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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
三章 誇りに塗れた英雄譚
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8 そして時は流れてく

 自分の人生の中で、一番楽しかった時期がいつかと聞かれれば、俺はきっと迷うことなく今この時の事を答えるだろう。

 フィクションだと。妄想だと思われるかもしれないけれど。それでもきっと答える。

 この世界へと辿りついてから数日が経ち、エルと共にアルダリアスから旅立ってからの一ヶ月間。思い返してみても、これ程に楽しかった時間というのは無かったと思う。


 ……そう。一カ月もの時間が、気が付けば流れていた。


 そのまま機関車を使って。馬車を使って。時には歩いて。とにかく北へと向かう。

 色々な街に行って、おいしい物を食べて。目星を付けていた湖へと足を運び、それが外れである事に、落胆と安堵の感情を抱く。

 空いた時間に文字と精霊術を教わって。文字の方の呑み込みは悪かったけど、精霊術の方はエルにセンスがあると褒められたし、少しずつ扱いが上手くなっていくことや、文字が読める様になって行く事に、口元を緩ませる。

 そんな事の繰り返し。その繰り返しが、俺にとってはたまらなく充実した日々に思えた。


 ……エルにとってはどうだったのだろうか。俺と同じ様に、この一カ月は楽しい日々として映ってくれたのだろうか?


 誰かに襲われる事も無く、トラブルに巻き込まれる事も無く。危険の無い日々の中で、俺と過ごした一カ月の事をどう思ってくれたのだろうか?

 それはエルじゃないと分からない。

 でもきっと、気が楽になっているのだけは目に見えて分かった。

 徐々に。徐々にだったが、俺以外の人間と会話が成立する様になった。どこかぎこちないものの、しっかりと怯えずに言葉を返せる様になってきた。

 多分もう、シオン位だったら普通の会話として成り立つのでは無いのだろうか。

 まあそれもまた、直接会ってでも見ない限り分からない事だけど。


 とにかく俺達は適応した。俺は文字を。エルは人慣れを。

 街の中にドール化した精霊があるいている事に対しては、どうしてもそれをただの風景として落とし込む事は出来なかったけど、心が痛む事に慣れてきた感じがあるという事はこれもまた一種の適応なのかもしれない。幾分か精神的に楽になったし、楽になったおかげで俺はこの一カ月を一番楽しかった時期に出来るのかもしれない。

 何か変わった所といえば、そんな所だろうか。

 俺とエルの距離感も特別変わったわけではないしな。それが良い事なのか悪い事なのかはイマイチ判断がつかないけれど。


「……さて、到着っと」


「久しぶりに歩きましたね」


「まあな。でもまあ、アルダリアスからレミールまで歩いた時よりはマシだよ。距離近いし」


 そんな俺達は目星を付けた湖までの通り道である、カラファダの街へと辿りつく。


「この街、なんかうまい物とか紹介されてたっけ?」


「あーどうでしたっけ? でもまあ私達、食運は強いですから」


「だな。大体どこの店もうめえもんな」


 そんな会話をしながら、俺達はカラファダの街の中を進んで行く。

 これから取る昼食の事を考えながら。そこから先にある日常と成りつつある光景を思い浮かべながら。


 ……そんな来るかどうかもわからない物を、当たり前の様に来ると思いながら、俺達は歩みを進めた。

今回、展開の都合上、非常に短めです。短めなうえに、一か月も話が経過しています。

旅の過程を全部書くと、相当な量になりますし、それに山も谷もないですからね。

ともあれ実質的に次回からが、第三章の開始となります。

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