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【2】ランプを擦らなくても願いは叶う

 自分も下を見続けるのに疲れたので地面に座る。

 整地されていない地面は石が多くて少し痛い。


「このまま異世界で生きるには大変でしょう」

「100ゴールドとひのきのぼうをくれるのですか?」

「なので少しだけ手助けします」


 横槍を無視することに決めたようだ。

 この猫は頭がいい。


「願い事を三つ叶えます。出来る範囲ですが」

「世の中の王様がクズに見えてきますね」

「その言葉を王様に言ってはいけませんよ?」

「権力で押しつぶされたくないので言いません」


 願い事を三つ…それならば簡単だ。


「願い事を108個にしてください」

「却下です。煩悩の数だけ願うつもりですか」

「じゃぁ世界の半分を下さい」

「ダメです」

「なら世界の全てで良いです」

「良くないです」


 思ったより融通が利かないらしい。

 どうしよう。


「…何か、叶えたかった願いはなかったのですか?」

「記憶を消したのはクロです」

「確かに私ですが、ちょっとしたキッカケで思い出すこともあります。そして勝手に名前を付けないで下さい」


 叶えたかった願い…そういえば。


「思い出しました。ひとつ、どうしても叶えられなかった願いがあります」

「おぉ。なんですか?」


 ごくりと息を呑む猫。真剣な顔だ。


「性別を変えてください」

「……は?」


 猫はきょとんとして、変な声を出した。

 予想できなかったことなのだろう。


「生前に女は嫌だ、男になりたいと願っていました」

「…私にはわかりませんが、大事な願いなのですね」


 猫が目を閉じると、淡い光が出て自分を包み込んできた。

 暖かい何かが体に入り込んできて、変な感じがする。


「終わりました」


 あっという間だった。

 体を確認すると、たしかに男性になっていた…が。


「あまり変わりませんね」


 もともと筋肉が少なく肌が白いせいだろう。

 見た目はあまり男になった気がしなかった。


「そうですね、あまり変わりませんね」

「…どこを見て言ってますか?」

「胸です。次の願い事はどうしますか」


 一つ目の願い事をしたことで、二つ目に欲しいモノがでてくる。

 これを願えば間違いはないだろう。


「私…じゃなくてボクを世界一の魔法使いにしてください」


 男になったから一人称は私じゃなくていい。

 けど俺というにはまだ違和感があった。

 少しづつ慣れていこう。


「また変わった願いですね。魔法使いになって何をするのですか?」

「自分の力で世界の全てを手に入れます。そして、世界の支配者になるのです」

「……」


 更生するのを諦めるだろうか。そうなるとボクは困るが、正しい答えだろう。

 猫はしばらく悩んでいるようで下を向いていたが、一言呟いた。


「…けど、魔法が使える方が身の安全が確保できますね」


 また淡い光に包まれる。

 やった、世界一の魔法使いにしてくれるらしい。

 しかし願い事と結果は少し違っていた。


「世界一の魔法使い…になる可能性を与えました」

「可能性だけですか」

「魔法を見ただけで、その魔法が使えるようになる…素質です」

「全ての魔法をこの目に焼き付けて来いということですね」


 猫は頷いた。

 世界の天才たちも努力して天才になったのか。どの道経験がいるのだろう。


「そしてこれを渡します」


 何処からともなく金色の腕輪を出してきた。


「魔法を覚えても上手くコントロールできなければ意味がありません。魔力も必要になります。

これを身につけると簡単に魔法が使えるようになります」

「ふむ…」


 腕に通してみる。ぴったりサイズだ。

 光沢があり、太陽の光に反射して眩しい。


「魔法を制御できなくなって暴発すると困るので、一度付けたら外れないようになっています」

「呪われた装備ですか。先に言って欲しかったです」


 引っ張ってみるが確かにとれない。

 まぁ無くしても困るから、ちょうどいい。


「最後の願い事は何にしますか」


 後は何を願えばいいのだろう。

 食料…お金…どれも必要だが、消耗品だ。

 それに荷物が多すぎても、邪魔になってしまう。


「…願い事を叶えたら、クロはどうするのですか?」

「いるべき場所へ帰ります。…恐らく、次に会えるのはあなたが亡くなった時です」

「それならば…」


 これから、頑張って生きていくには元気が欲しい。

 元気が出る方法といえば…。


「クロを気が済むまでモフらせてください」

「……願い事が三つとも、予想外です」

「未来とは不確かなものです」


 無言になったクロを抱き上げる。

 この暖かさが安心する。もしかして昔、ペットを飼っていたのだろうか。

 そっとクロの頭を撫でると心なしか嬉しそうだった。







 思う存分、モフってからクロを地面に下ろす。

 このままじゃ余りにも可哀想だから…とクロが袋をひとつ渡してきた。


「三日分の食料と水だよ。大事にしてね」


 食料を願わなくてよかった。願い事を四つした気分。

 

「それと…この魔法は絶対必要だから。手を出して」


 素直に手を差し出すとクロはぺちりと前足を乗せてきた。

 何かが頭に入ってくる。


『言葉が通じるようになる魔法だよ。これがないと会話ができないからね』


 直接頭に入ってくる不思議な感覚がする。


「ここの人達と言語が違うのですか?」

「うん、字も違うから一から覚えないといけないよ」


 …それを願えば良かった。勉強は苦手だ。


「ところでさっきから口調が変わってませんか?」

「敬語を使うのもバカバカしくなってきたんだよ」

「ストレスを貯めないことは大切です」

「うん。それじゃーね」


 モフモフが名残惜しい、と思うボクの心など関係ないように

 クロが砂のように消えていく。


「一番近くの町はここから東に真っ直ぐだよ。…頑張ってね」


 心配で不安そうな声だった。


「安心してください、ちゃんと世界を手に入れてきます」


 聞こえたかどうか分からない。

 聞こえなかったほうがよかっただろう。


「それでは東に…東?」


 歩き出そうとして、すぐに足を止める。


「東ってどっちですか?」


 帰ってくる言葉はない。

 きっとクロも言い忘れたのだろう。

 

「クロはドジっ子。頭に入れておきましょう」


 適当に歩き出した方角は…西だった。


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