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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
二章 隻腕の精霊使い
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27 精霊の食生活

 結論から言ってピザを頼めた。

 しかも代金シオン持ちである。あっさりと良いって言われた時、俺はシオンが聖人が何かなんじゃないかと割と真剣に思ってしまった。

 こういう感じの助けを受けた後で言うのもなんだが、シオンから借りた恩はいずれきっちりと返さなければいけない。それに義務感を覚える位に俺達は助けられている。

 まあそれはそれとして……いや、それはそれとしていいのかは分からないが、まずは目の前のソレを片付ける事に気を向けよう。


「……うめえな、コレ」


「確かにコレは……なんかこう、凄いですね」


「ああ、ヤバい。これはすげえ旨みが口に広がる。あとチーズすげえ伸びる」


「いくらでも食べられそうですね、コレ」


 絶対食レポとか向いて無いだろうなという感想を述べながら、俺達はホテルがこんな状態になっていても注文すれば作ってくれた、このホテルの有名メニューらしいピザを喰らう。

 喰らいながら一つ、疑問が脳裏に浮かんだ。


「そういえばさ、精霊の食生活ってどうなってんだ?」


 イマイチ普段精霊がどんな生活をしているのかが分からない。ほら、エルだって森の中にいる訳だったし。


「食生活……ですか。そうですね。あんまりいい物は食べて無いですよ。基本私達は隠れ住んでいますから。森の中で手に入る物だけで済ませますし……そもそも飽きが来るので、食べない事も多いですね」


「食べないって……絶食か?」


 半ば冗談みたいに言ったが……その反応に嘘は見受けられない。


「そうですね。精霊は別に食べなくても生きて行けますから」


「……そうなのか?」


「そうですよ。私達の場合、食べ物は嗜好品みたいなものなんです。生きて行く上で無くてもなんとかなる。そうでなければ……多分、人間はすぐに精霊を使い潰す」


「ああ……確かに、そうかもな」


 でも逆に言えば……食事の必要が無いからこそ、人間からすればより精霊が物に見えてしまうのだろうか。


「でもやっぱり、何かを食べるってのはいいですね」


 エルは笑みを浮かべてそんな事を言う。


「あまり食べる機会が無かったこういう物に出会えるとそれだけで嬉しいですし、おいしい物を食べれば幸せな気分になれます」


 そう語るエルの表情は本当に幸せそうだった。

 幸せそうだと気付いたからこそ、この言葉には反応し辛かった。


「……それに今回は一人じゃないですから。いつもよりもずっとおいしく感じます」


 そんな事を言われたら、なんて反応したらいいのか分からない。


「まあ、そうだな。こういうのは何人かで食った方がいい。絶対に良い」


 だから結局そんな無難な言葉しか出てこなかった。

 無難じゃない言葉はこっ恥ずかしくて出てこない。

 だから俺はそんな無難な言葉を残した後、若干逃げるように話題の軌道を修正しようとする。だけどそれはエルが無自覚でやってくれた。


「そういえば……エイジさん、料理とかってできますか?」


 食べ物繋がりで自炊の話に切り替わった様だった。


「残念ながらできねえよ。一人暮らしだったけど、だからといって家事万能って訳じゃねえんだよ」


 改めて思い返すと、凄く不健康な生活を送っていた気がするぞ俺。


「エルは?」


「そもそもやる機会があまりありませんでしたから……食べさせる相手もいませんでしたし」


 そこまで言ってエルは少し視線を逸らしながら、呟くように言う。


「でも……どうですかね。もし私が料理できるようになったら……エイジさん、食べたいですか?」


「……ま、まあな」


 これもまた、聞いてて恥ずかしくなる様な問いだ。

 まあ確かに女の子に料理作ってもらう様な展開に恵まれた事はないし、食べてみたいという言葉に嘘は無いけど……答えるのもなんか恥ずかしいなコレ。


「期待しててください。まあ包丁の振り方も怪しいんで、何時になるかは分かりませんけど」


「いや、あの振り方って……」


 思わずエルに聴こえない様な小声でそう呟く。

 そのニュアンスから察するに、これもう期待っていうか、エルが怪我しない様に祈った方が良いんじゃないかなぁ。なんか急にやらせない方が良い気がしてきた。


 ……とはいえそんな事を口にする訳にもいかず。


 だけどそうした事を言ってくれる事は、恥ずかしながらも気分が良い。

 そんな気分に浸りながら、俺は手にしたピザを食べきる。

 そして明日以降のエルに、そうした料理をする機会を設ける事の出来る様なゆとりが訪れますようにと、そんな事を考えながらコップの水を飲み干した。



 やがて注文したピザを食べきった俺達は、沸き上がってくる睡魔に素直に従って眠る事にした。

 ちなみにエルがベッドで俺がソファだ。

 シオンが自分がベッドで寝て、あの精霊をソファだとか床だとかで寝かせるイメージが付かない所を考えるに、多分ベッドが二つある部屋を取りたかったけど、取れなかったのではないだろうか。

 そしてそんな部屋を譲り受けた俺も、エルをベッドで寝かしてやりたい訳で……そんでもって、エルが別に一緒に寝ても良い的な事を言っていたけれど、それだと俺が間違いなく寝れなくなるので拒否して……最終的にこの形。


「……いいのか、寝ても」


 でも結局、俺が何処に居ようと、眠れるかどうかはあまり変わらない気がする。


「……これ、どっちかが見張り的なのしてた方が良いんじゃねえか?」


 俺はゆっくりと体を起こしながらそう呟いた。

 現状はいつ襲われたっておかしくないわけだし……警戒しておく必要がある様に思える。

 まあどっちかがと言っても、返答が無い事を察するにエルはもう寝てしまっているから俺がやるしかないんだが。

 ……そうだ。やるしかない。眠いけどやらないと行けない。

 目が覚めてそこからエルが居なくなっている可能性も、十分にあり得るのだから。


「いなくなる……か」


 その事を考えていると、ふとこんな事を思った。


「……俺、良く考えれば、行方不明みたいな状態なんだよな」


 あの場で起きた事や誠一の生死について等の事は何度も考えたが、自分の事は何も考えていなかった。

 人間一人があの場から消えて帰ってきていないのだ。多分相当に面倒な事になって居るのだと思う……というのは自意識過剰だろうか。

 というより結果的にそれは自意識過剰な考えなのかもしれない。

 一高校生の失踪が小さく見える様な一件が……俺をこの世界に飛ばした大事件が起きてしまっているのだから。


 と、そこまで考えていた所で俺は目を擦った。

 そうしてそれからしばらくすると、気が付けばソファにうつ伏せで倒れていた。

 結論から言ってもう起きているのは無理だった。睡魔と戦うにも、この消耗した体では限度がある。


 ……無理だコレ。


 最後にそんな言葉を心中で呟いた所で、俺の意識は完全にクッションの中に潜って行った。

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