ex 頂上決戦
レベッカが離脱したのを確認しつつ、前方に。
否、全方向。今自分が居る空間のあらゆる要素に注意を向ける。
レベッカに言った通り、今ので殺せている筈が無い。
あの程度で殺せる相手なら、今こうして対峙していない。
「生きてるんだろルミア!」
シオンは視界の先の土煙の中にいるであろうルミアに対してそう叫ぶ。
するとシオンの言葉に反応するように、土煙が風のような力で一気に晴れる。
そこに立っているのは……未だ無傷で立つ、霊装の槍を手にしたルミア・マルティネス。
「やあやあシオン君。待ちわびたよ」
「結構本気で殺しに掛かってきた癖に良く言うよ」
「そりゃまあシオン君で遊ぶのはもういいかなって思ったら殺そうとするよ。ただキミがその度に偶然か必然か生き残って私の考えを狂わせてくれる。まだ遊べる。だから今となっては殺さなくて良かったなって思うよ。だからほんと……うん。ちゃんと面白い対象のまま無事此処まで来てくれて良かった。待ちわびたよ本当に」
「悪いけど僕はあんまりキミとは関わりたくないんだ。待たせてしまって申し訳ないんだけど、早々と幕を下ろさせてもらうよ」
シオンがそう言うと、ルミアは一拍空けて笑みを浮かべる。
「そういう意味でも本当に待ちわびたよ。これは同業者としての言葉だけどさ……キミがそういう事を言える領域にまで到達するのを待ってたんだ。いや、達するというか……おかえりって言うべきなのかな」
そう言ったルミアは軽く槍を構える。
「そういうキミを倒して初めて私は、心の底から人生を謳歌できる!」
そう叫んだルミアはその場で勢いよく槍を振るい、衝撃波を発生させる。
超高速の衝撃波。
それ以外の何物でもない衝撃波。
「……」
それをシオンは横に飛んで躱した。
その表情に一切の焦りは無い。
「キミにしてはえらく単調な攻撃だね。キミならもっと一癖も二癖もある攻撃をしてきそうなものだけど」
そうやって煽る余裕すらある。
対するルミアの表情は、どこまで本気なのかは分からないが、あまり余裕が見られない。
「良く言うよ。そういうの考えなしに放ったらキミの思う壺じゃん」
そう言ってルミアが再び放った衝撃波も、再びシオンは軽く身を捻り回避。
回避しながら、改めて目の前の敵の化物染みた力量に驚かされる。
(……たった一度で全部お察しか)
たった一度こちらの手の内を見せただけで。
触れてもいない相手の精霊術のコントロールを奪うという秘策を一度見せただけで。
起きた現象を。
こちらに起こすことが可能な現象を。
それを正確に理解し、それに合わせ行動を最適化し始めている。
……本当に恐ろしい。
紛れもなく天才だとシオンは思う。
だけど此処までは想定内。
そして事がせめて表面上だけでも想定内に進んでいる時点で、この戦いには今度こそ勝機があるのだと。
そう、確信する事ができた。