表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

【6】うさうさ方言

 振り向くと、見知らぬ男性がいた。

 濃色の髪と眼で、訝しそうに僕らを見ている。

 服装は崖の下の人達にそっくりだ。


「お前、そこで何をしている?」


 剣に手をかけて、面倒くさそうにしている。

 ゴロが僕を庇うように前に出た。

 低く唸り声をあげ、応戦しようとする。

 その間に逃げようかと思ったが、崖の上で逃げ道がなかった。


「上が騒がしいから来てみれば…あいつらの仲間か?」

「煩かったですか。ゴロが騒いで申し訳ない。…あいつらって誰ですか?」


 やはり戦争中だったのか。

 いや、国の名前を言わないから違う可能性が高い。

 恐らくここの団体は別の何かと戦っているのだろう。

 案外、山賊とか犯罪者系を討伐…するような面はしてないか。

 殆どの人物は人相が悪い。

 逆に盗賊団だと言われても納得しそうだ。


「違うのか?」

「違います。食料を探し求めて、ここにたどり着いただけです」


 嘘は言ってない。本当の事だ。


「…武器も無し、ただの孤児か」


 そう呟くと、男は剣から手を離した。

 ゴロは2、3歩下がり僕の横にくる。

 まだ警戒しているようだが、襲い掛かる様子はない。


「ほら、金をやる。さっさと失せろ」


 凄く見下されている気がするが、お金は受け取る。

 タダで貰える物はゴミ以外受け取る主義だ。


「二度と近寄るな。…他の奴に見つかると危ない」


 最後に優しげな顔で僕を見る。

 意外に良い人なのかもしれない。


『…マオウ様、行きましょう』


 男が横に避けたのを見て、ゴロが言う。


「ありがとう、ございました」

「あぁ。じゃあな」


 お礼を言うと、男は振り向きもせず別の方向へ立ち去っていく。

 崖を降りる道はあっちか。


『…どうしますか?』

「ここを離れましょう。お金貰いましたし、街に行ったら食料買えそうです」


 他の奴に見つかると危ないと言われた。

 この集団が善良な人達じゃない事がわかる。

 関わらないのが無難だろう。

 無理して捕まりひどい目に合うより、安全な道を選ぼう。

 ゴロは不満そうだが、食料が手に入ると聞いて大人しく後ろをついて歩いた。


「まぁ、悪い集団なら街の人に報告すれば対処してくれますよ。わざわざ苦労しなくても良いのです」

『同じ人間を? そうなんですか?』


 不思議そうな顔だ。

 魔物だって縄張り争いとかするだろうに。


「同族でも害があれば敵でしかないのです。ゴロ、街まで案内してください」

『わかりました』


 少しだけ、機嫌が良くなったのかゴロは尻尾を振りながら前を歩き始めた。








 歩いて10分ぐらいだろうか。

 ゴロが立ち止って、耳をピンと立てた。

 どうしたのだろうと思って僕も耳を澄ます。


「…ぐすっ…ひぐっ…うさ…うさ…」


 何かを引きずる音と小さな泣き声が聞こえた。


「なんでしょう」

『人の泣き声のようですが…匂いが変ですね』


 犬の様にクンクンと匂いを嗅ぎながら、ゴロが音がする方角へ動き出す。

 本当に犬じゃなかろうか。


「うさぁぁぁぁ!?」


 ゴロの後をついていくと、前方で変な大声がする。

 が、何もいない。


『マオウ様、これです』


 ゴロが地べたに落ちていた何かを咥えた。

 それはそれは可愛らしいモフモフな茶色ウサギだった。


「食べないでうさ! ウサキチは美味しくないうさっ」


 うさ!うさうさ。

 変わった方言だ。

 そしてゴロが涎を出している。

 このままでは汚れてしまうとゴロの口からウサギを取る。


「うさ!うさぁぁぁ…」

「よーしよし。食べないよ、うさ」


 泣き出したウサギをあやす。


「食べないうさ?」

「食べないうさ」


 うさ、これは流行る。15分くらい。


『マオウ様、そのウサギはこれを引き摺っていたようです』


 ゴロが袋を渡してくる。

 受け取るが、そんなに重くない。

 中を確認するとお金が入った小さな袋と僅かな食料と水が入っているだけだった。


「この荷物はウサギさん…ウサキチの?」

「違ううさ。スレイドのうさ」


 スレイドとは誰だ。


「スレイドとフィーツ、悪い奴らに攫われちゃったうさ…うさ…」


 また泣き出しそうになったウサキチの頭を撫でる。


「ウサキチ、スレイドが茂みに投げてくれて見つからなかったうさ。置いてかれたうさ」

「ふむ…」


 話を詳しく聞いていく。

 ウサキチは、小さな村でニンジンを育てながら住んでいるウサギ族。

 ウサギ族って何だと突っ込みを入れたいが話が進まないくなりそうなので今はスルーする。

 スレイドとフィーツという人物は、ウサキチの友達で一緒に森にやってきた。

 薬草を摘むのが目的だったらしい。

 けど、途中で悪い集団に襲われた。

 スレイドとフィーツは攫われ、ウサキチは間一髪で助かった。

 そして誰もいなくなった後、森をさまよっていたと。


「よく獣に食べられませんでしたね」

「さっき食べられるかと思ったうさ。怖かったうさ」


 ウサキチがゴロを見ながら震えた。

 ゴロは言葉が通じず、暇そうに地面に寝転んでいる。


「魔物を連れてるなんて強い人うさ。スレイドたち助けてうさ!」


 懇願するように縋ってくる。


「いや、その集団がどこにいるかもわかりませんし。

ウサキチを村に送るぐらいはしますけど」


 心当たりはあったが、危ない目にあってまで助ける理由も無い。

 村の人に伝えれば、何とかするだろう。


「お願いうさっ。このままじゃスレイド達、嬲り殺しにされちゃううさ…あいつら酷い奴うさ…」

「すみません。助けれるほど、強くないのです」


 ウサキチの頭を撫でながら、謝る。

 悪いができないものはできない。


「ウサキチじゃ、もっと絶対無理うさ…お願いうさ。助けれくれたら、何でもするうさ」

「ん?今何でもするって言ったよね」

「言ったうさ。やってくれるうさ?」


 あ、つい言ってしまった。

 嬉しそうな目でウサキチが見てくる。


「ありがとううさ! 優しい人うさ、ウサキチと友達うさ」


 ウサウサ、ちょっとウサが多すぎて聞き取り難く思えてきた。

 見た目は可愛いんだけど。


「危なくなったら、逃げますからね? できなくても恨まないでください」

「わかったうさ」


 しょうがない。

 どうせ一度死んだ人生だ。

 大事にする必要も無いだろう。


「ゴロ、さっきの崖まで戻りましょう」

『あれ。やっぱり盗りに行くんですか?』


 ウサキチの言葉が通じてなかったせいかゴロは状況が飲み込めて無い。

 説明しながら、来た道を引き返す。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ