五、 監視室
私は、体の痛みを感じ、目を開いた。いつもの様にお手伝いロボットに起こされる訳ではなく自然に起きた。恐らく、今寝ている場所が寝るには適さないソファで寝ていたからだと思う。布団で寝ればよかったと思った。
昨日、X事件があってから私は全速力で森の家に向かった。着いた瞬間から臨戦態勢を迎えようと物資の調達、訓練、設備の確認などを行った。一晩で終えようと無理をしてしまったらしく、こうしてソファの上で寝込んでしまった。まぶたがまだ、重い…
「コーヒー下さい、あ、でも……お砂糖とミルクをたっぷり入れてなるべく苦くないように……」
「かしこまりました、糖分の取りすぎには注意をしてください」
ペンダント型の端末に説教されて少しムッと来たけど、トーストを付けてくれたのでよしとしよう。
何だろうこういうの、ちょっと昔の言葉でツンデレって言うのかな。
「復唱。べ、べつにあんたのこと心配だから言ってるんじゃないんだからね」
「………」
「なんか反応してよ!」
「もう一度、お願いします」
「言えるかぁっ!」
恥ずかしくて火が吹きそうだ。こう変に応用力が効くと、端末が人格を持っているような気がしてならない。真弓なんかは端末に備わっている音声サービスをホログラムで擬人化するコンシェルジュを使って楽しんでいたりする。確か……あれは、かっこいいアニメキャラだったはず。綺麗でかわいいけど男という事に驚いた記憶がある。真弓は意外な一面がたくさんあるなぁ。私はコンシェルジュを使ってしまったら、なんか色々と戻れなくなる気がして使っていない。
さて、食事も済んだし目も覚めてきたし。早速仕事に取り掛かりますかっ。
「片付けよろしく」
「はい、かしこまりました」
お手伝いロボが動いたのを確認し、私は「監視室」へ足を運んだ。
森の家はとてつもなく広い。地下2階と地上3階の計5階もある。しかも、1つの階に1部屋1キッチンな私の部屋が恐らく3つは入るだろう。
さすが、地方。人がいない分土地が有り余っている。
他の地方も大体こんな感じなのだろうか?
もし、テラシティでこの位の大きな家を買うとしたら恐らく人生3回やり直しても足らない気がする。
その前に、周りの住人から土地の無駄使いと非難ごうごうだと思う。
私が向かう「監視室」は地下2階にある。
今居る2階から、らせん状に伸びている階段をゆっくり降りて地下へ向かう。1回踏むごとに、鉄で出来た階段がまるで楽器の様に部屋中に鳴り響く。
テラシティの階段は大体コンクリートで出来ているからこんな音は鳴らない。ものすごく新鮮で楽しい。地下に行くにつれ、段々と暗くなっていく。しかし、私が通ったことをセンサーが判断てくれるおかげで電気が自動的に点灯してくれる。
地下2階に到着した。細い廊下の一番手前にあるのが「監視室」だ。私の父は毎日ここで富士の森にあるゲート周辺の監視を行っている。
中に入ってみると、部屋一面にいくつもの画面が投影されていた。それは一箇所にずっとある訳ではなく、順々に手前に大きく出てはまた後ろへ引っ込みの繰り返しだった。恐らく、監視カメラから映し出された映像の中で、何か動きがあったものが前へ、特に無いものは後ろへと移動を繰り返しているのだろう。
「すごい…」
思わず、声に出していた。学校でもこんなの見たことが無い。
「凜様、受信しました」
機械音と共に、端末が喋りだした。画面を端末数十センチ上で投影してみると、この監視室から何かを受信しているようだ。「開封」をタッチした。
すると、監視室マニュアルというものが浮かび上がった。それもタッチする。
「凜、よくきたな」
声と共に、久しく見ていない父のホログラム(立体映像)が浮かびあがった。いつ撮影したのか分からないが、13歳の時に分かれて以来、老けていない気がする。
「監視室、びっくりしたろう。でも大丈夫だ、凜はこれさえ注意すればいい。「ゲートの中に入ろうとする人がいたらボタンを押す。」だ。じゃあな、凜。がんばれよ」
それだけ言って、父のホログラムは消えた。「ボタン」というのは恐らく壁にあるボタンのことだろう。「排除」と書かれてある。ゲートに入ろうとする人は排除せよということだということが瞬時に分かった。
もしかしたら、あのXはゲートの中に入ろうとしているのかな…?
それだったら是非、排除する前に私がとっ捕まえて謝ってもらう!
よーし、燃えてきたぁ!!
「座り心地の良い椅子と、飲み物・食べ物乾物系で」
これは長期戦になりそうだ。だからずっと座っていても疲れない椅子と小腹が空いた時に食べられるものと飲料を端末に吹き込んだ。
「さぁて、待ってなさいX!私がとっ捕まえてやるんだからっ」




