストールの弱点、すなわち、
『身内』である。