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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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ex 君臨する地獄の主

 エルはシオンの契約精霊と共にエイジの元へと急ぐ。

 だが思った以上に進まない。進めない。


(……一体シオンさんはこんな状態でどうやって戦っていたんだろ)


 シオンの契約精霊の肉体強化の出力があまりにも低い。

 今までエルが出会ってきた精霊の中で最も低いと言っても過言ではないだろう。

 少なくともかつてアルダリアスの地下で自分の前に現れた時のような戦いが出来るとは思えなかった。

 ……とはいえ、あの時のシオンが戦えていた理由は分からなくもない。

 少なくとも今の自分がバーストモードという、本来の力を上回るような力の使い方をしているのだから。

 精霊学の研究者だったらしいシオンも同じように、普通とは違うような力の使い方に到達していたのかもしれないと思える。

 だけどそれがどうであれ。シオン・クロウリーの力がどうであれ。

 今自分と共に行動している金髪の精霊が、シオンと同じような力の使い方を出来ないであろう事に変わりはない。

 だとすると起きる事態は単純で。


(……やっぱり背負っていった方がいいかな)


 彼女のスピードに合わせなければならないために思うように進めないという事態が発生する。

 とはいえ改めて考えて、いざという時に両手が塞がっている状況はマズイと判断して、結局そのまま進む事にした。


(……それにしても誰もいない)


 牢で戦ったあの一戦の後、一度も敵と遭遇していない。

 元々それ程の戦力を抱えている施設ではなかったのか、それともエイジの方に戦力が回されているのか。

 願わくば後者でなければ良いのにと思う。

 ……とにかく、右手の刻印が無事そこに刻まれ続けている内に、早急にエイジの元へと辿り着かなければならない。

 ……中々うまくは行かないけれど。


 そしてやがてエイジの元へと最短距離で向かっている内に、大きな部屋へと辿り着く。


「此処は……」


 部屋の端に壊れた的のような物が散乱している。

 そして後は……床や壁のそこら中にこべりついている。

 ……血の跡が。


「……」


 一体この部屋で何が行われていたのかは分からないけれど、それでも分かりたくないと思える程度には碌でもない場所なのだろうと察する事は出来た。

 と、その時だった。


「……ッ?」


 刻印から感じるエイジの大雑把な位置情報に違和感が生じた。

 まだこの敷地内に居る事は恐らく間違いない。だけど先程までとはまるで違う所に一瞬で移動したのを感じられた。

 ……考えられるとすれば、テレポートの類の精霊術を何者かに使用されたのだと思う。


(……あっちだ)


 ともあれこれで進路は変わった。今まで向かおうとしていた道にエイジはいないのだから。

 だから部屋の右手側にある扉へと向かおうとしていた足取りを左手側へと変える事にした。

 ……少なくとも、エルは。


 今までエルに付いて来ていた金髪の精霊が、エルとは逆方向へと進みだす。


「ちょ、そっちは……」


 それに気付いてそう呼び留めるが、思わず言葉が出てこなくなる。

 一応立ち止った金髪の精霊は、何かの精霊術を使っていた。

 これまで分岐点がある度に彼女がそれを使ってきたのを見てきていて、そして今それを使って自らの意思でその方向へと進みだそうとしている。

 そんな彼女にエルは聞いた。


「そっちに……あなたが行かなきゃいけない何かがあるんですか?」


 その問いに無表情ながらも、彼女は小さく頷く。

 右手に刻まれた黒い刻印に触れながら。


(……そっか)


 それを見てなんとなく察する事が出来た。


(……多分エイジさんと一緒に来てるんだ、シオンさんも)


 それがどれだけ奇跡的な確率なのかは分からない。

 アルダリアスで別れてからのシオンの動向は知らなくて。

 エイジとこの世界へ戻って来てから自分が知り得る限りでは、エイジとシオンが再び出会うような事もなくて。

 だから本当に偶然出会ったんだ。


 きっと同じような目的を掲げて。


(……でもどうすればいいんだろ)


 今の考えが正しかったとすれば、彼女の向かうべき場所は向こう側だ。だけどそっちは自分が進むべき道とは違っていて、だからといって金髪の精霊にはこの状況で一人で行動できるだけの最低限の力すらない。

 だとすれば自分はどう動くべきなのか。


 だけどその答えを出す前に、状況が動く。

 寧ろ今まで何も動かなかったのだから、ようやく動いたと言っても良い。


 部屋に入ってくる人影があった。

 白衣を着た人間の少女。


「ハローエルちゃんにシオン君のお姫様。昨日はよく眠れたかな?」


 満面の笑みを浮かべるこの地獄の主が。


「ん? どしたの? 顔が怖いよ笑顔笑顔」


 ルミア・マルティネスがそこにいた。

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