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テトラの森  作者: 茶ノ机
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十四、 逃亡

私は二階のソファで寝転んでいた。服は部屋から適当に見繕ってきた灰色のトレーナーと黒い緩めのズボン。

何もせずただボーっと考えていた。あの植物は確かに私の体から生えている。引っこ抜こうとしたら痛みが走る。さっきは諦めて植物を傷つけないように体を洗った。

これは一体どういうことなんだろう。私はテトラだったの?いや、そんな訳ない。だって今以外に私は体から植物が生えたことが無い。両親だっておじいちゃんだって、体に植物が生えているところなんて見た事が無い。だとしたら考えられることは一つ。

森に居ると体から植物が生える。何が直接の原因かは分からないけどそれしか考えられない。そうだきっと、間違いない。だってレイさんも元々テラシティに住んでたと言ってた。どうして気付かなかったんだろう。

私は右腕の袖をまくった。また少し、ツルが伸びた気がする。反面、私の体の疲れが増した気がする。もしかしてお前は私の力を吸っているの?

少しうとうとし始めた位にチャイムが鳴った。一瞬、体がビクリと反応し、心臓が高鳴る。

一体誰…?

またチャイムが鳴った。

こんな偏狭の地にやって来る物好きな人はいない。もしかしたらテトが戻ってきたのかな?

私はテレビをつけ、玄関にある監視カメラの映像を出した。すると、思いもしない映像が映り込んでいた。

「お母さん……」

数年もの間、ホログラムでしか姿を見せなかった母が玄関に居た。Tシャツとホットパンツ姿で相変わらず若作りをしている。仁王立ちで森の家の玄関前に居る。

ものの数分私が動けば会える。でも、どういう顔をして会えば良いのか分からない。

なぜならば、母親に対して良い感情を余り持ち合わせていないからだ。

十三年間と言う短い時間なのに、散々私を放って置いて遊び回る。これのどこが母だというのだろうか。

でも待って、おかしくない?

母は、父と旅行に出かけるから私をこの森の家によこしたんじゃない。なぜ今、このタイミングでここに?

正直私は混乱して、思考能力が低下していた。

冷静に考えれば、ホログラムを使ってワンクッション置いて会話できたはずなのに、気付いたら階段を降り、目の前にある玄関の戸に手を掛けた。

「お母さんっ…」

「やっと出てきたか。お前が十沢凜だな。」

「えっ…何…?」

目を疑った。私がさっきまで見ていた映像と全く異なっていたからだ。

目の前には真っ黒いスーツを着た人が二人居た。奥の方にはオートカーが二台。中に人が数人見えた。

「私はこういう者だ」

左に居た人が端末をタッチし、何かを投影させた。そこには「警視庁」という文字が書かれいていた。

「え、警察の人!?」

「その通り。十沢凜、お前を国家機密漏洩違反容疑で連行する」

もう一人の人が私の手に手錠を掛けた。

「さあ、こちらへ」

「えっ、なんで……いや」

「良いから来なさい!」

私の言葉なんか聞いちゃくれない。肩をがっちり捕まれオートカーへと歩かされた。もう一人は前を歩いている。

私は馬鹿だ。どうしてこうも警戒心が無いんだろう。散々テトやレイさんに言われたはずなのに。映像だって自由に変えられてしまうに違いない。このまま連れて行かれてたまるか。

テトに合わせる顔がなくなるっ!

私は思い切り足を後ろに曲げ、警察の人を蹴り上げた。悶絶する姿を確認するまでもなく私は一目散に木と木の間へ逃げた。これでオートカーだと通れまい。

両手が手錠のせいで不自由なので、すごく走りにくい。なるべく転ばないよう足元に気をつけながら走る。まだ外が明るいのが幸いだ。しかしそれは向こうも一緒で私を見失わず、追ってきている。空気を吸っても全然足りない。足も全然上がらない。でも止まれない。止まったらまた連れて行かれる。今度こそ私は死ぬ。そんなの嫌。

ほとんど気力だけで走っていた。転ばないのが奇跡。しかし、距離は徐々に詰められ落ち葉を踏む音が大きくなっていく。だめ、もう……限界。

「凜ちゃん、左へ」

声が聞こえた。そしてズボンが左へ引っ張られる。つられて体も左へ進む。しかし、バランスを崩して私は転んでしまった。

それだけならまだ良い。転んだ先がほぼ直角と言っていいほど急な斜面で私は宙を舞った。

ゆっくりと左ポケットに入れていた小さなキリンが外へ飛び出し、みるみる内に元の形へと戻っていった。

私の両手をつないでいる手錠が上手いことキリンの尻尾に引っかかり私の体は落ちることなく浮かび上がった。

警察の人たちが私の足を掴もうと追いかけてくる。必死に足を曲げ、体を縮めた。届かない所まで飛び警察は諦めた様だ。いや、もしかしたらオートカーを……

「早く、お願い。キリンさん」

「その前に中へ」

またさっきの声が聞こえた。キリンの乗り物はまた小さなキリンに戻り、重力に負けて落ちていく私をまた乗り物になってキャッチした。内臓が浮いて気持ち悪い……

「おっと、忘れないうちに」

声と共にキリンの頭が百八十度回転してこちらを振り向いた。そして目が光り、レーザーがまっすぐ私の手錠めがけて伸びる。右手左手と順に溶かし、私の両手は自由になった。私の手も焼かれてしまわないか心配で体が強張った。もう、このキリンさんには何度はらはらさせられてるのだろう。

 そして、一気に加速をした。回りの風景が速く変わっていく。ここがどこなのか分からなくなる位。

本当は私は死にそうでこの景色は走馬灯。そうじゃなきゃいいな。だって私はまだ確かめていないんだもの。どうして自分の腕に植物が生えたのか。なぜ、私が追われているのか。他にも沢山ある。

でも、何をどうやったら分かるのか全然分からない。けど、これだけは言える。私が生きている限り、確率はゼロじゃないんだ。絶対つきとめてやる。テトラの謎を。

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