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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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84 格の違う戦い

 次の瞬間、ルミアが動いた。

 槍を構えたルミアは床を蹴り急接近し、ほぼ同時に放ったエルの無数の風の槍を躱し防ぎ撃ち落として優々と距離を詰めてくる。

 それに対しエルも動いた。

 ルミアを迎撃する為に正面に暴風の刃を展開する。

 さっき俺が放った新しい技を再現するように。


 ……いや、違う。見ただけで分かる。

 俺の放った物より密度がある。

 技としての格が違う。


 だけどそれでもルミアは先程と同じように周囲に結界を展開してその一つ一つを捌いていく。

 ……いや、ちょっと待て。

 同じなんかじゃない。

 ほんの僅か……ほんの僅かだが、ルミアの表情から余裕が消えている。

 直接的なダメージは与えられなくても、全くの無駄じゃない。

 効果的に作用している。

 そして……その暴風の中に、エルが飛び込んだ。


「エル!」


 その中に飛び込むという事がどういう事か。それはもう身を持って経験している。

 経験しているから、そのエルの行動に血の気が引く。

 だけど、突入したエルが暴風の刃に傷つけられるような事は無かった。


「……マジかよ」


 思わずそんな言葉が溢れだした。

 俺の時は完全にフルオートで走らせていた暴風の刃。

 エルはきっとそれを、風を操って再現しているだけ。

 自身の周囲を都合良く範囲外にし、代わりに風を操作してルミアにぶつける刃の層を厚くする。

 それを……接近してルミアに向かって折れていない右腕で拳を振るい、槍の一撃を捌きつつ、天井付近に風の槍を出現させて降らせながら実行している。

 戦いにすらならなかった俺とは違う。

 ……エルは、一人でルミアと戦えている。


 ……なに黙って突っ立って見てるんだ俺は。

 援護……そうだ、援護するんだ。


 目の前で繰り広げられる戦闘を目で追いながら、右手に風の固まりを形成する。

 形成して……それからどうすればいい。


 目の前で繰り広げられている遥かに格の違う動きを見せるエルと、微かに余裕はなくなっていても、それでもまだ優々とエルと相対しているルミアの戦いに。

 ……俺程度が一体どうやって介入すればいい?


 そして何もできなくて立ち尽くして。

 俺を完全に蚊帳の外において、目の前で状況は動いた。


 ……動いてしまった。


 槍の一撃を辛うじて捌いたエルに対して、ルミアが何かしらの精霊術を打ち込んだのが見えた。

 次の瞬間、コントロールが乱れるように暴風の刃が消滅して、エルの体が弾き飛ばされる。

 弾き飛ばされて、俺の真横をバウンドして後方の壁に叩き付けられた。

 受け止める為の反応すらできない程のスピードで。


「エル!」


 返事は無い。エルはそのまま倒れてぐったりと動かなくなる。

 一撃。

 一撃で昏倒させられた。

 つまり今の一撃は……少なくとも耐久力だけは他より遥かに優れている筈のエルを一撃で昏倒させるだけの威力を持った一撃だった。


 それを打ち込まれるのを、何もできずにただ傍観している事しかできなかった。


「大丈夫。意識を失っているだけだから安心しなよ。実験材料をこのまま殺す訳ないんだからさ……まあ此処で死ねた方がエルちゃん的には楽だと思うけど」


「……ッ」


 最悪な未来を脳裏からかき消して、風の塊を形成したまま構えを取る。

 だけど……それをして何になるのか。

 構えを取った先に何ができるのか。


 まだ話が通じた天野とは違い、駄目元の説得という選択すら与えられてなくて。

 勝てない。

 逃げられない。

 説得もできない。

 ………だったら一体何が。


 それが浮かばないまま、ルミアは言う。


「……さて、さっきも言ったけど、色々と事情が変わって巻いていかなきゃいけなくなったんだ。だから……さっさと殺すね。できればエルちゃんの前で殺して反応を見たかったけど……目が覚めてキミの遺体が転がってる方がインパクト強いかな」


「……ッ!」


 どうすればいい。

 ……どうすれば……ッ!


 そんな風に思考がぐちゃぐちゃになっていた瞬間だった。




 俺の体が浮遊感と共に後方に向けて落下し始めたのは。

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