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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
三章 誇りに塗れた英雄譚
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5 思わぬ再戦

 チェックインから約一時間後。俺達は宿屋の外を歩いていた。

 俺やエルの集中力が切れ始めるのと、夕食を取ろうと思える時間が重なったから、何か食べに行こうという話になった訳だ。

 ちなみにその成果がどうだったかといえば……時間相応という評価でいいのだろうか?


「やべえ……知恵熱出そうだった」


 覚えられたのはこの世界における数字と、簡単な文字が少し。どれもこれも俺から見れば文字というより模様な訳で、まるで古代文字でも暗記させられてる気分になる。はっきり言って既に原型となるアルファベットを記憶している英語を覚えるより遥かに高難易度。

 ……先が思いやられる。


「いいんですよ、初めはそれで」


 エルは優しい声音で続ける。


「大変な事は色々ありますけど、少しずつ前に進んで行けたら良いんです。私も、エイジさんも。焦る必要なんか何処にもない。そうですよね?」


 ……まあ、そうか。

 エルの言う通りだ。

 ゆっくりと、確実に。前に進んで行ければそれでいい。

 大きな一歩なんかいらないとは言わないけれど、小さな一歩で前に進めりゃ、やがては何かに辿りつく。遅かれ早かれそれでいいんだ。


「そうだな。ゆっくり確実に覚えてく。文字も、精霊術の扱いも。だからまた頼むぜ、エル」


「いつでもどうぞ」


 そう言ってエルは笑みを浮かべ、そして続ける。


「でもしばらくは、文字を読むのは私の担当ですよね」


 ……なんかやっぱり急ピッチで覚えねえといけねえ気がするなぁ。

 そんな事を考えながら、俺は苦笑しつつ答える。


「今の所はな」


 とりあえず飯屋のメニューを読んでもらわねえといけねえしな。


「さて、なんかウマイ店ないかなぁ」


「適当にそれっぽい所へ入りましょう。なんとなく今の私達なら、おいしい物に出会える気がします」


「ま、どうも食運は良さそうだしな俺達」


 そんな会話をしながら、丁度見つけたそれっぽい店に足を踏み入れたのだった。




 嫌な事を思い出した。

 それは池袋のとあるラーメン屋での出来事だ。

 面倒を掛けた礼として親友にラーメンをおごる流れになったのだが、その友人がチャレンジメニューを注文。挙句私用で一口も食わずに逃亡し、死にそうな思いで俺が戦った、嫌な思い出。

 つまるところこの世界に来る直前、誠一と一緒にラーメン食いに行った時の話。

 なんでそんな事を思い出したのかといえば、店の一番奥の席でエルが読み上げたメニュー。


「エイジさん。これ挑戦してみませんか?」


「……マジで言ってんのか?」


 大食いチャレンジ。読み上げられた内容を見るに、料理の内容以外は完全に既視感満載である。

 食べれば賞金残せば罰金。違う所といえば、罰金額が大した事が無い割に、完食の賞金がわりと大きい所だろうか。

 今後の資金の先行きが不透明な今、こういうローリスクハイリターンな物はやってみる価値はあると思うが、なにぶん胃へのリスクがでかすぎるし、嫌な予感しかしねえ訳だよ。

 それにメニューはパスタと来た。また麺類じゃねえかよちくしょう!

 まあそんな訳で、俺は普通に普通の物を食べたい訳だが……。


「とりあえず私、挑戦してみます。なんか楽しそうですし。エイジさんはどうします?」


 その端から見たら楽しそうな事で地獄を見た俺は再戦など絶対にしたくない。

 したくないけど……なんか、ここでやりません、普通の食べますってのも、なんかカッコ悪い気がする。

 ……ヤバい。一度そんな気がして来たら、止まらなくなってきた。多分此処で逃げたら俺、相当カッコ悪いぞ。


「……分かった。俺もやるよ」


 こう答えた事を後に後悔しそうだが、まあ言ってしまったのだから仕方がない。覚悟を決めろ。

 ……つーか、覚悟と言えばだ。


「ていうか、お前は大丈夫なのか?」


「私は大丈夫ですよ。太らない体質なんで」


「あ、いや、そういう事じゃなくてだな……」


 まあそこも大事なのかもしれないが、そうじゃない。


「……舐めてかかると地獄を見るぞ」


「ははは、大丈夫ですよ。食事で地獄を見る事なんてそう無いですって」


「……言ったな?」


「言いました。多分楽勝ですよ」


 そう言ってエルは笑う。

 正直俺はあまり乗り気じゃなく、エルにこういう事をやらせる事もあまり気が進まないが……これ以上の制止はしなかった。

 結果的にどうなるであれ、エルが楽しそうならそれでいいと思った。


「じゃあ注文するぞ。すみませーん」


 そうして俺は二人分のチャレンジメニューを注文する。

 こうして俺達のフードファイトが始まった。



 でも結論を言えば、フードファイトになったのは俺だけで、地獄を見たのも俺だけで。

 エルはと言えば普通に完食し、なんか凄い子が居るみたいな感じでギャラリーに視線を向けられていた。

 そこに悪口や悪意などは一欠けらも含まれていないのだが、当然エルは怯える様な感じで、そんな様子を見せられれば早い所完食せねばならないという気持ちが沸いてくる。タイムリミットは設けられていないが、実質あるのと変わらない。

 だから俺は死にそうな思いで、なんとか最後の一口を口に入れ、飲みこむ。


「……終ったぞ、エル」


 死にそうな声でエルにそう言いながら、一つ頭に入れて置く。

 ……人の注目を集める様な事は、まだ控えた方が良いな。

 今のエルには、まだ難しそうだ。

 だからもう暫くはこんな挑戦はしない。

 普通に普通のを頼もうと。俺は死にそうになりながらそう心に刻み込んだ。

フードファイトまじめに書いたけど、コレジャナイ感が凄かったのでカット。

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