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人の身にして精霊王  作者: 山外大河
七章 白と黒の追跡者
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51 作戦開始

「で、レベッカ。向こうの連中が俺達の所に到達するまでどれ位掛かりそうだった?」


 これで三人向いている方向は同じになった。

 後はなんとか連中ぶっ飛ばすだけだが、とにかく最低限入れておかなければならない情報だけは入れておかなければならない。


「俺達のやり取りを悠長に見てたってことは、ある程度時間が掛かりそうなんだろう?」


「まあ、そうね。でなきゃ悪いけどさっきのやり取り無理矢理打ち切らせて動き出してた」


 ……予想通りだ。

 逆にすぐそこにいるんなら、それ早く言えよってレベッカにキレてたかもしれない。

 そんでもって……詰んでたかもしれない。


「……妙だね」


 シオンが不可解な事を聞いたように言う。


「連中の出力を考えれば、キミが連中を見つけてここまで戻ってきて、悠長に話なんてしている時間は生まれない筈なんだけど」


 確かにその通りだ。

 向こうのスペックがエルを刀にした時の俺と同等程度の物だとすれば、シオンの言うとおりレベッカが発見できた位置から速攻で辿り着いてないとおかしいんだ。

 なのにどうしてこんな時間が生まれている?


「連中はなんていうかな、警戒しながら進んでいる感じだったよ」


 レベッカが言う。


「周囲を警戒しながらゆっくりとね。まあそれでも本当に近くにいたウチを見つけられない程度にはザルな警戒だったけど」


「警戒……」


「まあ一応は僕を警戒しているんだと思う」


 シオンが色々と考えるような素振りを見せながら言う。


「僕ならトラップの一つや二つを張れる事は向こうも知っているだろうし……それに結果的にはできていないけれど、一応は向こうがあの子の力を使って割り出した位置情報も対策されている可能性があると思わせる事もできる。多分そういう事だ」


「……なるほど」


 シオンの言葉にレベッカが頷く。

 確かにそりゃ警戒位する。いくら人数を投入してもシオンには慢心するつもりはないという訳だ。

 ……だけど。


「でもそれでも連中はレベッカの存在に気づけなかった。レベッカの言うとおりその辺は真面目にやってザルって訳だ」


 相手が精霊を捕らえる業者だったなら、精霊が近くにいる事を容易に感知できるだろう。

 相手が誠一を初めとした対策局五番隊の人達や天野といった優秀な魔術だったなら精霊だろうと人間だろうと警戒していたのなら感知される。多分目視で捉えられなくても。

 ……そして連中はそれができなかった。


 そこから読み取れる情報は一つ。


「つまり連中は戦闘のプロじゃねえ。ただ力を持ってるだけの素人だ」


「本職は研究者だ。精霊術の知識や運用方法は普通の人間より持ち合わせていても、立ち回りとかそういうのは得意じゃない。まあそれは僕も対して変わらないだろうけどね」


 とかいいつつシオンはその辺常人より優れてそうだけどな。

 だから生き残っているんだろうし。


「まあとにかくだ。これは間違いなくチャンスだと思う」


 多分向こうが戦闘のプロなら詰んでた。

 だけどそうでないならいけるかもしれない。


「相手がそんな素人なら、不意討ちが通用する」


「不意討ち……ね。涼しい顔で中々酷い事を言うねキミは」


「勝たなきゃ何も始まらねえ。勝ち方なんてどうだっていいんだよ」


「まるで悪役のセリフみたいだけど……まあ、その通りだと僕も思うよ」


 シオンは言う。


「この戦いに勝とうと思えば、相手の無能さが生んでくれた隙にすがりつかないといけない」


「ま、確かにウチもそう思うよ」


 そう言ってレベッカは禍々しい雰囲気を全身に纏う。

 ……暴走する精霊の力を。


「この力を使っても真正面からぶつかれるのは一人が限度だからね」


「え……ちょっと待て。なんだその力……」


 シオンが突然見せられたその力に動揺するような声を出す。

 まあ初見じゃ間違いなく。そしてシオンが精霊の研究者で、そうした力の存在を俺の口頭からしか伝えていないのもあるから余計に驚くだろう。


「レベッカは暴走時の力を今も使えるんだよ。だからまあ、無茶苦茶強い」


「待て、一体どうなっているんだ……」


「まあ今は説明してる時間がもったいねえから、レベッカが無茶苦茶強いとだけ考えてろよ」


「あ、うん……いやエイジ君。正直その力情報だけでも優先的に欲しかったよ。こっちの戦力思った以上に強いじゃないか」


「……これもしかして先言ってたらさっきのやり取り無かった奴か?」


「……いや、結局僕は同じ選択をしたと思うよ。依然不意討ちに成功しても勝率が著しく低い位には戦力差が大きい。これに賭けるならキミ達を逃がした方がいい。そんな戦力があの子やエルを助けようとしているなら尚更だ」


「そうか」


「ああ、そういう訳だ。だからどうやっても今に行き着く」


 そう言ってシオンは俺達に言う。


「だからもう終わった事はいい。今からどう動くか考えよう」


「とりあえず不意討ちは俺とレベッカで行く。シオンは此処に残ってくれないか」


「……了解」


 シオンは文句を言うこともなく頷く。

 シオンも理解しているんだ。自分が動けばどうなるか。

 居場所を探知されている自分が動けばどうなるかを。

 そしてシオンは言う。


「じゃあ不意討ちに成功したら、まともに戦闘になる前に僕の所まで戻って来るんだ。それまでにやれる事はやっておく」


「了解」


 俺達もまた不意討ち後に残った相手とまともに正面から戦えない。

 やるなら少しでも味方の人数が多い方がいい。

 何か対策を施してくれているシオンと共に戦う方がいい。


「じゃあウチ達はなんとか一人は潰してくる」


「その間に僕は三対二で戦える環境を作り出す」


「決まりだな」


 そう言って俺はレベッカに言う。


「じゃあとっとと行動に移そう。レベッカ。案内してくれ」


「わかった。じゃあウチに付いてきて」


「二人とも」


 動き出そうとする俺達にシオンは言う。


「……死ぬなよ」


「ああ!」


「任せて!」


 そう言って俺達は動き出す。

 圧倒的強者を倒すために。


 さあ、作戦開始だ。

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