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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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85 グラビティクイーン

「……ッ!」


 後方への落下。

 そんな無茶苦茶な現象を、最初ルミアの攻撃かと思った。

 だけどルミアはそんな回りくどい力を使う必要は無いはずで。

 そして俺達の仲間にそれが可能な奴がいて。


 落下した視界の先に、こちらに急接近してくるその姿があった。


「レベッカ!」


 禍々しい雰囲気を纏わせたレベッカがそこにいた。


「ごめん待たせた!」


 そしてルミアは両手に黒い球体を作り出す。

 重力を司る精霊術によって作られた球体。

 それをこちらに向けて動き出そうとしていたルミアに向けて射出し牽制。

 そして俺と入れ替わるように前に出る。


 ……ルミアと戦うつもりだ。


 そう認識した時には俺の体はエルの近くにまで迫っていて、そこで重力の方向が元に戻り床を転がる。

 転がり、エルの元へと辿り着く。


「エル……ッ」


 やはりエルは完全に意識を失っていて。

 それだけじゃない。

 多分ろくに受け身も取れなかったせいで……両足の骨が折れている。

 ……目を背けたくなる。


 そして……レベッカもこうなるのが目に見えている。

 見えてしまう。

 レベッカも強い。突入メンバーの俺達三人の中での要となる存在だ。

 それでも……実力差がありすぎる。


 それだけルミア・マルティネスという女は化け物染みている。


 視界の先でレベッカは構えを取っている。

 おそらくルミアの周囲の重力を操作して、動きを鈍らせたりもしているのだろう。

 だけどその程度で埋まらない。埋められない。


 だから駄目だ、戦わせちゃ――


「なにボサっとしてんのエイジ! 早くエル連れて此処から逃げて!」


「逃げろって……ソイツはお前一人でどうこうできる相手じゃ――」


「そんなのアンタの顔見て理解した!」


「だったら――」


「アンタが助けたいのは私じゃなくてエルでしょ! 優先順位を履き違えるな!」


「……ッ!?」


 言われて、脳裏を過る。

 森を出る直前にレベッカに言われた言葉が。


『自分から巻き込まれに来た相手を踏みにじって先に進む位の覚悟は見せなさいよ! アンタにとってエルはそうしてでも助けないといけない相手じゃないの!?』


 そんな、レベッカを巻き込めなかった俺を鼓舞するように言われた言葉。

 だけどあの時手を取れたのは、レベッカが死なないと約束してくれたからだ。

 根拠も何も無かったけれど、それでも死なないと言ってくれたからだ。


 だけど死ぬ。死ぬより酷い目に合わされる。

 レベッカ一人に戦わせれば、それは確定事項だ。


 だとすれば……そんな簡単に、踏みにじって進める訳がない。



 駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ。

 それだけは駄目だ。



 だけど。


「エイジ! エルを死なせたいの!? アンタはエルを助ける為に此処に来た! 私はそんなアンタやシオンの為に命捨てる覚悟で此処にいる! 早く行け!」


「……ッ」


「行って! お願いだから!」


 そうやって何度も何度も言われて、頭の中がぐちゃぐちゃになって。訳が分からなくなって。

 もう半ば自分が何をしているのかも良く分からないまま、エルを背負って部屋の外へと走り出す。


 ルミアは追ってこない。追ってこないようにレベッカがそこに居てくれている。

 そこに一人で立たせてしまっている。

 立たせてしまっている。


 レベッカが殺される。

 レベッカが死ぬ。

 ナタリアがそうだったように。アイラがそうだったように。ヒルダがそうだったように。リーシャがそうだったように。

 レベッカも……俺の選択で死なせてしまう。


 シオンはどうだ。

 今もまだ生き残っているのかも分からない。

 例えどこかで危機に直面していても、今の俺には多分何もできない。


 どこまでもどこまでも、無能を晒す。


「どうすりゃいい……どうすりゃ……」


 此処に三人で突入した。

 そしてエルとシオンの契約精霊を助け出して五人で脱出する。

 その理想に向けて俺達は進んでいた筈だ。


 だけどなんだこれは。

 なんで。どうしてこうなった。


 一体此処からどうすれば、その理想を実現できる。

 誰も死なずに失わずに、事を終わらせられる?


 そんな事を。

 仲間に背を向けて見殺しにして走りながら。

 ただひたすら考えた。


 ……答えなんて、どこにも見付からなかったのだけれど。 

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