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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
二章 隻腕の精霊使い
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29 二つの考察

「しかし……精霊の安全地帯、か」


 コーヒーを飲み干したシオンが不思議そうに言う。


「そんな所があったとして、一体どうやって成り立っているんだろう」


「というと?」


「人間の地図に無い場所……というのは考えにくいね。そんな所が存在するかどうかと言われれば、無いんじゃないかと僕は思う。だとすれば余程強力な人避けの結界を築いているのか……まあ、それしか考えられないか」


 どうもシオンは一人で自己解決したみたいだけど、確かにその辺はどうなっているのだろうか?

 多分精霊しか知らない場所みたいな所は無いんじゃないかと俺も思う。人工衛星だとかそういうのがあるかどうか分からないこの世界でも、多分地形の把握はしっかりと出来ているのではないだろうか。根拠も何も無い完全な憶測だけれど。

 そうなってくると確かにシオンの言う通り、人が寄らない様な何かが施されているのだろう。だとすれば……一つ問題がある。


「……人避けの結界とかがあったら、俺、辿りつけるのか?」


「そればかりは行ってみないと分からないね。そういう結界が張られているかどうかも。張られていたとして、精霊と行動を共にしているキミが足を踏み入れられるかどうかも」


 と、そこまで言った所でシオンは何か気になる事が会ったらしい。俺にこんな事を尋ねて来た。


「そうだ……キミは、最終的にどうしたいんだい?」


「最終的?」


「絶界の楽園、だったかな。その場所に辿りついたとして、キミはそれからどうする。確かキミは別の世界から来たって言ってたね。詳細は聞きそびれていたけど、キミは元の世界に戻ろうって意思はあるのかい?」


「そうだな……意思はねえ訳じゃねえよ。絶界の楽園へと向かうまでに探してはみるつもりだ。まあ見付けたとして、辿りついてからどうするかってのは、その時になってみねえと分からねえ。何かやるべき事があれば留まるだろうし、無ければ一旦は戻ると思う。確かめたい事もあるしな」


「確かめたい事?」


「俺がこの世界に飛ばされた原因だとか、俺の親友の生死だとか。とにかく色々な」


「親友の生死……本当に、キミは一体どうしてこの世界に辿りついたんだい? どう考えたって物騒な事に巻き込まれている気がするんだけども」


「物騒なんてレベルじゃねえよアレは」


 俺はあの時あった事を、ざっくりとシオンに話した。

 そしてそれを聞いた上でシオンが引っかかったのは、あの場で街を破壊していた女の子達の事だ。


「まず大前提として、キミ達の世界に精霊術や、そもそもの所精霊すらいなかったんだよね」


「ああ。もちろんそれに準ずる力も無かったと思うぜ」


「……それに関しては一概に頷けないね。聞いた話を纏めるに、その場で暴れていた女の子達の力は生身の人間が耐えられる限界を大きく超えている様に思える。そんな中でキミの親友の……誠一君と言ったかい? 彼が生きていたと言う事は、それ相応の理由があると思うよ」


「……理由」


「例えば、キミが否定している、それに準ずる力の有無だ。それが精霊術の様な類の代物か、科学の結晶なのかは分からないけれど……キミ達の世界にはキミの知らない何かがあると見て間違いないと思う」


「俺の知らない何か……」


 そんな物は多分無いだろうと考えようとしたが、その考えは簡単に崩れ去って行く。

 様々な奇跡が複合して誠一は何とか無事だったと考えるよりは、無事でいいるための対策を施していたと考える方がしっくりと来る。そんな力が俺達の世界にあるのかと聞かれば、さっき否定した通り無いと答えてしまいそうだけど、こうして世界を渡れば精霊術という力を行使する世界が有った。そもそも世界を渡るなんて事を経験した。

 今更先入観で全てを否定する様な事は出来ない。何だって、起こり得るかもしれないからな。


「……まあ今ある情報でその答えに辿りつくのは難しいだろう。キミがその目で耳で確かめる。それが一番いいさ……でも、願わくば、暴れていた女の子の正体は知っておきたいね」


 シオンが顔を俯かせながら言う。


「キミの話と僕の情報を照らし合わせる限り、その女の子達は精霊ではない……筈だ。禍々しいと形容してしまう様な雰囲気を、精霊が放つなんてデータは無い。そしてキミ達の世界に精霊術に準ずる力があったとすれば、その力を用いて暴れていた人間を、それに準ずる力を持った人間が止めていたとも考えられる……そういう事であってくれればいいんだけど」


「……そうだな」


 あんな雰囲気を纏っているのが精霊な訳が無い。

 実際に池袋であの女の子達を見た俺は、そう強く言える。

 言えるけれど……それでもその考えに理論を纏わせ、確実な物にしたのだ。

 シオンも……そして俺も。ああいう事をした存在が精霊であるという事に対する否定材料を探していた。


「……でも、それも実際にもう一度あの場に立たないと分からない事だろうな」


「だろうね」


 結局。俺達が持っている情報を繋ぎ合わせても、生まれるのは考察であり真実ではない。

 考えるだけ無駄とは言わないが、それでも真実を知らない事には俺達の中に溜まったフラストレーションは解消されないだろう。


「もしもだ」


 シオンが俺に言う。


「キミがその世界に一度戻ったとして、もう一度僕と会う様な事になったら……その時は、この解を教えてくれないかな」


「ああ、約束する」


 まあその為にも、元の世界に戻る方法はちゃんと探しておかなければならないな。

 当然、あったとしても、最優先は絶界の楽園を目指す事だが。


 ……それにしても、俺の知らない何か、か。

 そんな物が俺達の世界にあったとして、そんな力を誠一が振るっていたとして。あの時の誠一と同じ服装をした人達が倒れていたという事は、他にも同じ様に力を振るえる人間がいたとして……だとすれば俺は一体、今まで何を見てきたのだろうか。

 そんな力があの世界にあったとして……どうして誰も気付かないのだろうか。


 なあ、どういう事だよ、誠一。


 そんな事を呟いても誰も答えやしない。きっとシオンが首を傾げるだけだ。

 だから俺は心に決める。

 もう一度誠一にあったら、この手の事を聞いてみよう。

 ……もう一度、会えたらの話だが。


 そして、会うだとか会わないだとか、そんな事を考えていたら新たに生まれた一つの疑問。

 例えばその時がきたとして……この世界で出会ったエルは果たして俺の隣に居るのだろうか。

 俺の事を信頼してくれて、覚悟の一つまで決めてくれた女の子は、その時どうしているのだろうか? 俺はどうなって居てほしいのだろうか。

 そう考えるとやっぱり隣に居てほしいとは思う。いてくれたら良いのにと思う。


 ……それが正しいかどうかは別として。


 そんな事を考えながら俺はエルに視線を向ける。

 きっとそうなった時、エルは俺の隣にはいないだろう。きっとそうしてまで付いてくるのは正しくない事で、もし俺に付いてくるのが正しい事になってしまうのだとすれば、この世界はもう本格的に終わっている。


「……」


 どっちに転んだって一概に良い事とは思えない。

 そんな複雑な心境で、俺は今だ起きる気配の無いエルに視線を向けた。

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