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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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60 魔術師の条件 上

「……そうだね、確かにあの力の事はキミに説明しておかないといけない」


 だけど、とシオンは複雑な表情で言う。


「先に断っておくけど僕はあの力の事をうまくキミに伝えられないかもしれない。正直まだ研究段階で僕自身分かっていない事が多いからね。寧ろ僕が知っている誰かから教えを乞いたい位なんだ」


「別にいいよ、うまく伝えられなくたって……というか正直な話、あの力が何かってのは多分もう理解してるんだ」


 率直に俺がそう伝えると、シオンが目を見開いて驚いた様に言う。


「理解してるって……ちょっとまてエイジ君。あの力は少し見た程度で理解できるような物じゃ……」


「そうだな……それも知ってる。見てすぐ理解できるような単純な物じゃねえって事は。基礎知識教えて貰ってねえと、精霊術では無いなにかって事も多分理解できねえと思う。それだけ高度な技術だって思ってる」


「教えて貰ってって……この世界に僕以外にこの力を使える人が……」


 と、そこまで言ってシオンは何かに気付いた様に黙り混む。

 そして思考を纏める様に暫く間を空けた後、俺に対して問いかけて来た。


「エイジ君……単刀直入に聞くよ……僕が使っている力は……キミの世界の人間が使う魔術なのか?」


「……俺の知識に間違いがなければの話だけどな」


 そして多分間違いない。

 確かに俺は魔力を生成する為の器官が閉じてしまっていて魔術を行使する事が出来なかったけれど、本来あの段階で俺が戦う事になるかもしれなかった相手は。あの時点でエルを守る為に誰かと戦う事になったとすれば、それは99パーセント魔術師だから。

 この先戦う事になるかもしれない相手の事を座学として入れておかない訳がなくて。

 どうせ自分が使えない力の勉強だからモチベーションは中々上がらなかったけど、やっておかない訳にはいかなくて。

 だから……本当に基礎でしかなかったのだろうけど。素人に毛が生えた程度だけれど。それでも……頑張ったから。

 だからあれが多分間違いなく魔術と言える位には、魔術の事を知っているから。

 シオンに対し、強くは言えないけどそう言える。


 そして俺の言葉を聞いてシオンは自身の掌を見つめて言う。


「……なるほど。キミの世界の人間が使っていた力か。既に精霊術以外の異能の力が存在している以上、精霊術以外の何かがそれと言われれば自然と腑に落ちてくるね」


「俺が聞きたいのは、その力をどうやって使っているのかって話だよ」


 この際どうしてシオンが術式を覚えたのかという疑問は捨てる。

 対策局のシミュレーターで精霊術を使えた事に加え、シオン自身がその力と精霊術の原理が近しいと言っていたんだ。

 だとすればシオンが何らかの形でその術式に辿り着くのは不思議ではない。

 何しろシオンは精霊の……精霊術の研究の第一人者なのだから。

 だけど精霊と契約を結んだ人間は魔術を使う為の魔力を作る為の器官が閉じてしまっている。

 つまりシオンが魔術を使う為の術式に独学で辿り着いたとしても、それを運用する為の魔力が無い。

 ……その筈なんだ。

 だけどシオンは魔術を使っている。使えている。

 まるでその身に魔力が流れているかのように。

 

「どうやって、か……確かキミの話じゃ、精霊と契約した人間は魔力というエネルギーを作りだす器官が閉じてしまっているという話だったよね。だけど僕は何故かその力を使う事が出来ている」


「ああ。だからお前が魔術を使えているって事は……何かしらの手段で魔力を生成している筈――」


 言いながら、一つの可能性に辿りついて思わず黙り込んだ。

 少なくともシオンは自分自身で力を作りだしているじゃないか。

 そして同時にシオンも何かに気付いた様にハッとした表情を浮かべ、俺達は同時に言う。


「「……精霊術を使う為の力の生成」」


 シオンは力を生成している。その影響で吐血をしているのだから、それはきっと体内の何かしらの臓器や器官を無理矢理使っているという事になるだろう。

 そしてもし無理矢理にでも使う事ができれば、魔力を得られる器官を俺は知っている。


「……お前はもしかして、魔力を作る器官を無理矢理こじ開けでもしてるのか」


 以前誠一達が言っていた。

 その器官が閉じている俺が魔術を無理矢理にでも使おうと思えば、その器官を無理矢理にでもこじ開けでもしない限りは無理だって。

 だけど逆に言えばそうする事ができれば。そうする手段を有していれば使う事は一応可能で。

 ……つまりシオンは無理矢理こじ開けていたんだ。その器官を。

 そしてそれを裏付けするようにシオンは言う。


「……そういう事になるかもしれない。僕があの子から供給される力ではその……魔術、でいいのか。それは使えなかった。あの力は無理矢理生成した力でないと運用できない。そして人間が本来そうした器官を有しているのだとしたら……多分、そういう事になるんだと思う。というよりそれ以外の可能性がない」


 そしてシオンは纏める様に、一拍空けてから言う。


「僕は自分オリジナルの精霊術を使って無理矢理その器官をこじ開けて力を生成し、魔術を使っている。つまりはそういう事になる訳だ」


「……だったら」


 だとすれば。

 目の前に精霊と契約していながらも、魔術師となった人間がいるのだとすれば。


「なれるのか? 俺も魔術師に」


 俺にだってその力を手にできる可能性がある。

 あったっていい筈だ。

 俺にだってその器官が存在するのだから。する事自体は分かっているのだから。

 魔術師になる為の条件は。

 強くなる為の条件は……きっと、満たしている筈だ。


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