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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
378/426

68 過去と向き合うという事

「おーいレベッカ」


「……あ、エイジ」


 レベッカが事前にどの辺りにいるのか俺達に知らせないまま、逃げるようにその場を去ってしまっていた為、正直レベッカの所に行くと言っておきながら見付けられないんじゃないかという不安があったのだが、結果的に少し探せばレベッカの姿を見付ける事ができた。

 ある程度離れた所の木の上に居た。まあ見張りらしいポジション。


「終わったの?」


 レベッカが木から飛び降りてから聞いてくる。


「俺がやれる事は全部な。アイツの吸収が早すぎてビビる。とりあえずあと30分で何とかするってさ」


「……それってやっぱり凄い事?」


「無茶苦茶凄い事」


「そっか。まああんな物を作る様な人だからね……そりゃまあなんだってできてもおかしくないか」


 ……改めて思えばレベッカはどこまでシオンの事を知っているのだろう。

 今までレベッカを交えた会話の中で、端的にシオンの情報は出て来ただろうけど。それでシオンの過去を把握しているのか否なのか。それを知った上でレベッカがどういう反応をするのか。

 ……いや、コイツはもう既に全部把握してるか。

 それまでに得た情報はどの程度だったかは分からないけれど、それでもグランとの会話でシオンが精霊学の研究者である事を察するには十分で。そしてそれはレベッカに渡した枷という存在に理由付けするには十分で。

 ……つまりはもうレベッカはシオンの黒い部分をしっかりと把握しているんだ。

 把握した上で契約を持ちだしている。

 そしてレベッカは俺に問いかけてくる。


「……あの人、大丈夫そうだった?」


「まあ、落ち込んではいたけど大丈夫そうだったな」


「……そっか。まあちゃんと落ち込んでくれてる辺り、やっぱり今のあの人は良い人なんでしょうね」


 ……今の、か。

 そこに引っかかって少し黙り込む俺に対し、レベッカが言う。


「ウチはね、一応ある程度の事は察してたつもり」


 こっちの考えを見透かしたようにレベッカは言う。


「そりゃただの人間にこんなの作れないだろうなって。じゃあ作れる人間ってのはどういう存在なのかって自問自答してみれば、まあ色々と察しは付く」


「付いた上で……お前、それでもシオンの事、信頼できたのか?」


「まあ何も思わなかった訳じゃない。考える事は考えた。いや、まあだけどさ……それでシオンが必死になってウチを助けようとしてくれた事実は変わんないし……さ。だったら変わった後に目を向けたいと思わない? まあそれは……ただ単に、ウチが助けられた側だから言えるのかもしれないけどさ」


「……」


 レベッカがそういう考えを持てる精霊で本当に良かったと思った。

 シオンは多分精霊たちからすれば、ただの人間よりもよっぽど厄介な相手な筈で。過去を知られて同じような考えを抱く方が少数派だろうから。

 そうでなければ今頃、色々と目を背けたい様な冷え切った空間になっていたかもしれないから。

 だから此処にいるのが。その時そこに居たのがレベッカで本当に良かった。

 そしてそんなレベッカに俺は言う。


「シオンがさ、お前の事心配してたぞ。お前の事を傷付けたんじゃないかって」


「あーやっぱ優しいなあの人。完全に悪いのウチなのにさ……間違いなく原因、腕の事よね?」


「まあ、えーっと……そうらしい」


 レベッカの問いに正直に頷くと、レベッカはやや苦い表情を浮かべながら言う。


「まあ十中八九予想通りって所ね。まあ逆に……ああならないとおかしいよ、うん。ウチがやったのはつまりそういう事だからさ……だからこそ、曲げる訳にはいかないか」


 そう言ってレベッカは手の平に拳を打ち付ける。


「ウチはあの人の助けになりたい。そんなトラウマを抱えさせてしまった人に。そんなトラウマを抱えてもまだ突き離さないでいてくれる人の助けになりたい……だから、ウチ、頑張るよ。ああ……なんかこの流れで言っちゃうとついでみたいに聞こえちゃってごめんだけど、エイジやエルの為にもね」


「……その為にも、ほんと死ぬなよ」


 少なくとも、俺やシオンが一番レベッカという存在に対して起きて欲しくない事は。そうなった場合、もっとも受けるダメージが大きいであろう事はそれだ。

 協力してもらって。助けてもらって。信じてもらって。そんな相手を死なせてしまえば……正直立ち直るのは難しい。

 とにかく自分の周りの誰かの死程辛い物はなくて。そして俺達にとってレベッカはもうその周りの誰かの一人なんだ。

 ……ほんと、それだけは、勘弁してほしい。


「……分かってる。死ぬつもりはない。死なせるつもりもない。ウチとエイジとシオン。それにエルとシオンと契約している子。五人全員で生き残る。その為に死ぬ気で戦うつもり」


 死なない為に死ぬ気で、か。


「上等。俺もそのつもりだよ」


 だから全力でやるべき事を探してやるんだ。


「……なあ、レベッカ。シオン待ってる間、俺達だけでも作戦会議しねえか?」


「そうね。時間もない訳だし。即採用されるような神掛かったアイデアだって浮かぶかもしれないし」


「じゃあ決まりだ」


 当然俺達には向こうの情報が欠落している訳で、大した作戦は立てられないかもしれない。

 だけどそれでも、きっと何も考えないよりは良い筈だから。


 そしてそこから俺達は作戦会議を行った。

 その中で辿り着いたのは一つの穴だらけの作戦。

 穴を埋めさえできれば。俺達には埋められない穴を多彩なシオンが埋める事ができれば成するかもしれない作戦。

 それを俺達二人が用意した所で……三十分。

 約束の時間となった。


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