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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
417/426

ex 答え

 分の悪い博打だった。

 まず第一に、向こうの攻撃を躱さずに防ぎきらなければならない。

 それは現状の出力差を考えれば、蜘蛛の糸を掴むようなか細い可能性だった。

 だけど博打はここまで。

 それさえできれば、勝機は見えてくる。


 攻撃を防ぎ切り、その後。

 まずランディには、シオン・クロウリーを殺害したという認識を持たせる。

 その為に契約精霊との契約を解除した。


 常識的に考えれば、この状況で精霊との契約を打ち切る事は、自ら武器を捨て丸腰になるという事を意味する。故に余程の事が無ければ態々取るような選択ではなくて、相手に死んだと思わせるには絶好の策だろう。


 だが結局死んだフリだと疑われれば終わりで。故に視覚的にも死んだと思わせる必要があって。

 だから幻術で、より血塗れの遺体に見えるように仕立て上げた。


 そして常識的に考えれば、幻術による隠蔽を可能とするのは精霊術で、精霊術を使うには精霊との契約が必要で。

 つまりだ。精霊術が発動している筈が無いという状況が。幻術を使われているという可能性を消し去る事が。思い込みが……幻術の効力を底上げしてくれる。


 そこまですれば、後は死んでいるという認識による隙を付くだけ。

 精霊術を使って上昇した身体能力で接近して、契約精霊の拘束を解き、対象を弾き飛ばす為の一撃を放つ。

 ただ、それだけ。


 それ程の事を、契約の刻印が刻まれていないただの隻腕の少年はやってのけた。

 もう精霊術を使えない筈の少年が。


(……うまく行った)


 心中でそう呟いた瞬間、肉体強化の精霊術が強制的に解除される。

 それを維持する為の力が無くなった。

 精霊術にも流用できる、本来人間の体内に流れている筈の、魔術を使うための魔力。

 契約を打ち切る前に閉じた回路をこじ開けて精製したその力が、枯渇した。

 幻術、強化、攻撃。この三つの工程を終えて。

 悪党から助けたかった女の子を引き離すという大仕事を終えて、そこで枯渇した。


(……でも、ここからだ)


 ここまでは第一の博打。

 これより踏み込むのは、より険しい大博打。

 今のシオン・クロウリーには戦う為の力も、逃げる為の力も存在しない。

 契約によって精霊から得られる精霊術を使う為の力は一切残っていなくて。

 その力を使って、精霊と契約すると閉じて使えなくなってしまう、魔力を生成する為の回路を吐血しながらこじ開けていたのだから、もう新たに生成する事もできない。


 今度こそ、本当に丸腰。

 何もできないろくでなしがそこにいる。

 だからここからは。

 ここからこそが大博打。


「ごめん……待たせた」


 そう言ってシオンは、名前も知らない精霊を抱き寄せる。


「怖かっただろう? 辛かっただろう? 今のキミには感情があるんだ……此処に連れてこられてからの日々が地獄のようなものだったって事は嫌でも理解できるんだ……遅くなってごめん。本当にごめん……ッ」


 本当はもっと言いたい事がある。伝えなければならない事もある。

 だけどそれを悠長に語っている時間はない。

 稼げた時間はごく僅か。

 だから早々と、本題に入らなければならない。


「……これだけ待たせて、苦労ばっかり掛けて。厚かましいけど……お願いがあるんだ」


 言いながら、彼女を抱き寄せた手が震えている事に気付いた。

 ここから先に踏み込む事に怯えている自分がいた。

 ……それでも。躊躇いはしても。

 もう覚悟を決めて此処へやってきたのだから。

 震えた声で、彼女に告げる。


「僕と一緒に戦ってくれ。僕に力を……貸してくれ……ッ!」


 言えた。やっと言えた。

 そしてきっと今の彼女は何を求められているのかをはっきりと理解しているだろう。

 これが精霊との正規契約を求める言葉だという事は、きっと理解してくれている筈だ。


 ……怖かった。

 拒絶されるのが怖かった。

 だから中々踏み出せなくて。

 踏み出した後も不安しかなくて。

 だから一体どんな反応をされるのかが、怖くて仕方がなかった。


「……」


 言葉は無い。

 だけどその代わりに、彼女は動いた。


 強く、抱きしめられた。


 そして次の瞬間、二人を中心に魔方陣が展開される。

 展開してくれる。


 それが答え。

 ずっと言い出せなかった。

 ずっと言い出してくれるのを待っていた。


 手を伸ばしさえすれば簡単に届いた答え。

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