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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
二章 隻腕の精霊使い
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20 全身全霊、最後の一撃。

 ただその存在に……エルに、手を伸ばした。

 そしてそれは幻覚では無い。手が触れた瞬間、その手の温もりが伝わってきて……そして一つの精霊術が浮かびあがった。

 そして俺はほぼ無意識にエルを剣へと変化させる。

 次の瞬間、朦朧としていた俺の意識は覚醒した。肉体強化の出力が上がったおかげで意識を失うボーダーラインが上がった。殆ど動かなくなっていた体もある程度動くようになっている。


『大丈夫ですか! エイジさん!』


 言いたい事は沢山あった、言ってあげたい事は沢山。とにかく沢山あった。

 だけど心配して呼びかけてくれるエルの声に答えるほどの与力はまるで残っちゃいない。


『……ッ! 来ますよ!』


 エルのその声に反応して視線を、俺が逃げてきた方向へと視線を向ける。

 目の前には今まで同様、この組織の人間がそれぞれの精霊術を行使して俺を殺しに掛っていた。


 ……結論から言おう。今の俺では奴らを倒し切る事が出来ない。


 そして仮に倒し切れてもそこまでだ。そこから先へは行けない。

 もうこの状態での肉体強化を用いてでも、あと何秒意識を保てるか分からない。次の瞬間には倒れているかもしれない。そんなレベルにまで肉体が衰弱しきっている。血もまるで足りて無い。言ってしまえば今の体の状態は、あの森でエルに傷を隠し通した末に負った絶望的な症状より、更に絶望的だ。

 そんな状態で突破できるなら、俺はあの麻痺毒を喰らった戦闘も突破出来ている筈だ。


 故に勝てない。戦える状態では無い。

 当然そんな状態であるのなら、逃げる事もままならない。

 だけどそれでも……やる事は決まった。

 俺は剣の柄を強く握り締める。

 目の前には既に何人もの敵が。そして更に奥には前衛を援護するかの様に精霊術を構築する敵の姿が見えた。

 だけど……気にするな。気にした所でどうにもならない。

 俺はただ、俺がやるべき事をやるだけだ。


 とにかく全力で。全ての力を剣に宿す。そんな感覚で。

 繊細さなんていらない。荒々しくていい。とにかく俺が今放てる全身全霊の一撃を放つ。

 ただ、それだけでいい。

 ……いくぞ、エル。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 エルの言葉にすら返答出来なかったけれど、それでも自分を鼓舞する為に無理矢理声を引きずりだした。

 そして放つ。

 風を纏わせた剣を全力で……目標目掛けて打ち放つ。

 打ち……上げる!


 次の瞬間、轟音と共に、近づいて来ていた男達が発生した衝撃波で弾き飛ばされた。


 だけどそれはあくまで余波だ。

 天井に全身全霊の斬撃を打ちこんだ。その余波。

 ……地上までの大穴を空ける為の余波。

 空くかどうかなんてのは分からない、博打の余波だ。


『地下から天井に攻撃をして脱出……まあ、現実的じゃ無いね』


 ダクトまで向かう間。思い付きの案をシオンに投げかけると、そんな反応が返ってきた。


『こっちの世界じゃ精霊術が広く使われている。だからいつ何時、通常の人の力では成し得ない衝撃なんてのが発生するか分からないんだ。だから窓ガラスとかはともかく、住宅などの建築基準は相当に高いよ。当然、何かあったら洒落にならない地下は尚更にね。だから精霊術で天井をこじ開けるなんてのは考えない方が良い』


 いわば地下シェルターの様な物なんだ。そう簡単に壊れたら話にならない。

 だけど……壊す。

 生き残るために。俺を助けるために戻ってきてくれたエルを無事に此処から連れ出す為に。

 全て跡形も無く、ぶっ放す!


 そして次の瞬間には……勝敗が決まった。


 大きな穴のレンズに移る空高く上る半月が……剣を振り上げ背から地面に倒れようとする俺の視界に移った。

 そしてそれもゆっくりと見えなくなってくる。

 たった一撃。想像通りそれが限界。

 視界が徐々にブラックアウトしていく。

 そんな中で今度こそ。俺は静かにエルに声を掛けた。


「あと……頼んだ」


 それだけを言い残し、俺の視界は完全にブラックアウトする。

 目が覚めた先で、エルが笑ってくれている事を願いながら。

 例の如く、話のキリ的に短い話です。

 

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