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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
401/426

ex 立ち向かえ、たった一人でも 中

 ランディという研究者はそこにいてはいけない存在だった。

 そこにいてはいけないからこそ、彼を含めた三人を研究所の外へと誘き出していたのだ。


(最悪だ……ッ!)


 エイジから得た魔術の情報で、結果的に精霊術と魔術。双方の力の底上げには成功した。

 だがそれでも勝てない。少なくとも一対一では。

 それだけ霊装の出力は圧倒的な物で、だからこそ会敵する訳にはいかなかった。


「お前は俺達を出し抜いたつもりだったんだろ? 残念だったな、シオン・クロウリー」


 シオンの契約精霊を抑え込みながら、ランディは言う。


「何かしらの形で抜かれる可能性は考慮していた。だとすればそれを踏まえた上で行動しなければならねえ」


「……なるほど。つまりキミは今、そういう精霊術を使える精霊と契約を結んでいた訳だ」


 例えばシオンがこれまで何度も使ってきたような、分身と実体を入れ替える精霊術。

 この距離をその手段で移動するのは通常難しく思えるが、霊装の圧倒的な出力を利用すればそれも容易に可能だ。

 そうしたシオンの読みに対しランディは言う。


「まあそういう所だ。俺はお前やあの人のように、過去に契約していた精霊の精霊術を使ったり、なんて事は出来ねえからよ。多少頭を使った。ただそれだけだ」


「……参ったな」


 焦りはあった。

 契約精霊が撃たれた怒りもあった。

 だけどそれでも表面上少しでも落ち着いた様子を見せながら、必死に思考を全力で巡らせる。


 勝てない相手に勝たないといけない。

 勝てないという自身の判断を覆さなければならない。

 その為にやれる事を、必死に探す。


 ……結果、結論だけを言えば倒す方法はあった。


 新たに得た知識での術式構成の時短である程度実践レベルにまでこぎつけた、ルミアに看破された決壊術式。

 それをこうして悠長に会話に付き合ってもらっている間に組み上げ撃ち放つ。

 ルミアには術式を解析された末に高出力の暴力で突破されたが、目の前の相手にあの当時よりも強力になっている筈の結界を破壊できるとは思えない。

 もっとも地形を変えられるだけのフルパワーで撃たれればまだ分からないが、研究所という屋内施設の中でそれだけの規模の攻撃を放つのは自殺行為で。

 それらを加味した上で発動さえすれば、シオン・クロウリーは目の前の三下に勝利する事ができる。


 ……契約精霊の犠牲と共に。


(……探せ、別の策を……)


 あの時使った魔術は攻撃を弾き返す効力を持つ。

 その魔術で相手を囲み自爆を狙う。

 だとすれば……彼のすぐ傍にいる契約精霊はどうしたって犠牲になる。

 高出力の霊装の暴力に晒される。

 それは駄目だ。

 それだけは駄目だ。

 故に考える必要がある。

 彼女を危険に晒さずに勝利する為の策を。


 だけどどれだけ考えても浮かんでくるのは愚策ばかりだ。

 ……そもそも通用しないか、彼女を巻き込む恐れがあるか。

 その二択。


(……巻き込まない程度の規模の攻撃で削りきるしかないか)


 苦肉の策ではあるが、そうするしかない。

 そしてその準備をする為にも、少しでも時間を稼ぐ必要はあって。

 その為に動きを止める為の会話の引き延ばしを考えて、やがて辿り着く。


(いや……ちょっと待て)


 到達する。

 そもそもランディと戦わずに済む作戦を。


「一ついいかい、ランディ?」


「どうした? 遺言なら聞いてやるよ」


「上のフロアにおそらく末端の研究者達が居た。彼らも霊装のような物を持って高い出力を叩きだしていた連中だ。そんな連中を前にしておきながらどうして僕は殆ど目立った外傷無くここまで来れていると思う?」


「僕が強いから……とでも言いたいのか」


「違う、逆だ」


 シオンは真剣な表情を浮かべてランディに言う。


「キミも知っているだろう? ……今の僕にそれだけの力は無い。急速に進んだこのパワーインフレにまるでついていけていない。それが僕だ。僕は無力だよ」


「何が言いてえんだ?」


「そんな僕がどうして此処までこれたのか。それは知っての通り今の僕には協力者がいるからだ。だけどね……それだけじゃない。寧ろ大半の理由はそこにないんだ」


 拙くそれでも必死に組み上げた会話。

 その最後にシオンはこの話の核となる情報を載せる。


「言ってしまえば彼らが勝手に自爆した。正確に言えば自爆させられた。彼らは……ルミアに殺されたんだ」


 その事実。それが核。

 ルミア・マルティネスはランディの同僚とも呼べるであろう研究者達を殺害した殺人犯である。

 その事実をなんとか受け入れさせて、彼をルミアの仲間から中立へと。

 できる事なら味方に近い存在へと引き摺り下ろす。


 難しい話かもしれない。

 だけど賭けるだけの価値はある。


 少なくとも人が人に優しいこの世界で。

 精霊以外にはとても優しく接する人間が多いこの世界で。

 人の心に。良心に訴えかける。

 

 ……こちらがそもそもルミアにはめられて、ルミアは平気で殺人を犯すサイコパスだと。

 そう認識させる。


 それがうまく行く可能性がある位には、この世界は歪に優しくできている筈だから。


 そこに賭ける。

 戦いになる前に全部終わらせる。


 やれる筈だ。

 やらなければならない。 

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