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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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67 魔術という専門技術

 シオンへの魔術知識の指導は思った以上に早く進行する事となった。

 魔術を発動させる事ができている時点で当然と言えば当然なのだが、基礎の大半は自力で辿り着いたらしく、今のシオンはそれでも自力で辿り着けなかった穴を独自理論で塞いでいる様な状態だった。

 少なくともこちらがまるで理解できない様な複雑すぎる理論で基礎の穴埋めをしているという事は、きっとシオンは相当に非効率な事をしていたという事になるだろう。


「……なるほど。じゃあ此処のプロセスは短縮できるね」


 あっさりとそんな結論を出していく。

 だけど天才は教えられた知識で穴を塞ぐだけに留まらない。

 多分留まらないからこそ、シオン・クロウリーは独学でこのレベルまで辿りついたのだ。


「いや、待てよ。此処にその理論をはめ込めばプロセスBをより効率的かつ効果的に……いや、これ逆に考えれば精霊術にだって新たな応用式が……」


 得た知識を最大限に活かし応用する。そもそも完成していなかった基礎が完成させるという事は。基礎も完成させないまま応用の域に足を踏み込んでいたという事はそういう事で。更に厳密に言えば別ジャンルに当たる筈の精霊術にも何か新たな応用法を見付けたらしい。

 ……一時間程掛かると思ったのに、ものの30分たらずである。

 たったそれだけで……具体的にどういう形になったのかは分からないけれど、随分と強くなってるんじゃないかシオンは。


 そしてシオンは俺の説明を圧倒的なスピードで理解し続け、そしてやがて暫く一人で理論を構築する様にブツブツと何かを呟き始め、それに一区切り付いたのか、やがてシオンは俺に向けて言う。


「ありがとう、エイジ君。結果的にこれでどうこう出来るかは分からないけれど、キミが持ち帰ってきた知識のおかげでほんの少しばかりは強くなれそうだ」


 そう言ってシオンは小さく笑って、そして言う。


「……とりあえず時間がどれだけあるか分からない。だから30分だ。30分だけ時間をくれ。それだけあれば形にしてみせる」


「30分……ねえ。魔術って本来必死こいて努力しても実践レベルにまで使える様にならねえ奴が大半みてえな技術だぞ。それをお前30分って……」


 シオンが普通に扱えている時点で霞みそうになるが、魔術は本来とても難しい専門技術だ。

 実際対策局が防衛省の傘下となっているにも関わらず、自衛隊。及び同じような状況になっているであろう各国の軍隊に、少なくとも対策局が把握できるという意味で表向きに魔術師の部隊がいないのはそういう側面も大きいらしい。

 付け焼刃では使い物にならない。付け焼刃も刃は刃だとは思うが、それでも運用されない位には脆い刃しか打つ事ができない。


 ……今改めて思えば護身用で魔術を覚えているイルミナティの一般人が、精々ヘビー級のボクサーと1ラウンドなんとか殴り合える程度の実力というのはそういう事なのかもしれない。

 世界がああいう状況と知った上での護身用としてはそれでは弱すぎる訳だし。せめて護身用になる様に頑張った結果がそのレベルなのかもしれない。

 確かにそれでは脆い刃。


 故に下手に使い物にならない魔術に訓練の時間を割くなら、他に時間を割くべき項目があるという訳だ。

 少なくとも他に磨くべき何かがある人間ならば。

 実際ある程度の出力の魔術を使うよりは実弾のアサルトライフルの方が強そうではあるし、最大火力を考えてもまあ兵器の方が強いだろうから。

 イルミナティの男が世界の意思に勝利できる確率を弾きだした時にも現代の軍事力が結構パーセンテージ取ってる感じあったから、つまりはそういう事なんだ。

 確かに無理に時間を割いて習得させるべき力ではないのかもしれない。


 そう。本来はそうやって生半可では手も出せない程の。出してもメリットが得られない程の高等技術の筈なんだ。

 だから本当に。どこか確信めいた表情で30分と言ったシオンは天才なのだろう。

 天才で、そして魔術と繋がったのは結果論だけれど、それを可能にするだけの努力を重ねて来た。


「必死こいて努力して、精霊を犠牲にしてきたさ。正直、精霊術の知識の応用でここまであっさり理解が進められる自分が気持ち悪くて仕方がないよ」


「……」


 それは絶対に本人以外が面と向かって努力だなんて言ってはいけない代物なのだろうけど。


「ほんと、気持ちが悪い」


 そう言って苦笑いを浮かべた後、シオンは一拍空けてから言う。


「とにかくそれが終わったら作戦会議だ。それまでは……少し、レベッカの様子を見てきて貰ってもいいかな」


「……」


「……多分僕はレベッカの事を傷付けてると思うから。心配なんだ」


「……分かった」


 シオンに言われて立ち上がり踵を返す。

 確かに一度レベッカの様子は見ておいた方がよさそうだ。


 だけど心配なのはシオンも同じの筈で。

 ただでさえ精神的に追いこまれていただろうに、更に追い打ちを掛けられた筈で。

 だからせめて何か一言だけでいい。俺に言える事があれば何か言っておくべきだと思った。

 実際、言っておくべきだと思う事はあるから。


「シオン。あんまりさっきの事気にすんな」


 無理だとは思うけど。それでも。


「お前がああなるのは仕方ねえ。そりゃまあ……さっきああなったみたいにさ、お前とレベッカの過去みたいなのは消えねえだろうけどよ。それでも……今こうして互いに共闘関係組める位には信頼関係築けてんだからさ。難しいだろうけど……まあ、少し、元気出せよ。本来それだけでもさ、この世界の人間と精霊の関係にしちゃ上出来すぎるものなんだろうからさ」


「……」


 シオンはすぐに言葉を返さない。

 まあこんな程度の言葉で簡単に折り合いが付く程、シオンが抱えている物は軽くないだろうから。

 ……まあとりあえず言うべき事は。言いたい事は言った。


「じゃあちょっとレベッカの所に行ってくるよ」


 そう言って俺はその場を後にする。

 魔術の習得に関してはもう心配いらないだろう。

 シオンが30分と言ったのだから、今到達可能な領域までシオンは30分で到達する。

 だから願わくば30分後、シオンがもう少しまともな表情でいるように。

 そう願いながら俺は見張りをしているレベッカの元へと向かった。

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