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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
418/426

ex 二人目の適格者

(一体何が……ッ)


 シオンに弾き飛ばされ部屋の端にまで弾き飛ばされたランディは、片腕を抑え前方を警戒しながら立ち上がる。

 視界の先にはシオン・クロウリーが立っている。

 一体何が起きたのか、理解が追い付かない。

 シオン・クロウリーは死んだ筈だ。

 この手で殺した筈だ。

 だけどその殺した筈のシオンに。

 契約の刻印が刻まれていない筈のシオンに弾き飛ばされ、今に至っている。


(まさか幻術か? いや……あの時見た光景が幻術によるものだったとして、あの精霊から刻印が消えたのは事実の筈だ。それでもう精霊術は使えなくなっていた筈だ。だとすれば他に幻術を使った第三者がいるのか? あの攻撃だって精霊術を使えないシオンに打てる物じゃねえ。幻術から攻撃まで第三者が……あのテロリストか精霊の内の一人が隠れてやったのか!?)


 混乱の中、周囲を見渡す。

 精霊の方は一度森で戦ったが、その時に手の内を全部見られた保証はなくて。そして今の自分と互角に戦えるだけの力を持っている事は分かっていて。

 そういう器用な真似もできる相手なのだとすれば、そんな相手が隠れて自分を狙っているという事になる。注意を向けなければ一瞬でやられる。

 テロリストの方も同じだ。

 捕らえた青髪の精霊が色々と未知数な以上、それは契約者の方にも言える事で。

 とにかく、第三者に警戒を向けなければならない。


 ……だけど追撃はなく。


 今この部屋で確認ができたのは、謎の魔方陣のような物の中心にいるシオンと、その契約精霊の二人のみ。


(……ってちょっと待て。アレは何をやっている……ッ)


 抱き合う二人が何をやっているのか。それは分からない。

 だけど……何かが行われている。

 それが何かは分からない。

 分からないが。


(とにかく終わってないなら終わらせるだけだ!)


 そして霊装の銃を向け、発砲する。

 だが直前にこちらを見たシオンの表情は、どこか迷いのないまっすぐなように見えて。

 次の瞬間、ギリギリのタイミングでシオンは銃撃を躱す。躱される。

 精霊を抱きかかえ、出力の上がった身体能力で。


「……ッ」


 ランディの攻撃を躱したシオンは滑るように着地する。

 その表情からはこれまでのような焦りは感じられず、どこか余裕を感じられた。

 そして、静かに呟いたのが聞こえた。


「なるほど……これなら」


 どこか勝機を見出したような、そんな言葉。

 そんなシオンに思わずランディは問いかける。


「お前……なんで生きてる。いや、その出力はなんだ。お前、さっきその精霊と何をしていた!」


「悲しいね。あれだけ精霊を犠牲にして研究を進めているのに、こうした最も基礎的であるべき事を僕達研究者は知らなすぎるんだ」


「基礎的であるべき……」


「正規契約だよ」


 そう言ってシオンは自身の右手に刻まれている契約の刻印を見せつけてくる。

 黒ではなく……白い刻印。


「答えようランディ。僕達がやっていたのは正規契約。人間と精霊が本来結ぶべきな真っ当な契約だよ」


「真っ当って……それは真っ当なんかじゃ……」


「歪だって言いたいんだろう。気持ちは分かるよ……じゃあ飛ばした一つ目の問に答えようか」


「一つ目の問……?」


「この出力の話。正規契約を行うと精霊術の出力は常時テリトリーにいるのと同じ状態になる。つまり一段階底上げだ。後は……どうやら力の源の生成量も上がるらしいね。それは今初めて知った」


「な、なんの話を……」


「精霊は出力は問わず、常時精霊術を発動させていても尽きないだけの力の源を生成し続けている。だけどこの子の存在で著しく出力の低い精霊はその生成力も弱く、精霊術の常時使用も不可能になる事を知った。それが今普通になって精霊術を使い放題になったんだから……生成量が上がったという事なんだろうね」


 言いながらシオンは小さく好戦的な笑みを浮かべる。


「それと一つ、キミが僕に勝つつもりがあるのならば、こうして僕の話を聞いている間に攻撃を放ち続けるべきだった。今の僕は比較的無防備に近い状態だぞ?」


「何?」


「応急処置完了……全部終わったらちゃんと治療するから、ちょっと待っててくれ」


 シオンは抱きかかえた精霊に対してそう言う。

 ……つまりだ。


(コイツ、この状況で精霊の怪我の治療してやがったのか!?)


 おそらくは銃で撃ち抜いた脚の怪我のだろう。

 ……それを次にいつ攻撃を撃たれるか分からない状況で。

 ……涼しい顔で。勝利までの道のりで寄り道をするような感覚で。

 そしてその寄り道を終えたという事は……もう彼にそこに留まる理由は無い。


「借りるよ……キミの力」


 シオンがそう言った瞬間だった。


「……ッ!?」


 視界から精霊の姿が消えた。

 そこに佇むのはシオン・クロウリーただ一人。


 美術品のような美しさを感じさせる義手を。

 霊装を装着した、シオン・クロウリーただ一人。

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